AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

4614:締め

2018年10月31日 | ノンジャンル
 その後少し間があって「揚げナスの香港風スパイス炒め」がテーブルに置かれた。彼女は「変わってますね・・・揚げナスですか・・・」と興味深げな視線を向けた。

 「これはビールに合いますよ・・・」私はそう言って、小皿に取り分けて渡した。それを一つ口に含んでから「本当・・・!」と彼女は目を大きくした。

 「私、どちらかというとナスは苦手なんですが、これなら全然いけますね・・・とても美味しいです・・・ここの店主は相当研究熱心ですね・・・」

 続いて登場したのは「エビの巻き揚げ」であった。これもこの店の人気メニューである。細かく刻まれた海老以外にも何種類かの具材が入っていてそれがギュッと詰め込まれて巻かれて揚げられたものである。

 そのままだと少し薄味なので、塩かケチャップを少量付けて食べる。塩とケチャップが盛られた小皿が付いてくる。

 「まずは、塩で試してみてください・・・ケチャップもいけますよ・・・」そう伝えると、彼女は、一切れ箸でつかんで、塩が盛られた小皿に近づけて小量の塩を付けてから口に運んだ。

 「爽やかな味わいですね・・・いろんな味わいがじゅわっと口に広がります。くどくないところが良いですね・・・」彼女は笑顔であった。

 この2品は「絶品」と言えるであろう。美味しい料理の効果で、ビールの消費量もペースが上がった。

 キリンガービールをさらに2本追加注文した。互いのコップにビールを注ぎ合って、強めの喉越しを堪能した。

 続いて登場したのは、「神奈川地野菜のクリーム煮込み」であった。これはかなりの変化球である。

 これは中華料理という範疇からはみ出てしまうような優しい味わいの料理である。体にも良さそうに感じる。

 「中華街に来たんだけど、なんていうか・・・中華中華していないところが良いですね・・・」と「寧々ちゃん」はこれまでの料理を評した。

 「でも、最後に来るのは『THE 中華』ですよ・・・」そう予言したが、「特製四川麻婆豆腐」はなかなか来なかった。

 そこで店員を捕まえて「四川麻婆豆腐、まだ来ていないんですけど・・・」と催促した。「それから一緒に小ライスを二つ付けて・・・」と付け加えた。

 ようやく「締め」が到着した。「四川麻婆豆腐」はその名の通りかなり辛い。口に入れた瞬間はそうでもないが、後から辛みがじわっと来る。

 その味わいは、ライスが欲しくなる。ライスと合わせると実にしっくりとくる。これで頼んだ料理はすべて出たことになる。

 2人でビールは結局6本を消費した。どうやらこの「一楽」の料理は彼女にも好評であったようである。  
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4613:一楽

