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世界の片隅から、愛をささやいてみたり @goo

不死鳥たち

2013年10月09日 | 本と雑誌
シャーロック・ホームズが、作者本人がうんざりした(!)せいで、
ライヘンバッハの滝にたたき落とされ、
しかし、多くのファンの熱望で、不死鳥のごとく復活した、
というのは有名な話ですよね(ですよね?)


似たような目に遭っているのが、<87分署>のスティーブ・キャレラ刑事。
この人は、とある作品で撃たれて、ラスト一行で命を落とす運命でした。


    神 空にしろしめす。
    すべて世はこともなし。
    しかし、スティーブ・キャレラは死んだ。


という風に(と、解説で読みました)。
これはこれですっごく印象的でいいラストだとは思います。
作者のエド・マクベインは、群像劇が書きたかったので、
キャレラの人気が突出しだしたのが苦になったらしいのですね(と、解説で読みました)。
しかし、原稿を受け取った編集者が猛反対したため、
マクベインは、渋々最後の一行だけ削ったんです。
「キャレラが助かった」とは一言も書いていないのですが、
「すべて世はこともなし」というブラウニングの詩のおかげで、
「ああ、助かったんだな」と読者は思うんですよね。なんてうまいんだ。


そして、その後他の刑事たちが殉職しても、
キャレラは結構長生きしていたはずです。


小説の登場人物は、作者だけのものではなくて、
編集者やファンによっても生かされているんだなあ、と改めて思うのでした。


ロバート・ブラウニングのこの詩は「春の朝」。
上田敏の名訳詩集『海潮音』に載っています。
萩尾望都『ポーの一族』の「小鳥の巣」でも、印象的に引用されています。


<87分署>の思い出は >>> こちら
 


コメント
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