AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

3268:ワルサーP38

2015年02月28日 | ノンジャンル
 「この曲って、ユーミンみたい・・・」

 「ゆみちゃん」はプロコルハルムの「青い影」を聴きながらそう言った。

 「えっ・・・そう・・・?」

 「古い時代のユーミン・・・荒井由実時代かな・・・70年代の頃の曲の雰囲気に似てる・・・」

 「そう言われると、そんな感じもしてくるね・・・でも、そんな古い時代の曲も聴いているんだ・・・」

 私はコーヒーカップに僅かに残っていたコーヒーを飲みほした。Mimizukuのコーヒーは美味しい。濃い目で香ばしい香りがする割に苦みや酸味はそれほど舌に刺さってこない。むしろ滑らかな感触で舌と喉を過ぎ去っていく。

 「私って結構70年代マニアなんです・・・音楽もあの時代のものってかなり好きかも・・・なんだかぎゅっと身がつまっている感じがするんですよね・・・」

 「そうそう、雑誌に投稿してたよね・・・70年代ファッションの洋服着て、自撮りした写真・・・採用された・・・?」

 「ぜんぜん・・・まだ一度も・・・」

 「採用されると、なんかもらえるの・・・?」

 「1万円・・・それよりも雑誌に自分の写真が載ることが大事・・・一生の記念になるでしょう・・・」

 「なるほど・・・最近の作品はどんな感じ・・・?」

 私が興味を示すと、彼女は嬉しそうにスマホに撮りためた写真を見せてくれた。それらの画像のなかで彼女がきている洋服の数々は70年代に中学・高校時代を過ごした私にとって、懐かしさを感じさせるものである。

 「あ~こういうの昔あったね・・・肩のところが丸く盛りあがっている・・・サリーちゃんだよ・・・これ。」

 「どちらかちうとアッコちゃんですよ・・・これ・・・」

 「あっ・・・そうか・・・アッコちゃんね・・・」

 「でも、なんでそんな自分が生まれる前の古いものが好きなの・・・なんかきっかけがあったのかな・・・?」

 「ルパン三世かな・・・ルパン三世って古いものほど良いんですよね・・・最初のテレビ放送時代のものが一番良いかな・・・1971年からなんです、テレビ放送が始まったのが・・・その頃のルパン三世が最高・・・」

 「ルパン三世か・・・観てたよ・・・小学校の何年生だっただろう・・・3年生ぐらいかな・・・ワルサーP38・・・憧れておもちゃのピストル買ってもらった記憶があるな・・・」

 「あの時代のエンディングの歌が好きで、DVDであれが流れると一緒に口ずさんじゃう・・・」

 「わかる!〝ワルサ~ピーサンジュハチ~、コノテノナカニ~〟でしょう・・・」

 そんな風に話が弾んだ。ナポリタンを食べ終え、コーヒーも飲みほした。「そろそろ店を出ないと・・・」と思い、「ごちそうさま・・・」と言って勘定を済ませた。

 「お先に・・・」と彼女に言おうと思ってあることを思い出した。「そうだ・・・これ聴いてみる・・・CDだけど・・・」

 そして、私はたまたま鞄の中に入っていたCDを一枚取り出した。ヴァシュティ・バニアンの「Just Another Diamond Day」である。
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3267:青い影

2015年02月27日 | ノンジャンル
 「電球切れたみたいですね・・・」

 私は女主人に話しかけた。女主人はそれに頓着することはほとんどないような無関心な雰囲気で、「よく切れるのよ・・・」とボソッと答えた。

 「LEDにしたらどうですか・・・?最近は値段もこなれてきたようですし・・・明るいし、数年使っても切れないようですよ・・・」

 私はそう付け加えた。

 「LEDってなに・・・?」

 女主人は聞きなれない言葉であるかのようにLEDについて訊いてきた。

 「えっ・・・新しいタイプの電球ですよ・・・明るいし、電気は食わないし、なによりも滅多に切れないんです・・・値段が高いんですけどね・・・」

 「ふ~ん・・・」

 女主人は、気のない返事をするばかりであった。

 「ゆみちゃん」はそれを聞いていて、「LEDはこの店には合わないかも・・・」とつぶやくように言った。

 「LEDの明かりって、電球色でもなんだか白っぽい感じがする・・・どこかしら冷たい感じ・・・白熱灯の温かみがない。この店にはやっぱり普通の電球が良い・・・冬は暖かいしね・・・」

