Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「リメンバーミー」

2018年03月21日 21時16分13秒 | 映画(2018)
彼岸の中日にご先祖を想う。


人は二度死を迎えるとはよく言われる話だ。二度とは、物理的な肉体の死と生きている者の記憶から消える精神的な死。

古今東西、国の違いに関係なく、人は死に関して畏敬の念を抱いており、世界各地に独自の宗教的なイベントが存在する。

その大概は、生きている者が亡き者たちの魂に呼びかけるというもの。中でもメキシコの「死者の日(Dia de muertos)」は世界でも有名な生と死の祭典である。

今回のピクサー作品は「死者の日」が包含する精神的世界、つまり死者が住む世界の映像化に挑戦した。もちろん誰も見たことのない世界なので、作品の成否は、想像力の豊かさと観る側に働きかける表現力に大きく委ねられるものとなった。

代々続く靴職人の家系に生まれ育った主人公の少年・ミゲル。彼には心の奥に秘めた夢があった。それはミュージシャンになること。

しかし、彼の家には決して破ってはいけない掟があった。

「音楽禁止」

靴づくりを生業にした4代前のイメルダには音楽にまつわる辛い思い出があり、自分を不幸にした音楽を家族から遠ざけなければならないという考えを代々受け継ぐこととしたのだ。

メキシコ、大家族、音楽。魅力的なキーワードが序盤に並べられ、これから始まる冒険への期待が大いに高まる。

掟を破ったことが家族にバレたミゲルは家を飛び出し、ミュージシャンになるチャンスをつかむために町の音楽コンテストに出場しようとするが、地元の伝説の英雄・エルネストデラクルスのギターを手にすると死者の世界へ迷い込んでしまう。

序盤の家族との光景で予想されたことだが、現実社会で写真や銅像として出てきた人たちが死者の世界で元気に暮らしている姿が描かれる。実はこれだけでも夢のような話で結構感動する。

葉っぱが敷き詰められた生死の境にある橋などは若干オレンジが強調されていたが、全体としては決して単色ではなく多様な色彩に溢れた生き生きとした世界として描かれていた。死後もみんな楽しく暮らしている。これがどれだけ生きている者を安心させることか。

ミゲルが死者の世界から現実に戻るためにはご先祖たちの許しを得る必要があるのだが、イメルダの出した条件はやはり「音楽禁止」。それだけは譲れないミゲルは再び逃げ出し、別の先祖であるイメルダの夫を探すことにする。

ミュージシャンになる夢を追ってイメルダと小さい娘を置いて出て行った夫。話の展開からあっさり正体が分かってしまうのは致し方ないところではあるが、それでも過去の傷が修復されていく下りには素直に感動させられた。

原題の"Coco"は、高齢でほとんど語らずいつも椅子に座っている曾祖母の名前だ。彼女はイメルダの娘であり、生者、死者いずれの登場人物とも面識があり、生と死の橋渡しの象徴である。

生きている家族は彼女の姿や言葉の向こうにご先祖を思い浮かべ、死者たちは彼女の記憶に留まり続けることによってその存在を生き永らえている。

この映画の中でミゲルは実際に死者の世界へ足を踏み入れて二つの世界の間を取り持つことになるが、人はいつでもその夢を頭に描くことでつながりを感じ安寧を得る。死への旅路でもある人生の中で、自分の成り立ちを見つめ直し、お世話になった人たちを思い出すことの大切さを改めて実感した。

(85点)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「ブラックパンサー」 | トップ | 「ボスベイビー」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画(2018)」カテゴリの最新記事