2018年10月30日 | ノンジャンル
 朝陽門に着くと、彼女の姿は既にあった。挨拶して、「では行きますか・・・ここから数分です・・・」と目的の店に向かった。

 朝陽門を後にして中華街大通りへ向かった。その通りの真ん中あたりにあるのが、「一楽」である。それほど大きな店ではない。

 その外観は特別な高級感があるわけではなく、敷居の高さを感じることはない。それは中に入っても同様である。

 幾つか並んでいる4人掛けのテーブルの一つに二人は座った。彼女は椅子に座って、店内に一通り視線を這わせた。

 「とても、普通な感じですね・・・」

 「そうでしょう・・・全然気取ってないんですよ・・・どちらかというと庶民的な雰囲気ですよね・・・」

 私はメニューを開いて、どの料理をチョイスしようかと思案しながら、そう答えた。

 「値段も庶民的なんです・・・でも、料理の味はかなりレベルが高いですよ・・・あっ、そうだ・・・何を飲みますか・・・?」

 「もちろん・・・ビールです・・・」と彼女はきっぱりと答えた。彼女はビール好きである。量も私よりも飲める。

 瓶ビールを2本頼んだ。さしさわりのない会話をしていると、すぐにビールが来た。その際料理も頼んだ。

 「炭火焼チャーシュー」「揚げナスの香港風スパイス炒め」「エビの巻き揚げ」「神奈川地野菜のクリーム煮込み」「特製四川麻婆豆腐」

 私は、素早く、この店に来たならば頼むべきと個人的に確信している幾つかのメニュを店員に伝えた。

 瓶ビールをお互いのコップに注ぎ合って、乾杯した。瓶ビールはキリンのラガービールであった。その苦み走った味わいは、どことなく気持ちをほっとさせるものである。

 「良い娘さんですね・・・目的に向かって頑張っていて・・・感心しました。うちの娘と大違いだなって思いましたよ・・・」

 私は先日「遺産分割協議書」に署名・押印をもらう際に、出会った彼女の一人娘の話をした。彼女は吉祥寺にある有名パティシエの店で修業していた。そして、将来は自分の店を持ちたいと語っていた。

 「どうなるか分かりませんけどね・・・将来自分たちの店を持ちたいといっても、上手くいくとは限りませんし・・・洋菓子業界は結構厳しい世界で、開店しても上手くいかない場合も多いようですし・・・」

 「それは、そうでしょうね・・・かなりレベルの高いものを出さないと、埋もれてしまうでしょうね・・・」

 そんな、話を続けていると「炭火焼チャーシュー」がテーブルに運ばれてきた。これはこの店の人気商品でお土産として買って帰る方も多い。

 国産の豚肉を特製の漬けダレで一晩漬けこみ、炭火で焼いた香り高いチャーシューは、とても良い色合いである。

 小皿に取り分けて彼女に渡した。それを口にした彼女は満面の笑顔となった。「確かな味わいですね・・・」

 私も一切れ口へ入れた。その味わいをしっかりと咀嚼してから、キリン ラガービールを口に含んだ。
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4612:中華街

2018年10月29日 | ノンジャンル
 「その金額、振り込んでもらっても良いですけど、オマケのようなものですから、その金額を使って一緒に食事でもしませんか・・・」

 「寧々ちゃん」の声は、スマホの小さなスピーカーからさらさらと流れるように私の耳に届いた。その声の抑揚には特別な感情の内包は感じられなかった。

 「その金額」とは、彼女の亡くなった夫が随分以前に使っていたプリメインアンプ ONKYO Integra A7をヤフオクで売却した金額のことである。

 相続税の申告を済ませたのちに階段下の物置から出てきたささやかな「遺品」であるIntegra A7の売却代金は9,000円ほどであった。

 この時代の日本製のプリメインアンプの売却額の相場は2,000円ほどであるが、このIntegra A7は、傷や錆が全くなく、保存状態がとても良かった。過去に2度メンテナンスを受けていたのも良かったようで、予想された金額よりも相当高い金額で落札された。

 その経緯と落札金額を口座に振り込む旨を彼女に連絡した時に、彼女は「その金額で、一緒に食事でもしませんか・・・」と返答したのである。

 一瞬の間があった。「ということは、〇〇さんの奢りということですね・・・」と私が話すと、「そういうことになるかもしれないけど、そのお金は本当はないものだったんですから・・・奢りというほどのことでもないかも・・・」と、彼女は少し笑いながら話した。

 彼女とは10年ほど前にゴルフスクールで知り合った。様々な経緯を経て、一時私達二人は「特殊関係人」となった。

 その関係は数年続いたであろうか。その後その関係はきれいに清算された。そしてその関係がすっかり過去のものとなろうとしていた時に、彼女から連絡が入った。

 スマホ画面に表示された彼女の名前を訝し気な目で眺めながら出てみると、彼女の夫がくも膜下出血で亡くなり、その相続に関する手続きが全く手つかずで困っているとのことであった。

