孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  ロシア大統領が公開書簡で「反ロシア的立場」を非難

2009-08-17 21:04:05 | 国際情勢

(ウクライナの首都キエフにある“ホロモドール”記念碑 “ホロモドール”は、スターリン・ソ連邦下の1932年から33年に、拙速な農業集団化政策などによって、ウクライナ地方で引き起こされた数百万人規模の犠牲者を出した大飢饉のことです。ウクライナ政府はこの大飢饉が「ウクライナ人に対するジェノサイド」であったと認定しています。
一方、ロシアは「ジェノサイドではない」と反発しています。
両者の反目は、単に最近のパイプラインだけではなく、歴史的に奥深いものがあります。
“flickr”より By Andrew J.Swan
http://www.flickr.com/photos/andrewjswan/3515428333/)

【「非友好的な内容に失望した」】
親欧米路線をとるウクライナ・ユーシェンコ大統領とロシアの対立は今に始まった話でもありませんが、ロシアのメドベージェフ大統領がウクライナを非難する公開書簡を送り、関係が改善しない限りウクライナに新たな大使を赴任させないとの“圧力”をかけているそうです。

****親露強制「大使送らぬ」ウクライナに“干渉”書簡*****
ロシアのメドベージェフ大統領が隣国ウクライナのユシチェンコ政権を「反ロシア的立場」を理由に強く非難、同国に新大使を赴任させない異例の方針を示した。来年1月に予定されるウクライナ大統領選で親露派政権を樹立させるべく、露骨な“干渉”に乗り出した形だ。

メドベージェフ大統領はユシチェンコ大統領あての公開書簡で「両国関係の緊張は極限に達している」と指摘。「新大使の派遣時期は関係の改善度合いによる」とし、次期指導部の親露路線を促した。これに対し、ユシチェンコ大統領は「非友好的な内容に失望した」との返信を公開した。

ロシアは2004年の前回大統領選で親露派候補に肩入れしたものの、「オレンジ革命」で親欧米派・ユシチェンコ大統領の誕生を許した。その後の両国関係は悪化の一途をたどり、06年と09年にはロシアがウクライナ向け天然ガスの供給を停止する事態にまでいたっている。最近はウクライナによるグルジアへの武器輸出やウクライナ南部に駐留する露黒海艦隊の処遇、ソ連時代の歴史認識などをめぐっても対立が深まっており、ロシアは次回大統領選で「オレンジ革命」の雪辱を果たしたい思惑だ。

一方、メドベージェフ大統領は10日、軍の国外展開を想定した国防法の改正案を下院に提出した。法案は「自国民保護」などを名目とした国外派兵を合法化するもので、昨夏のグルジア侵攻を追認する内容だ。ウクライナは東部や南部にロシア系住民を多く抱え、西部を地盤とする親欧米派には警戒感が強まっている。
ウクライナでの世論調査によると、親露派のヤヌコビッチ地域党党首が支持率24%でリード。親欧米派のティモシェンコ首相(支持率14%)とヤツェニュク元最高会議議長(同10%)が続き、ユシチェンコ大統領の支持率は4%。【8月15日 産経】
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ロシアとウクライナは、直接的には天然ガのスパイプライン問題での衝突がしばしば表面化しますが、この件についてメドベージェフ大統領は公開書簡で、「われわれはウクライナ政府が、まずエネルギー部門において、絶えずロシアとの伝統的な経済関係を断絶しようとしているという印象をもっている。その結果、事実上連動したネットワークとしてロシアやウクライナほか多くの欧州諸国にガスを供給しているパイプラインについて、ロシア諸国による安定した利用が危険にさらされている」と、ウクライナを非難しています。【8月11日 ロイターより】

これに対し、ウクライナのユーシェンコ大統領は政府のウェブサイトに出した声明で「ウクライナが(ロシアとの間で)友好、パートナーシップの原則から逸脱したことはない」と反論、「エネルギー分野でロシアとの現実的な関係発展を続ける」と強調しています。
また、ウクライナがグルジア支持を明らかにしたことへのロシアからの批判に対しては、「ウクライナの立場は国際社会のほぼすべての国と一致する」と主張しています。【8月14日 毎日より】

【「アメリカに見捨てられるのでは」】
一方、こうしたロシアからの圧力、及び、オバマ政権下で米ロ関係が改善に向かうという世界情勢にあって、ウクライナやグルジアには「アメリカに見捨てられるのでは」との懸念も強まっています。
そうした不安をぬぐうべく、7月21,22日にはアメリカ・バイデン副大統領がウクライナとグルジアを訪問しています。
バイデン副大統領はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟支持を改めて表明。「どの国と同盟を結ぶべきかを他国にあれこれ指示する権利は認めない」「ウクライナを犠牲にする形でロシアとの関係再構築を進めることはない」と述べ、支援の継続を約束すると同時にロシアを牽制しています。
これに対し、ウクライナ・グルジアのNATO加盟は認められないロシアは、米ロ関係改善を基調としながらも両国の動きに神経をとがらせており、ロシア外務省報道官は「同盟国を選ぶのは自由だが、別の国の国益を損じることがあってはならない」と警戒感を示しています。【7月22日 朝日より】

【CIS 有名無実化】
EUが「東方パートナーシップ」を掲げて旧ソ連の各国との関係強化を図っているのに対し、ロシアも関係国との関係強化を図りたいところですが、旧ソ連圏12カ国でつくる独立国家共同体(CIS)におけるロシアの求心力低下が続き、CISは有名無実化しつつあります。
グルジア紛争でグルジアはCIS脱退を表明していましたが、今月18日に事務的な脱退手続きが完了して正式脱退となります。
ウクライナも上記のようなロシアとの対立が深まる状況です。

メドベージェフ大統領は7月にモスクワで開催されたCIS首脳会議に10カ国を招待(招かれなかったのはグルジアと、あとひとつはウクライナでしょうか?)しましたが、半数の5カ国首脳が欠席したそうです。
一時はロシアとの関係も強かったベラルーシのルカシェンコ大統領に至っては、首脳会議を欠席してバイクのイベントに出席したとか。
南オセチアとアブハジア自治共和国についても、ロシアの働きかけにもかかわらず、CIS加盟国による両地域の独立承認は行われていません。
「他の加盟国は、グルジアの運命を見届けるため脱退を見合わせている。グルジアがアメリカの後ろ盾を得れば、ウクライナやベラルーシも後に続く可能性がある」とも。【8月16日 宮崎日日】

【「オレンジ革命」の行方】
ウクライナ国内に話を戻すと、上記記事最後にもあるように、ユーシェンコ大統領は支持率がひと桁台と、経済危機と政治混乱で国民の支持を失っています。
ティモシェンコ首相は“親欧米”とはなっていますが、一時はロシア・プーチン首相との接近とか、親露派ヤヌコビッチ地域党党首との“大連立政権構想”などもあったように、状況次第では“柔軟な”対応を見せることもあります。
なお、ティモシェンコ首相とヤツェニュク元最高会議議長は、ユーシェンコ大統領とともに04年の民主化運動「オレンジ革命」を実現させた同志でもありました。
次期大統領選は来年1月17日に行われます。
ウクライナで親欧米政権が続くのか、親露政権に転じるのかは、EU・アメリカとロシアの綱引きにも大いに影響します。

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