孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  アフガニスタン戦争への厭戦気分 イラク参戦の検証

2009-08-01 13:52:04 | 国際情勢

(09年4月24日 カンダハルの基地で、兵士の無言の帰還を見送るカナダ軍
“flickr”より By lafrancevi
http://www.flickr.com/photos/85013738@N00/3630559004/

カナダ軍はアフガニスタン南部のカンダハル地方に約2500人の将兵が駐留していますが、タリバンの拠点であるこの地での犠牲者は02年以来、125人にのぼっています。
02年当時は、カナダ軍のアフガン派兵に対する反対派は20%程度でしたが、最近の世論調査では54%に増加しているそうです。【7月16日 AP通信 
http://www.google.com/hostednews/ap/article/ALeqM5hS4srH-zyrr2hlbYAkZPLfrB11PgD99FQKUG1
昨年3月、カナダ議会はアフガニスタンで国際治安支援部隊(ISAF)に参加しているカナダ軍の駐留期限を2011年まで延長する方針を可決しましたが、派遣延長は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の支援強化を条件としており、NATOの協力が得られない場合は、現在の駐留期限が切れる2009年に軍を撤退するとしています。
今年3月、ハーパー首相は「アフガニスタンでのタリバンの攻勢には勝てない。カナダは明確な出口戦略なしに増派するつもりはない」とCNNインタビューで語っています。
また、「アフガニスタンは、戦いを遂行して統治を改善していく、外国の傀儡ではないアフガニスタン自らの政府を必要としている」と、外国勢力関与の限界を強調しています。)

【「剣の一撃作戦」】
イラクからアフガニスタンにテロとの戦いの軸足を写し、8月の大統領選に備えアフガニスタンに約2万1000人を増派するアメリカは、現在5万6千人のアフガン駐留米軍を秋までに6万8千人に拡大する方針だと言われています。

7月2日からは、タリバンの拠点地域である南部ヘルマンド州で、海兵隊約4000人を投入し大規模な掃討作戦「剣の一撃作戦」を始めています。
アフガニスタンは世界全体のアヘンの9割を生産し、ヘルマンド州はうち6割を占める麻薬の大生産地でタリバンの資金源となっています。
ヘルマンド州には06年以降、9000人規模の英軍と多国籍軍が駐留していますが、砂漠と山岳地帯という厳しい地理的条件もあり、タリバンの勢力拡大を抑えることができず、13地区のうち4地区が支配されている状況と言われています。

掃討作戦は、タリバンの資金源根絶のほか、武装勢力のパキスタンとの往来を阻止する狙いもあるとみられています。 また、8月20日のアフガン大統領選を前に、同州を制圧することで形勢を変えたい思惑もあるようです。
なお、米軍によると、作戦の主眼はタリバン殺害ではなく、「タリバンや武装勢力から住民を守ること」に置かれているとのことです。
地元住民との関係を構築しつつタリバンを掃討するとの意図ですが、米軍の空爆などで住民に犠牲者が多く出ている南部では、米軍への地元住民の不信感は強いものがあります。【7月4日 産経より】

【イラクを上回る犠牲者】
この「剣の一撃作戦」開始によって、アメリカやイギリスなど駐留外国軍の7月の死者数は、15日時点ですでにこれまで最も死者数の多かった昨年6月と8月の46人に並び、過去最多になっています。
9.11の報復戦争でもあるアメリカはともかく、アメリカに協調してヘルマンド州に9000人を展開する英軍の7月の死者数は27日時点で22人に達し、01年にアフガニスタンでの戦闘に参加して以来の月間最多となりました。
これまでの英兵の総死者数は191人にのぼり、イラクでの英軍死者数179人を上回っています。

こうした事態に、イギリス国内では、野党保守党が死者増加はブラウン政権の不手際だとして批判を強めているほか、戦いの意義を疑問視する声も高まっているようです。【7月28日 共同】

