「この山水のAU-X11は修理が終わったものですか・・・?」私は井村さんに訊いてみた。すると井村さんは「それね・・・終わったばかり・・・結構手間取ってね・・・トランジスターアンプは回路が複雑だから手間がかかってね・・・」と返答された。
「今からヒアリングで最終チェックをしようと思っていたところでね・・・もしよかったら聴いてみる・・・?」と続けられたので、「聴いてみたいですね・・・その当時の山水のフラッグシップのプリメインアンプですよね・・・907よりも上に位置していた・・・」と私は応答した。
そして、井村さんはAU-X11を所定のセッティング位置に移動してケーブル類を接続した。「響工房」の常設のCDプレーヤーはLUXMAN D-500X'sである。トップローディング方式の洒落たデザインの一体型CDプレーヤーである。
LUXMAN D-500X'sから伸びたRCAケーブルがAU-X11に接続され、AU-X11のスピーカー出力端子から伸びたスピーカーケーブルが接続されたのは、「響工房」常設のフォステクスのユニットを使ったバックロードホーンスピーカーである。
これでシンプルなスリーピース構成のオーディオシステムが完成した。井村さんはCDを取り出してLUXMAN D-500X'sにセットした。
最初にかかったのはギター1本をバックに演奏されるブルースである。井村さんはブルースギターを趣味とされていて、作業場の隅には何本かのギターが置かれてもいる。
ギターの音で修理が完了したアンプの音のチェックをされているようであった。そのCDから2曲かかった。
「大丈夫そうだ・・・」と井村さんはその音を確認しながら呟かれていた。結構切れのある音である。スピーカーがどちらかというとハイスピードで切れのあるタイプであるので、AU-X11の特徴がどうかについては判然としないが、ためらいのない音が工房内に響いた。
続いてかかったのはチェンバロ独奏のCDであった。CDケースを見ると「Scarlatti Sonatas SCOTT ROSS 」とあった。
穏やかで静謐な質感のチェンバロの音が、修理を待っているオーディオ機器であふれた工房内の雑然とした空気の中に響き渡った。
目をつぶると、その雑然とした工房の風景は消え、教会の中の静かで広い空間が脳内スクリーンに映し出されるような演奏である。
しばしの時間、その優雅な調べに耳を傾けていた。AU-X11は山水の技術の粋を詰め込んだ重量級のプリメインアンプであるが、音は重々しくない。むしろ明るく軽やかな印象を受ける。
このアンプは1982年に発売された。1982年といえば、私は19歳。大学1年生である。新宿区の甘泉園公園のすぐ裏の古ぼけたアパートに住んでいた。
部屋は4畳半一間で、炊事場、トイレは共同。もちろん風呂はなく、神田川を渡った先にある銭湯に通っていた。
随分と昔のことである。2020から1982を引いて出た数字を確認して、過ぎ去った年月の重さを思った。しかし、この古いプリメインアンプが奏でるチェンバロの音を聴いていると、それほどまでに時間が経過したようには思われない。ついこの間のことのように思えてもくる。
その小さな正方形をした部屋には窓が二つあった。西の窓からは甘泉園公園の木々の緑を望むことができた。SCOTT ROSSの奏でるチェンバロの音を目を閉じて聴いていると、春の陽光に照らされた甘泉園公園の木々の葉が風に揺れるさまが見えるようであった。
「今からヒアリングで最終チェックをしようと思っていたところでね・・・もしよかったら聴いてみる・・・?」と続けられたので、「聴いてみたいですね・・・その当時の山水のフラッグシップのプリメインアンプですよね・・・907よりも上に位置していた・・・」と私は応答した。
そして、井村さんはAU-X11を所定のセッティング位置に移動してケーブル類を接続した。「響工房」の常設のCDプレーヤーはLUXMAN D-500X'sである。トップローディング方式の洒落たデザインの一体型CDプレーヤーである。
LUXMAN D-500X'sから伸びたRCAケーブルがAU-X11に接続され、AU-X11のスピーカー出力端子から伸びたスピーカーケーブルが接続されたのは、「響工房」常設のフォステクスのユニットを使ったバックロードホーンスピーカーである。
これでシンプルなスリーピース構成のオーディオシステムが完成した。井村さんはCDを取り出してLUXMAN D-500X'sにセットした。
最初にかかったのはギター1本をバックに演奏されるブルースである。井村さんはブルースギターを趣味とされていて、作業場の隅には何本かのギターが置かれてもいる。
ギターの音で修理が完了したアンプの音のチェックをされているようであった。そのCDから2曲かかった。
「大丈夫そうだ・・・」と井村さんはその音を確認しながら呟かれていた。結構切れのある音である。スピーカーがどちらかというとハイスピードで切れのあるタイプであるので、AU-X11の特徴がどうかについては判然としないが、ためらいのない音が工房内に響いた。
続いてかかったのはチェンバロ独奏のCDであった。CDケースを見ると「Scarlatti Sonatas SCOTT ROSS 」とあった。
穏やかで静謐な質感のチェンバロの音が、修理を待っているオーディオ機器であふれた工房内の雑然とした空気の中に響き渡った。
目をつぶると、その雑然とした工房の風景は消え、教会の中の静かで広い空間が脳内スクリーンに映し出されるような演奏である。
しばしの時間、その優雅な調べに耳を傾けていた。AU-X11は山水の技術の粋を詰め込んだ重量級のプリメインアンプであるが、音は重々しくない。むしろ明るく軽やかな印象を受ける。
このアンプは1982年に発売された。1982年といえば、私は19歳。大学1年生である。新宿区の甘泉園公園のすぐ裏の古ぼけたアパートに住んでいた。
部屋は4畳半一間で、炊事場、トイレは共同。もちろん風呂はなく、神田川を渡った先にある銭湯に通っていた。
随分と昔のことである。2020から1982を引いて出た数字を確認して、過ぎ去った年月の重さを思った。しかし、この古いプリメインアンプが奏でるチェンバロの音を聴いていると、それほどまでに時間が経過したようには思われない。ついこの間のことのように思えてもくる。
その小さな正方形をした部屋には窓が二つあった。西の窓からは甘泉園公園の木々の緑を望むことができた。SCOTT ROSSの奏でるチェンバロの音を目を閉じて聴いていると、春の陽光に照らされた甘泉園公園の木々の葉が風に揺れるさまが見えるようであった。