孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「ナイジェリアのタリバン」を生んだ“良き統治”の欠落

2009-08-23 11:15:13 | 国際情勢

(ナイジェリアでは昨年11月に中部プラトー州で、イスラム・キリスト両教徒の衝突によって300人以上が死亡する暴動がありましたが、その暴動で焼き討ちされたJosの教会跡で集会を再開した人々
“flickr”より By MikeBlyth
http://www.flickr.com/photos/blyth/3220293194/)

【ビアフラ戦争の残影】
豊かな石油資源に恵まれながら、そのことが国内での利権争い・腐敗・内戦のもとになり、混乱から抜け出せない事例のひとつが、アフリカ最大の人口を抱えるナイジェリアでしょう。
古いところでは、67年、部族対立に油田権益・経済格差・植民地時代からの社会格差などが絡んだビアフラ戦争の悲劇があります。
腹部だけが異常に膨らんだ餓死を待つ子供の写真は、アフリカのイメージを人々に固定させるほどの衝撃がありました。

今、アフリカが“腹部が膨らんだ子供”のイメージから抜け出した展開を見せているのも事実であり、そうしたかつてのイメージでアフリカを見ることへの批判もありますが、一方で、未だそのイメージの延長線上にあるような悲劇と決別できていないのも事実です。

【南部ニジェール川デルタの反政府活動】
ナイジェリアはビアフラ戦争後も、世界有数の石油資源を有しながら、部族対立、利権争い、腐敗・汚職による混乱が続いています。
国際的に注目されているのは、南部ニジェール川デルタの油田地帯で続く反政府武装勢力の行動です。
石油施設への攻撃が激化することで原油価格の国際相場が上昇する場面もしばしば見られます。

****石油施設攻撃、来月再開へ=武装組織が宣言-ナイジェリア****
ナイジェリアの反政府武装組織、ニジェール・デルタ解放運動(MEND)は22日、同国内の石油・ガス関連施設への攻撃を来月15日に再開すると宣言した。ロイター通信が伝えた。
MENDは7月15日、組織指導者が政府の恩赦で釈放されたのを受け、60日間の期限付きで石油施設への攻撃を停止。しかし、この日の声明で「政府との交渉で組織分断工作があった」と主張、期限切れ後に攻撃を再開するとしている。【8月23日 時事】
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【「ナイジェリアのタリバン」】
最近、これとは別の、北部で起きた「ナイジェリアのタリバン」と治安当局の衝突が報じられていました。

*****ナイジェリア:「タリバン」と衝突激化…700人死亡*******
西アフリカ・ナイジェリア北部で先月以降、イスラム系過激派武装勢力と治安当局の衝突が激化、AP通信によると、1日までに少なくとも双方の700人が死亡した。政府側は同勢力を制圧したと発表、衝突は沈静化に向かっているが、残存勢力が活発化する可能性もあり、緊張が続いている。

「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪)」を名乗る武装勢力は欧米の教育や価値を否定。ナイジェリア全土にシャリア(イスラム法)の導入を求め「ナイジェリアのタリバン(アフガニスタンの反政府武装勢力)」と呼ばれている。
衝突は先月26日、北部バウチの警察署襲撃から始まった。警察によるボコ・ハラムのメンバー逮捕がきっかけとみられている。その後、衝突は近隣の北部各州へと急速に拡大。ボコ・ハラムの拠点があるボルノ州マイドゥグリでは特に激化した。
政府側は29日、ボコ・ハラムの拠点を制圧したと発表。さらに、ボコ・ハラムの指導者モハメド・ユスフ師が30日、拘束後に殺害され、混乱はいったん収束した。
しかし、マイドゥグリなどではその後も散発的な衝突が発生。指導者の殺害に反発する残存勢力が再び攻撃を仕掛ける恐れも残っている。【8月2日 毎日】
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7月28日に目にしたニュースでは「ナイジェリアでイスラム系組織が治安部隊襲撃、80人以上死亡」というものでしたが、国連の潘基文事務総長の「人命の不必要な損失と資産の破壊を非難する」との声明(28日)にもかかわらず、報じられる犠牲者の数は150人、250人、300人、600人・・・と日を追うごとに膨れ、上記記事にあるように700人にまでになりました。
“700人”という死亡者は、イラクやアフガニスタンでも、短期の戦闘としてはあまりない数字です。
戦闘というより、殲滅に近いものだったのでは・・・と思わせます。

【良き統治】
もともとナイジェリアでは北部にイスラム教徒、南部にキリスト教徒が多く住み、宗教間の緊張が続いています。昨年11月には中部プラトー州で、両教徒の衝突によって300人以上が死亡しています。
「西洋の教育は罪」を意味するボコ・ハラムは、「ナイジェリアのタリバン」と呼ばれており、西洋式の学校教育を禁じ、厳格なシャリア(イスラム法)を全土で施行するよう要求しました。

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ナイジェリアでは、一日1.25ドル未満で生活する貧困層の割合が70%を超える。その一方で、ごく一部の裕福で腐敗した政府関係者は法外に贅沢な生活を送っている。
ボコ・ハラムが蜂起したナイジェリア北部ほど貧富の差が激しい地域はない。大卒の若者でさえ仕事はほとんどなく、それが北部の人々が新たな政治システム、とりわけシャリア法による統治を選ぶ一因だ。
かつては活気に満ちていた農業や繊維工業はこの10年で衰退し、ナイジェリア南部で発見された油田が政府の主要な収入源となった。北部の人々がその恩恵を受けることはなかった。
石油で稼いだ巨額の富は公共サービスや雇用創出、開発事業に回すよう法律で定められているが、実際には政府関係者の懐に消えた。ナイジェリアの元財務大臣は07年、本誌に対して270億ドルが政府の金庫から消え失せたと認めた。 
人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは07年、ナイジェリアの実態は「民主的統治国家というより犯罪組織に近い」と語った。その状態は2年経った今も変わっていない。失業や経済停滞、汚職、腐敗した司法などの要因が相変わらずはびこっている。「広い意味ではナイジェリアという国家が破たんしつつある」と、ブリュッセルのシンクタンク、国際危機グループのリチャード・モンクリーフは言う。【8月5日 Newsweek】
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上記のような“良き統治”が失われた社会で、“厳格な復古主義を唱えるサウジアラビアのワッハーブ派や、エジプトのムスリム同胞団は、90年代半ばに進出。ナイジェリアでイスラム法の影響力が着実に増大している(この10年間で36州のうち12州がシャリア法の一部を採用した)”【同上】とイスラム主義が拡大しています。
ボコ・ハラムもそのような流れで生まれた組織ですが、タリバンとの実際的なつながりはなく、“彼らが「タリバン」を名乗ったのは単に注目を集めたかったからだろう。”と言われています。

しかし、“良き統治”が行われず、腐敗・汚職が蔓延するなかで、人々がイスラム原理主義に救いを求める・・・という構図は、まさにアフガニスタンでのタリバンの勢力拡大と全く同じ土壌です。
ソマリアで見られている無政府状態も同じです。
国家破綻という点ではコンゴも同様でしょう。

オバマ米大統領は7月11日、ガーナの首都アクラで「発展は良い統治にかかっている」と演説し、民主主義が真に根付くことこそが貧困問題解消など、発展に向けた基礎になると訴えました。
基盤となる“良き統治”を行う政府が存在しなければ、国際社会による平和維持活動といった外部が主導して和平を築く試みもうまくいかないことは、“オバマのアフガニスタン”でも実証されています。
しかし、ではどうすれば・・・となると、出口の見えない現実に立ちつくしてしまいます。

コメント
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