AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

4550:藤木君と長沢君

2018年08月28日 | ノンジャンル
 「藤木君と長沢君」は「ちびまる子ちゃん」における名脇役である。藤木君は小心者で、いつもびくびくしているようなところがあり、パニックに陥りやすい。

 一方長沢君は冷静沈着。決して浮かれたりしない。9歳の男の子としては妙に低いトーンでズバッと藤木君に意見を行ったりする。「藤木君って、卑怯だね・・・」が名セリフである。

 「残り5km」の看板を道の左端に確認してから、私の心の中には「藤木君と長沢君」が出現したかのようであった。

 藤木君が「もうしんどいよ・・・脚がどんどん重くなってくる・・・もうやめようよ・・・」と弱気な発言をすると、長沢君が「もうあきらめるのかい・・・今まで、それなりの努力してきたんだから、もう少し辛抱すればいいじゃないか・・・藤木君って卑怯だね・・・すぐに逃げることばかり考えて・・・」とやり返す。

 すると藤木君は「ひ~・・・分かったよ・・・脚を回すよ・・・」と答え、半分泣きべそをかきながら、クランクを回した。

 そんな感じで最もつらい行程を走っていった。ここから先は1kmごとに「残り4km」「残り3km」と書かれた看板が道の脇に置かれている。

 その白い看板が視界に入ってこないか心待ちにしながら、藤木君は長沢君の厳しい視線を意識しながら走っていた。しかし、サイコンに表示されるパワーの数値は目標値をはるかに下回ってきた。

 「残り3km」の看板を視界の左隅に捉えてからは、どんなに長沢君が冷徹な視線や意見を浴びせても、藤木君は「ひ~・・・」と言葉にならない音を口の端から漏れ出すのみになっていた。

 「残り3km」以降は、森林限界を越えるため視界がさっと開ける。天気が良かったので、素晴らしい眺望が開けていたはずである。



 紫色をした唇をかみしめながら苦しんでいる藤木君には、その景色を楽しむ余裕などあるはずもなかった。

 周囲の参加者達もその多くが疲弊しきっていた。皆、青色吐息という感じでクランクを回している。そのためロードバイクの流れは全体として重く淀んでいる。

 そんな疲弊の淀みに私のKuota Khanものまれていた。半身をその淀みに浸かりながら、重い抵抗をかき分けるようにして、最終行程を走った。

 「残り1km」の看板の脇を通り過ぎた。「もっとペースを上げないと、1時間25分切れないよ・・・」と長沢君が低いトーンで切り込んできた。

 「分かってるよ・・・でも、脚が言うことをきかないんだ・・・ひ~・・・」と藤木君は泣きべそ顔で答えた。

 「それは、酸素が足りないからだよ・・・エンジンが不完全燃焼しているよ・・・藤木君!」と長沢君は指摘した。

 サイコンのタイマーは、ついに「1:25:00」を経過した。残念ながらゴールにはまだ達していなかった。

 ゴールである緑色の計測ラインを通過するためには、それからさらに42秒の時間が必要であった。

 ゴールしてから、長沢君は「あ~あ・・・やっぱり駄目だったね・・・」と横目で藤木君をにらんだ。

 うつむいて、呼吸をどうにか整えようとしている藤木君は「それでも、去年よりも7秒タイムが良いよ・・・去年の自分にはかろうじて勝ったよ・・・!」と、まだ収まらない呼吸の合間に呟いた。

 そのあやふやな言葉を耳にした長沢君は、いつもの低いトーンでズバッと言い放った。「それって詭弁だよ・・・藤木君・・・!」
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