 私は相続関連の手続きに関してアドバイスし、彼女の夫が遺した膨大な量のレコードと高価なオーディオシステムの処分も行った。

 それらの手続きは順調に進み、不動産や金融資産の相続手続きや相続税の申告・納税も期限内に済んだ。

 不動産の相続手続きは知り合いの司法書士に頼み、相続税の申告手続きは私がやり、報酬もしっかりともらった。

 膨大な量のレコードは「ディスクユニオン」で処分した。高価なオーディオ機器は「オーディオショップ・グレン」の小暮さんにすべて引き取ってもらった。

 彼女の夫は比較的潤沢な生命保険に入っていて、さらに務めていた会社から高額な死亡退職金も出たので、経済的には今後全く不安のない状態となった。

 「もちろん、食事だけですよ・・・」彼女は含みを持たせた言葉を続けた。「了解です・・・もうそういう年齢でもないですからね・・・」私はゆっくりとそう答えた。
 
 私は既に55歳となり、彼女もちょうど50歳である。二人ともいい歳になった。ある意味いい塩梅に枯れてきたともいえる。

 「お薦めはありますか・・・?」彼女は続けた。「予算は9,000円ですよね・・・少し考えさせてください・・・」私はそう返答した。

 そんな会話を交わしたのが先週のことであった。そして、今日二人は横浜の中華街の朝陽門で待ち合わせをした。平日の夜であるが、中華街は思っていたよりも多くの人がいた。 
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4611:季節の谷間

2018年10月28日 | ノンジャンル
 朝の6時に起きた時、外の気配に注意を向ける必要はなかった。昨日の天気予報は今日は晴れることをしっかりとした言葉で伝えていた。雨の心配はなかったのである。

 しかし、別の心配事があった。それは私の体調である。昨晩、自宅に向かって車を走らせている時に喉に痛みが出始めているのを感じた。それと同時に体に倦怠感があった。

 それは明らかに風邪の症状であった。「まずいな・・・風邪かな・・・明日のロングライドは久しぶりなのに・・・」と思った。

 10月は台風や悪天候、プライベートな用事などで、日曜日のチームでのロングライドに参加できていなかった。

 先週の日曜日は「箱根ヒルクライム」であったので、10月に入ってからロングライドには全く参加できていないのである。

 どうにか久しぶりにロングライドに参加したところであったが、朝の6時に目を覚まして、外の気配ではなく、自分の体の具合を検証した。

 のどの痛みは悪化していた。体の倦怠感もぐっと重くなっていて、鼻の奥に明らかな違和感があった。

 「だめか・・・」と落胆した。「これは治るのに3日から4日ほどかかるな・・・」と思った。私は季節が秋から冬に向かう時期に風邪をひくことが多い。

 昼は晴れると暑いほどであるが、朝や夜は結構冷え込む。この気温差にやられるのである。どうやら季節の変わり目の谷間にすっぽりと嵌まり込んでしまったようである。

 残念ながら、この体調ではどう考えてもロングライドは無理のようであった。私の場合、風邪をひくと、そのポテンシャルは恐ろしいくらいに下がってしまう。

 数年前であった。風邪気味の体調をおしてロングライドに参加したことがあった。その時は都民の森まで走ったのであるが、散々な目にあった。

 Twitterには「本日は通常通りロングを行います。」とのリーダーの告知があった。それに「走りたかったのですが、風邪でダウンしてしまいました。」と返信した。

 Kuota Khanとの別れが近い。今日と来週の日曜日のロングはKhanで走る予定であった。その後に、Khanに装着されているコンポーネントをLOOK 785 Huez RSに移植する予定であった。

 「1週間、LOOK 785 Huez RSのデビューを遅らせてもらうかな・・・」そんなことを考えながら、ベッドに横たわっていた。喉が痛み咳が少し出た。
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4610:nightclub

2018年10月27日 | ノンジャンル
 摩周湖のホテル「乃の風」のロビーで見かけたMcIntosh XRT26の姿に心を奪われたことがきっかけとなり、横浜のMさんは、その巨大な「建造物」を今年になって新たに導入された。

 どこかしらニューヨークに聳え立つ高層ビルを思わせるXRT26は、JBL Paragonが鎮座するメインのリスニングルームではなく、横浜のMさんがオーナーとして経営されている会員制のワインスクール「Le Salon」の広大なサロン空間の一角に据えられた。