 「ゆみちゃん」はそう言って、アイスコーヒーをストローですすった。ほとんど黒い液体がなくなっていたので「ズッズ~」とストローから音が発っせられた。

 カウンターの上にはカセットテープが入っている箱が置かれていた。私はその箱を手元に手繰り寄せた。

 その中には10本ほどのカセットテープが入っていた。女主人のご主人が集めていたミュージックテープである。昔はレコード屋の脇の棚にこういった市販のカセットテープが置いてあった。

 そのなかにプロコルハルムの「青い影」のテープがあった。「こんなものも出ていたんだ・・・」珍しいものを見つけた気持ちでそれを手に取った。

 そのカセットテープをSONY製の古いラジカセに入れた。真四角なきれいな形をした「PLAY」ボタンを押した。

 印象的なメロディーのオルガンが流れ出した。1967年に発表されたこの曲はこのバンドのデビュー曲にして最大のヒット曲である。どこかしらバロック音楽を思わせるような壮麗さを感じさせるオルガンのメロディーに合わせて、やがてボーカルが加わる。そのオルガンとボーカルが絡み合うように、音楽は進行していく。「青い影」という邦題が実にしっくりとくる音楽である。
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3266:白熱灯

2015年02月26日 | ノンジャンル
 その乾いた音に釣られるように、視線を扉の方へ向けた。一人の年配の男性が入ってきた。コートは脱いで手にかけて、グレーの少しくたびれた感じのスーツを着ていた。

 「いらっしゃい・・・」

 女主人はさらっと言って、コップに水を注ぎ、おしぼりとともに運ぶ準備を始めた。その男性は入り口近くにあるマガジンラックから新聞を手にとって、店の奥まったところにある二人掛けのテーブル席に座った。

 「ブレンド・・・」

 水とおしぼりを運んできた女主人にそう告げると、男性は新聞を広げた。新聞を読むのには照明が少し暗めであるが、そこが定位置であるのであろう。

 「Mimizuku」の照明は一様に暗めである。ここの照明は変わっている。船舶用の照明をイメージさせるデザインの古いものが使われている。

 アンティークな雰囲気のその照明器具は、金属製の小さな楕円がいくつも連なったチェーンにより天井からつるされて、優しく頼りなげな光を周囲に投げかけている。

 「青の人・・・」

 「ゆみちゃん」はつぶやくように言った。

 それを耳に止めて、彼女の表情を確認した。うつむき加減の彼女の表情は上から照らされる照明の加減か、少し暗いものに感じられた。

 「青の人・・・?」

 私は小さめの声でその言葉を繰り返した。

 「そう・・・青の人・・・」

 彼女はまた同じ言葉を繰り返した。

 私は前回彼女に会った時に彼女が人の背後に靄のようなものが見え、それぞれその色合いが人によって違って見えるという話をしていたことを思い出した。

 「青か・・・青はその色合いによって感じ方が違うもの・・・抜けるような青空の青であれば爽快な感じだし、暗く濃い青は沈んだ感じ・・・」そう頭の片隅で考えた。

 「どんな青・・・?」

 「濃い青・・・少し黒が混じっているような・・・」

 「そう・・・」

 私はコーヒーカップを手に取った。一口飲んだ。そしてさらに声を落として訊いた。

 「あまり、いい色じゃない・・・?」

 「そんな感じがして・・・」

 「チッチッ・・・」と音が左後方の上のほうでした。急に一瞬オレンジ色の明かりが煌めいて、そして暗く終息した。複数ある照明の一つの白熱灯が切れたようである。
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3265:アゲアゲ

2015年02月25日 | ノンジャンル
 「インターハイって富士山の麓を走ってるじゃないですか、あのコース走ったことあるんですか・・・?」

 「ゆみちゃん」はナポリタンを食べ終えて、アイスコーヒを飲んでいた。私のナポリタンはようやく出来上がり、私の前に置かれていた。私は右手でフォークを持って中に入っているソーセージの一つに狙いを定めていた。

 「富士山・・・同じコースじゃないけど、毎年富士スバルラインを自転車で上るレースがあって、もう2回出たよ・・・」

 ソーセージを捉えたフォークは私の口に運ばれた。それを咀嚼した。「一口で30回噛むと健康に良いし、ダイエットにもなる・・・というのを新聞か何かで読んだな・・・」そんなことを頭の片隅に浮かべながら、噛む回数を数えていた。

