Con Gas, Sin Hielo

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「グリーンブック」

2019年03月03日 14時02分29秒 | 映画(2019)
過去の理不尽と、現代の息苦しさ。


アカデミー賞には審査員のほかに時代という審査も乗り越えなければいけないようだ。

今年の作品賞に輝いた本作に非難の声が巻き起こっている。白人目線で綴られた都合の良い作りがけしからんということらしい。

米国の南部を中心に黒人が白人と同じ場所にいること自体が忌み嫌われていた時代。黒人天才ピアニストのドン・シャーリーは厚い壁に挑む演奏ツアーを決行する。多くの困難が予想される中で、彼は腕っぷしとはったりに定評があるトニーに運転手として同行するよう依頼する。

冒頭のトニーは、自宅の修理に来た黒人が使ったコップをゴミ箱に捨てるなど既に差別意識が根付いている人物として描かれる。これは彼の特質というよりは時代がこうだったという表現でもある。

給与のためとはいえドン・シャーリーと行動を共にすることになったトニーは、旅を続けるうちに黒人が受けている差別がいかに理不尽なものなのかを自分のことのように体験し、今までの意識が変わり始める。

まったくもって「いいはなし」である。出自や性格がまったく異なる二人故に生まれるコメディ的な要素も含めてまさに映画向きの題材と言える。

しかしこれが良くないらしい。

昔は差別意識を持っていたトニーが善に目覚めた。そんなの嘘っぱちだ、と言うのである。

一般論。現実社会では大統領を含めて差別意識が未だにはびこっている。

個別論。ドン・シャーリーの家族からは、トニーが近しい友人関係にあったという事実はないとの抗議が上がっている。

当事者たちは既にこの世にはなく真実は分からない。しかし映画なのだから必ず真実だけを描かなければならないということはないのではないか。

当時の黒人が置かれていた状況は、ステレオタイプに過ぎる感じもあったものの分かりやすく伝わってくるし、実在のトニーはそうではなかったかもしれないが、劇中のトニーが持つ感情やとった行動に観客が共感することで、映画として伝えたいことは正しく届いているはずだ。

現代に差別が残っている事実まで内容に含めれなければ作品が成り立たないことはないとぼくは思う。それは別のところで並行して議論を続けていけばよい。

「いいはなし」は作品賞として脚光を浴びることによってその影もが露わになってしまったのは残念としか言いようがない。本作で最優秀助演男優賞を受賞したM.アリは複雑な思いを抱いていることだろう。

(80点)
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