
(新生イラク警察による建物内掃討のデモンストレーションのようです。
完全装備の米軍に比べると少し頼りなげな感じも・・・
もちろん重要なのは装備より、モラル、熱意、公正さ・・・等々ですが、そこがまた・・・
“flickr”より By DVIDSHUB
http://www.flickr.com/photos/dvids/2966573146/)
【日本企業 イラク油田開発へ】
イラク南部のナシリヤ油田の開発について、新日本石油など日本企業連合が権益の獲得に向け最終調整に入ったことが報じられています。
****イラク・ナシリヤ油田:日本連合、最終調整 イラク側と採掘権交渉*****
イラク南部のナシリヤ油田の開発を巡る交渉が大詰めを迎え、新日本石油など日本企業連合が目指す権益の獲得に向け最終調整に入った。ナシリヤ油田の生産量は日量60万バレルが見込まれ、合意すれば、日本勢が中心となって開発する油田としては、過去最大規模となる。
権益の獲得を目指しているのは、石油元売り最大手の新日石、国際石油開発帝石(INPEX)、プラント大手の日揮の3社による日本企業連合。
イラクは復興資金獲得のため、約40年ぶりに国内の油田・ガス田開発を外資に開放し、ナシリヤ油田の開発には日本勢のほか、イタリアの炭化水素公社、スペインの資源大手が名乗りを上げた。
その後、イラク政府は日本とイタリアの提案に事実上絞り込み、交渉を進めている。
日本企業連合は、製油所や発電所などのインフラ整備や国際協力銀行を通じた金融支援を提案した。
ナシリヤ油田は日量15万バレルで採掘を開始し、2年後には日本の消費量の約1割に当たる日量60万バレルの生産を目指す。
日本勢がこれまで開発した油田としては、ペルシャ湾のカフジ油田の日量30万バレルが最大だった。【8月25日 毎日】
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世界3位の原油確認埋蔵量があるイラクですが、現在は戦乱と施設老朽化のため産油量は日量約240万バレル(2008年)に留まっています。
イラクは最近、復興資金獲得のため、国内の油田・ガス田開発を1972年の石油産業国有化以来約40年ぶりに外資に開放する政策をとっています。
今年6月30日には、油田・ガス田8件の入札が首都バグダッドで行われ、日本勢も参加しましたが、落札企業が決まったのは国際石油資本の英BPと中国の国有石油大手、中国石油天然ガス集団(CNPC)の企業連合が落札したルメイラ油田1件だけでした。
大半の案件では金額面でイラク政府と企業側との隔たりが埋まりませんでしたが、その背景には、不安定な治安に加え、関係法令が未整備で、外資開放への反対論がイラク国内でくすぶるなどリスクのため、企業側が慎重姿勢を示していることがあげられています。【6月30日 共同より】
今回のナシリヤ油田は、6月30日に入札がなされたものとは別の、イラク政府との直接交渉によるものです。
“2年後には日本の消費量の約1割に当たる日量60万バレルの生産を目指す”という大規模開発ですが、どの程度の産出分を日本に回せるかなど不透明な部分が残されているとも言われています。
【防御壁撤去中止】
こうした開発が軌道に乗れば、日本にとっても喜ばしいことですが、最大の問題はイラクの治安です。
6月末に実施された駐留米軍戦闘部隊の都市部撤退を受けて、来る総選挙に向けて治安回復を誇示したい狙いもあってか、マリキ首相はバグダッドの不安定な治安の象徴的存在だったコンクリート製防護壁を9月半ばまでに撤去する指示を出しました。
(8月9日ブログ「イラク マリキ首相、宗派間を分断する防護壁撤去を指示 」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090809)
しかし、今月19日には首都バグダッドで政府機関を標的にしたとみられる連続爆破テロが発生、イラク赤新月社によると死者数は20日までに100人を超え、負傷者も約700人に達しました。
一連の爆発は午前10時ごろからバグダッド北部の財務省付近で始まり、数分後に警備の厳重な「グリーンゾーン」近くの外務省近くでも起きています。他の政府・軍施設周辺に迫撃弾が着弾したとの報道もありました。
防護壁撤去の発表後も市内では爆弾テロが相次ぎ、市民からは時期尚早との指摘も出ていたこともあって、市民からは過去1年半で最悪のテロを許した政府に対する厳しい批判の声が上がり、6月末で都市部から撤退した駐留米軍の復帰を求める声すら聞かれるとも。