 「インターハイの終盤みたいにずっと上りなんですか・・・?」

 「そう、ずっとね・・・上りばっかり・・・」

 20回・・・30回・・・30回まで数えた。「これを毎回やっていると健康に良いのは分かるけど、まだるっこしいな・・・時間もかかりすぎるし・・・」

 「楽しいんですか・・・?」

 「楽しい・・・?う~ん、どうだろう・・・苦しいかな・・・とても」

 「苦しいですよね・・・」

 「そう、苦しいし、辛い・・・」

 「じゃあ・・・なんで走るんですか?」

 「なんでだろう・・・」

 フォークをくるくる回してスパゲティーを多めに捉えて口に運んだ。噛む数を数えようか、どうしようか一瞬迷った。数を数えるのは止めた。

 「上りきるとなんだがすっきりするんだよね・・・脳内麻薬の作用かな・・・ランナーズハイって感じかもしれない。気分が高揚するって言うか、余分なものが削げ落ちていって、純粋な部分が露出するって感じ・・・まあ、よく分からないけど・・・」

 「平たく言うととアゲアゲになるってこと・・・?」

 「それかも・・・」

 「坂道君みたいに、上っている途中でケイデンスを30回転上げるって出来るんですか・・・?」

 「あれは無理・・・少なくともおじさんローディーでは全く不可能・・・」

 「そうなんですか・・・坂道君がケイデンスを上げる瞬間って、観ていてキュンとなるんですよね・・・」

 「盛り上がるよね・・・」

 カウンター席から見て右斜め目の方向にある扉がゆっくりと開いた。ドアの上部に取り付けてある小さな鈴が「カラ・・・カラン・・・」と鳴った。
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3264:坂道の役割

2015年02月24日 | ノンジャンル
 特にこれといった用があるわけではなかったが、夜の7時ごろに中野坂上の喫茶店「Mimizuku」に立ち寄った。

 世田谷区の深沢に確定申告の資料を受け取りに行き、その帰りに「食事でもするか・・・」と思い、VW POLOをそちらに向かわせたのである。

 昨日から寒さが緩んだ。今日も2月としては暖かい一日であった。いつものコインパーキングに停めて、店まではほんの少し歩くのであるが、コートのボタンは留めなくても平気であった。

 「もしかしたら、来ているかな・・・」

 と頭の片隅で思いながら、Mimizukuの扉を開けた。扉の上部に取り付けられている鈴が軽く鳴った。

 カウンター席には一人の人影が・・・「やっぱり、来ていた・・・彼女は毎日のように来ているのであろうか・・・」そんなことを思いながら、カウンター席に向かって歩いていき、「こんばんわ・・・」と「ゆみちゃん」に挨拶した。

 彼女はいつものようにナポリタンとアイスコーヒーのセットを頼んでいた。

 「こんばんわ・・・お久しぶりです・・・あっ、先日はありがとうございました。渋谷まで付き合ってもらって・・・」

 彼女はいつものように4つあるカウンター席の手前から二つ目の席に座っていた。私はコートを脱いで一番奥の席に座った。

 「私もナポリタンください・・・」

 私は女主人に頼んだ。女主人は「はいはい・・・」と呟くように言ってから、手早くその準備に取り掛かった。

 「そうそう・・・弱ペダ観ました・・・?」

 彼女は目をキラッとさせて訊いてきた。

 「もちろん・・・『坂道の役割』でしょう・・・いつもは録画して観るんだけど、昨日はリアルタイムで観たよ・・・盛り上がったね・・・」

 「良かったですよね・・・あの三人のバトル・・・もう手をぎゅって握ってました。」

 「それ分かる・・・心の中で『行け~!』って感じで、力入るよね・・・」

 「それから、今泉君の覚醒感って言うか、ワープしました感がすごいですよね・・・前半は3人のデッドヒートで一気に盛り上げて、後半は今泉君の凄みが良かった・・・」

 「ああ、今泉君ね・・・変わったよね・・・御堂筋君が『きもいずみ~』って感じでちょっかいを出しても、さらっとかわし、さらに『キモウ筋』とやり返すあたりついつい笑っちゃった・・・」

 「あそこ私も笑っちゃいました・・・」

 「そのあと、御堂筋君の容貌がほとんど妖怪と化すあたり、『ちょっとやりすぎだろう・・・』とは思ったけど・・・」

 「あれがいいんですよ・・・あの妖怪感が・・・」

 アニメマニアである彼女は、『弱虫ペダル』を楽しみにしているようである。ロードバイクに乗っているわけではないが、純粋にアニメとしてとても面白いのであろう。
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