 XRT26は二つの躯体を有している。一つは中低域用である。低域用に30cmコーン型ウーファー2個、中域用に20cmコーン型ミッドレンジをそなえている。

 もう一つは「タワー」と表すべき高域を担当する躯体で、高さが実に2.2メートルもある。この「タワー」は23個もの2.5cmアルミハードドーム型トゥイーターを搭載している。

 XRT26は、部屋の音響条件に合わせてチューニングできるよう、アクティブ・イコライザー・ユニットが付属していて、このイコライザーにより、広範囲な補正が可能となっている。このイコライザーの調整が音決めにとても重要な役割を担っているとのことであった。

 「Le Salon」の広々とした空間に置かれているのでしっとりと目に馴染むが、一般の家庭の空間には、すんなりとは収まりきらない物体である。

 これを駆動するのは、McIntoshのアンプ群である。パワーアンプはMC1000・・・巨大な躯体を有するモノラルアンプである。プリアンプはC26・・・これぞMcIntosh!と評すべき印象的で美しいデザインを有するプリアンプである。

 送り出しは、デジタルがEmmlabsの最新バージョン。そして、アナログはTHORENS TD521である。この豪華なラインナップにより、XRT26は奏でられる。

 私とチューバホーンさんは、横浜のMさんがご贔屓にされている「一楽」で素晴らしい中華料理のディナーを堪能した後、「Le Salon 」の豪華なソファに腰を掛けた。

 照明が落とされたサロン空間の中には、非現実的とも思われる雰囲気が濃厚に漂っていた。無音の状態でも、既に酔わせる諸要素が淡い霧のようにたなびいていた。

 最初にかかったのは、白井光子のメゾソプラノによるブラームス歌曲集から「野の寂しさ」・・・二人にとっては耳タコソフトである。

 ハルトムート・ヘルによる伴奏ピアノが流れ出した瞬間、芳醇な音の質感に瞬間的に魅せられた。濃厚でまろやか、温かみを感じる音の質感は耳に実に心地よいものであった。

 続いて白井光子の歌が流れ出した。そのボディー感は実にしっかりとした実在感を伴っていた。眼前でサロンコンサートが行われているのかと思わせる臨場感に心から浸ることができた。

 その音からはMcIntoshサウンドのエッセンスがしっかりと感じられた。「芳醇」「濃厚」「豪華」「華麗」そういった修飾語が、「タワー」に縦に並んだトゥイーターのように、ずらっと頭の中に並んだ。

 残念ながら、私はワインを嗜むことはないが、その味わいは超高級な赤ワインを思わせるものなのであろう。

 その後は、ポピュラー系のソフトやジャズなど様々な素晴らしい音楽が流れた。McIntosh XRT26の音の質感、そして「Le Salon」の現実的な世界をはるかに超越した豪華な空間に、すっかりと酔わせていただいた。「堪能」するというよりは「酔う」という表現がぴったりである。

 しばしの小休止の後、アナログタイムへ移行した。THORENS TD521はロングアームが前提のプレーヤーである。アームはSMEの3012Rが装着されていてその先端にはTHORENSのカートリッジが取り付けられていた。

 アナログになると、音の濃厚度合いがさらに深いものになった。醸造された年代がさらに遡ったワインのように、その味わいの舌への絡みつき具合が、重厚さをます。

 そして、チューバホーンさんのリクエストによりかかったPatricia Barberの「nightclub」から選ばれた「Yesterdays」は、SACDで聴いてから、さらにアナログでも聴かせていただいた。

 どちらも素晴らしいものであったが、「酔わせる・・・」という点においては、やはりアナログの方が一枚上手であった。



 そのジャケット写真には、彼女の美しい横顔が写っている。そして、椅子に座る彼女の前のテーブルにはワイングラスが置かれている。この「Le Salon」で、しかも夜に聴くには、最もふさわしい1枚であろう。

 実に豪華な時間であった。「Le Salon」から立ち去る時には、私とチューバホーンさんは「さっ・・・現実の世界に戻りましょうか・・・」と声を掛け合った。
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