市民だけでなく、ハシミ副大統領も時期尚早だったとマリキ首相を批判するなど、政権内部からの批判も出ていました。
こうした事態に、20日、マリキ首相は防護壁の撤去中止を決定しました。
【治安維持能力への疑問】
また、イラク治安当局は、テロ発生現場の治安担当の計11人を拘束、爆弾攻撃に使われたような大型トラックがバグダッド中心部に近づくことは規則により禁じられており、これらのトラックがどのように中心部に入ったのかなどついて取り調べを開始しました。
テロの容疑者が「わいろを渡して検問所を通過した」と供述した【8月24日 毎日】とか、ジバリ外相の「テロリストグループと治安部隊の間になんらかの共謀があった」との発言【8月23日 AFP】なども報じられています。
いずれにしても、イラク治安当局の能力に大きな疑問が投げかけられています。
24日には、シーア派が多いイラク中部クート近郊で2台の小型バスに仕掛けられた爆弾が爆発し、少なくとも20人が死亡(地元州・警察筋では11名)、10人が負傷しています。
こうした治安再悪化の兆しに、米軍からは一時的な共同警備の提案がなされています。
****イラク:治安悪化 米軍の都市撤退に時期尚早論****
7月以降、イラクでは北部を中心にイスラム教シーア派や少数派住民を標的にしたテロが連続。これを受け、イラク駐留米軍のオディエルノ司令官は17日、北部地域の警備強化のため、アラブ人主導のイラク軍と、クルド自治政府の治安部隊、米軍の3軍による一時的な共同警備を提案した。
領土や石油収入配分をめぐり対立するアラブ人とクルド人の間の信頼醸成措置の側面もある。実施には、駐留米軍地位協定に関しイラク側との調整が必要になるとみられる。
ロイター通信などによると、中央政府のマリキ首相とバルザニ自治政府議長には説明済みで、前向きの反応を得ているという。9月早々に具体的協議に入る予定だ。
オディエルノ司令官によると、共同警備対象はニネベ県の市町村や、アラブ人、クルド人、トルクメン人の緊張関係が続く石油都市キルクークなど。任務はイラク側が主導し、米軍は顧問的役割を担うことになるという。【8月24日 毎日】
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【イラク版政界再編】
政局がらみでは、シーア派中心の与党会派が分裂したことも報じられています。
****イラク与党会派が分裂 マリキ首相、総選挙控え難局*****
イラクのマリキ首相を支えてきたイスラム教シーア派中心の与党会派が分裂し、24日、首相の率いるダワ党を含まない新たな統一会派を発表した。来年1月に予定される国民議会選挙をにらんだ会派の再編で、マリキ氏は難しい政局運営を迫られることになった。
発表された新会派「イラク国民同盟」は、最大与党のイラク・イスラム最高評議会(SIIC)、反米強硬派のサドル師派などシーア派政党に、スンニ派や宗教色の薄い政党など計11の政党と無所属議員らで構成される。
24日の記者会見でSIICのハムーディ議員は、前日にマリキ氏との協議が決裂したと明らかにする一方、ダワ党の参加に向けた話し合いを続ける意向も示した。ただ、関係者によると、SIICはダワ党の求める首相ポストを拒否したといい、首相職にこだわるマリキ氏が妥協する可能性は小さいとみられる。
新会派は国会審議での対応方針は明らかにしていない。しかし、ダワ党と割れたまま選挙が近づけば、マリキ氏は法案成立への協力が得られなくなる可能性もある。(中略)
背景には、イランの影響の強いSIICやサドル師派に対するマリキ氏の警戒感や、中央政府の権限強化を目指すマリキ氏と、シーア派住民の多い南部に連邦政府をつくりたいSIICの思惑の違いがある。
マリキ政権がSIIC中心の政権に代わった場合、イランの影響力が高まるとの懸念もささやかれる。【8月24日 朝日】
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宗派を超えた「強い指導者」像を売り込んで1月の地方選挙に圧勝したマリキ首相ですが、防護壁撤去中止は、マリキ首相の狙う「強い指導者」像に傷をつけることになりました。
米軍との共同警備となると、ますますイメージが低下します。さりとて、このままテロが頻発すればそれどころではない事態にもなりかねません。
イラクの治安が保たれるのか、政局混乱はないのか、イランの影響は?・・・懸念材料はつきないようです。