(08年11月3日、南部カンダハル州で米軍機が民家を空爆。子供や女性を含む住民37人が死亡しました。
カルザイ大統領は5日、「爆撃されたのは結婚式会場だった」と非難。「米国の新大統領にまず求めたいのは、空爆による住民の犠牲を終わらせることだ」と述べ、オバマ次期(当時)米大統領に攻撃の抑制を強く求めました。
写真は、この結婚式誤爆事件で負傷した少女 “flickr”より By noodlepie
http://www.flickr.com/photos/noodlepie/3006759546/)
【日系企業が標的か?】
25日夜、アフガニスタン南部のカンダハルで大規模な爆弾テロがあり、内務省によると、この攻撃では民間人43人が死亡、65人が負傷しました。
現場付近には、アフガン情報当局の事務所や国連施設のほか、日系の建設会社「サイタ・アフガニスタン」の事務所があって、居合わせたアフガン人とパキスタン人の従業員数人が死傷しています。
AP通信は、同社が、タリバンの支配地域で道路建設事業を最近受注したため、標的になった可能性がある、と伝えています。【8月26日 読売より】
日系企業が標的になったのかどうかは定かではありませんが、戦乱のアフガニスタン、それもタリバン“発祥の地”カンダハルで日系企業が営業しているということに少々驚きました。
【「多くの国民が死亡したテロを非難する」】
上記記事では“犯行声明などはないため、事実関係は不明だが、カンダハル市周辺では、かつて本拠を置いた旧支配勢力タリバンによるテロ事件が頻発しており、タリバンによる犯行の可能性が高い。”としていますが、タリバンは犯行を否定しています。
****アフガンのテロ、タリバンが犯行否定*****
アフガニスタン南部カンダハル市で25日夜に起きた爆弾テロ事件で、旧支配勢力タリバンのユシフ・アフマディ報道官は26日、本紙の電話取材に、「我々はカンダハルの事件にかかわっていない。多くの国民が死亡したテロを非難する」と犯行を否定した。
ただ、今回のテロでは住民に多数被害が出ており、国民感情を考慮したタリバンが犯行を否定したとする指摘も出ている。【8月26日 読売】
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興味深いのは、“住民に多数被害が出ており、国民感情を考慮したタリバンが”という部分です。
【「敵の殲滅」より「民間人の安全確保」】
アフガニスタンでは、米軍などの空爆を中心とした攻撃が多大の民間人犠牲者を生んでおり、このことがアフガニスタン国民の反米感情を高め、米軍の作戦遂行を困難にしているとの考えがあります。
民心が離反した外国勢力が勝利を得ることはできません。
そのため、オバマ政権では、「民間人の被害を最小限に抑えること、民間人の安全を守ること」を前提とした新たな軍事作戦に転じています。
「民間人の犠牲者を最小限に抑えること、民間人の安全を守ること」を第一とする軍事戦略においては、「民間人の安全確保」を「敵の殲滅、タリバン戦闘員たちの掃討」より上位に位置づけているそうです。
*****民間人の安全を第一に掲げる新戦略*******
アフガン民衆のアメリカに対する敵意を和らげ、アフガニスタンに行政機関を作り経済を立て直す機会を与え、30年間にわたる戦争の痛みからこの国を癒す。それにより「タリバン優勢」の状況を変えていくことを目的に、オバマ大統領と彼の将軍たちは根本的に戦略を転換させている。
「われわれが理想としているのは、タリバンが出ていかなくてはならなくなった地域を無血で平定していく状況に近いものだ」とマクリスタル司令官は「TIME」誌とのインタビューで述べている。そして、こう発言した3日後に、現地の米軍及びNATO軍に対して新たな指令を通達した。
「われわれはタリバンを何人殺したかという基準で作戦を続けていてもこの戦争に勝利することはできない。アフガン人民をタリバンの武装反乱勢力と引き離すことができるかどうかが重要なのだ。そしてそのためには、各部隊指揮官たちが武力行使の原則を見直し、とりわけ住宅地域をはじめ民間人の犠牲者が出る恐れのある地域での近接航空支援を制限することだ」との指令を出している(「TIME」July 10)。
【8月21日 日経ビジネス 菅原 出 「タリバンは今や勝利しつつある」のか】
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実際、7月2日に4000名の海兵隊員と650名のアフガン軍をアフガン南部のヘルマンドに送り込んで行った大規模軍事作戦において、米軍は大砲を使用せず、航空機からの空爆も一切行われなかったそうです。
【民衆の中に身をさらす】
“これまでであれば、攻勢作戦を行う米軍は圧倒的な火力を用い、民間人の犠牲者もいとわずに激しい攻撃を仕掛け、作戦が終わると郊外の大規模で安全な基地に帰っていくという軍事作戦を繰り返していた。しかし、この作戦では民間人の被害者ばかり増えて、軍事作戦が終わった後の地域にはすぐに地下に潜っていたタリバン武装反乱勢力が戻ってきてまた支配下においてしまう。反米感情だけが強まり、タリバンに対する支持が高まるばかりだった。そうした不毛な軍事作戦を繰り返してきた。”【同上】
新たな軍事作戦においては、米軍は市内のあちこちに小さな拠点を築いてそこに留まり、治安維持に努める作戦をとっています。
兵士は安全な装甲車両の中から出て、現地の人々と触れ合ってコミュニケーションをとることから始めなくてはなりません。
これは、2007年初頭からイラクにおいてペトレアス駐イラク米軍司令官がとった作戦と同じ考えだそうです。
“「敵」に同情的な民衆の中に身をさらすわけだからその分リスクも高く、初期の段階では米軍側に大きな被害が出た。イラクの時も2007年の最初の数ヶ月間、米兵の犠牲者は急増し、このペトレアスの作戦は無謀ではないかと思われた。同様にアフガンでも新戦略の導入後米兵死者数が急増しているという訳である。”【同上】
【タリバンの「マニュアル」】
一方、タリバン側も「一般市民の犠牲を最小限に抑えるように」とマニュアルの中で指導していることが明らかになっています。
タリバンのスポークスマンは最近AP通信社に対して、60ページのブックレットを2万部コピーしてタリバンの戦闘員に配布したが、その中で「民間人の犠牲者を出さないように注意を喚起した」と述べているそうです。
(実際の関与があったのかどうかは別として)43名の民間人が犠牲となった25日のカンダハルのテロも、タリバンの“マニュアル”にも反するものとなります。
今回テロについて、タリバン側は「政府のプロパガンダの可能性もある。誰の犯行かを解明するのは政府の職務だ」とも述べています。
アフガニスタンの有力選挙監視団体「アフガニスタン自由公正選挙基金」は22日、カンダハルで、大統領・地方議員選の投票を済ませた有権者2人が指を切り取られたと発表しています。
同団体の選挙監視員が投票日の20日午後、投票したことを示すインクがついた指を切り取られた2人の有権者を目撃したそうです。
二重投票防止のためのインクがついた指を切り落とす・・・というのは、選挙前からタリバンによって脅迫されていたところですが、これについてもタリバンの報道官は犯行を否定しているとか。【8月23日 AFP】
米軍とタリバンのどちらがアフガニスタン民衆の支持を獲得できるのか・・・勝敗の行方を左右する重要な決め手となってきています。