****過半数が「アフガン即時撤退を」=死者急増で厭戦ムード-英世論調査*****
28日付の英紙インディペンデントが掲載したアフガニスタン戦争に関する世論調査結果によると、駐留英軍の即時撤退を望む回答が過半数に上った。イスラム原理主義勢力タリバンとの戦いで英兵の死者が最近急増していることが、国民の厭戦(えんせん)気分を強めているようだ。
それによると、58%が「タリバンを軍事的に打ち負かすのは不可能」、52%が「英軍は直ちにアフガンから撤退すべきだ」と回答した。調査は24~26日、成人1008人を対象に行われた。【7月28日 時事】
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事態を憂慮するアメリカは、クリントン米国務長官が英外相と会談して、米英の結束強化を求めています。

****アフガンでの連携強化、米英外相会談で確認******
クリントン米国務長官は29日、国務省でミリバンド英外相と会談した。
会談後の共同記者会見で長官は、「アフガニスタンに展開している英軍の勇気と献身、犠牲に敬意を表する」と述べ、米英がアフガンの平和と安定、国際テロ組織アル・カーイダの掃討に向け、連携をより緊密化させていくと強調した。
ミリバンド外相も、「米英は(アフガンでの戦いに)一緒に身を投じ、一緒にやり抜く」と断言した。
英国はアフガンで米軍に次ぐ約9000人の兵力を投入しているが、最近の英兵死者数の増加に伴い厭戦気分が広がりつつある。会談は、英国内世論に対し、米英の結束を改めて誇示してアフガンでの対テロ戦争への理解を求めた格好だ。【7月30日 読売】
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【イラク総括 ブレア前首相も召喚】
イギリスは、イラクでは米軍に次ぐ最大4万6000人の部隊を送り込み、179人の犠牲者を出して4月末に作戦を終了、約4000人の部隊を撤収しています。
このイラク参戦に関する総括とも言える委員会審議が7月30日始まっており、参戦を決断したブレア前首相も召喚される予定です。

****米以外の全部隊撤収 英では参戦検証の独立調査委 イラク多国籍軍 幕*****
イラクの多国籍軍に参加していた米軍以外の全部隊が31日までに撤収した。オバマ米政権は、現在イラクに駐留する米軍13万人を2011年末までに完全撤退させる方針で、今後の治安はイラク国民の手に委ねられる。多国籍軍が名実ともに姿を消すなか、英国ではイラク戦争参戦を包括的に検証する独立調査委員会が始動。ブレア前首相の召喚も予定されており、ブッシュ前米大統領と二人三脚で遂行したイラク戦争の是非が改めて問われることになる。

2003年に始まったイラク戦争にはブッシュ大統領の呼びかけに応じ、「有志連合」として計38カ国が参加した。イラク情勢の悪化で撤退する国が相次いだが、米軍の増派で治安は改善。昨年末に多国籍軍駐留の根拠になっていた国連安全保障理事会決議の期限が切れ、日本も含め大半の国が撤収した。(中略)

英国では、最大の開戦理由となった大量破壊兵器が見つからなかったため、世論の反対を押し切って参戦したブレア前政権への不信感が根強く残っている。
7月30日に始動した独立調査委員会(チルコット委員長)は、米中枢同時テロ直前の2001年夏から今年7月末までを対象に、参戦に至った経緯や占領政策などを1年がかりで検証する。遅くとも2011年までに報告書を作成する。

ブラウン首相は当初、同委員会の審議を非公開にする方針だったが、戦死した兵士の遺族から批判が相次いだことや、ブレア前首相が非公開にするよう要請していたという疑惑も浮上。このため、審議内容は安全保障にかかわる場合を除き、原則公開されることになった。
ダナット陸軍参謀総長は30日、英国際戦略研究所(IISS)で講演し、「イラク戦争は民衆の中で、民衆のために行われた。英軍は治安改善に貢献したが、イラク戦争を省みてアフガニスタンでの任務に生かす必要がある」と話した。【8月1日 産経】
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チルコット委員長は、「将来同じような状況に直面した場合、時の政府が国益のために最善の方法で対処できるよう教訓を学ぶ」と調査目的を説明しています。【7月30日 時事】
イラク参戦からどのような“教訓”が得られ、アフガニスタンにどう生かされるのか注目されます。

イラク特措法により南部サマワを中心に自衛隊を派遣し、アフガニスタンにも給油活動で関わる日本についても、関与に反対する立場もあれば、関与の不十分さを批判する立場もありますが、イギリスのようなきちんとした総括の動きはないようです。別にイラク・アフガニスタン問題に限りませんが。


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