Con Gas, Sin Hielo

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「ラストナイトインソーホー」

2021年12月18日 23時40分28秒 | 映画(2021)
わが国に置き換えれば「昨夜歌舞伎町で」、それは怖いでしょ。


主人公は、英国の田舎町からデザイナーを夢見てロンドンへやって来たエリー。繁華街ソーホーの一角に部屋を借りて一人住まいを始めた彼女は、毎晩知らない女性の夢を見るようになる。

女性の名前はサンディ。彼女が生きるのは60年代、エリーが憧れている時代のロンドンだ。ブロンドの髪に大きな瞳と華やかな見た目のサンディは、ショウビズ界でのデビューを目指して自らを積極的に売り込む。

夢の中でサンディとエリーは一体化していて、エリーはサンディの身に起こることを追体験する。ショーパブで働く女性を束ねるジャックという男に気に入られ気分が高揚するも、いざ舞台に上がれば脇役で男性の好奇の目に晒される不本意な役ばかり。次第に壊れてゆくサンディに引きずられるようにエリーの精神も崩壊へと向かう。

映画は、エリーが生きる現代のロンドンと、サンディが生きる夢の世界を頻繁に行き来するが、特に夢のパートにおいて、流れる音楽や、演者たちが来ている洋服、再現された街並みが非常に洗練されている印象を受けた。

時々テレビで、昭和の歌謡曲や家電といった文化に傾倒している若い人を見ることがあるが、昔のものがカッコいいというのは、かなり多数派の共通認識なのではないかと思う。

しかし、それでは60年代に戻って暮らしたいかというと普通はそうはならない。「ミッドナイトインパリ」では元の時代に帰りたくないという登場人物がいたが、エリーはサンディを通して究極の男尊女卑を経験する。

昔の流行は必ずと言っていいほど一周回って再びトレンドになる。ただそれは、素材の良さを現代風にアレンジしたり解釈したり、表面のいいところだけを抽出することによって成り立っているに過ぎないのだ。

繰り返し言うが、映像と音楽は非常に洗練されている。二人が一体化している情景を鏡の内外やダンスの位置交換を使ってテンポよく見せたり、本来はシンプルな意味づけしかないオールディーズを危険な夢の世界への導入装置として機能させたり、独特の演出には魅了された。

ただその辺りの技術力に比べると、ストーリーに意外性や充足感は感じることはできなかった。重要なキーパーソンと思っていた人物があまり活躍せずに退場したのが少し残念だったし、エリーが不思議な体験に巻き込まれていくのは彼女が言うとおり「特別な力」を持っていたからなのかという点もどこかもやっとしている。それであのラストでいいのだろうかと。

終わりが否定形だと誤解されそうなので最後は上げます。エリー役のT.マッケンジー、最近結構見る機会が多いけど、今回はとても純朴な感じでサンディと明確な対比が成り立っていて良かったです。

(80点)
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