Paoさんのお宅にお伺いするのは1年ぶりであった。リスニングルームの風景は1年前と変わったところはなかった。Paoさんのリスニングルームは8畳ほどの広さである。もともと和室であったものを洋間にリフォームした部屋で、リスニングポイントにはKarimokuの3人掛けの古いソファが置いてある。
システムの要となるスピーカーはYAMAHA NS-5000。往年の銘機であるNS-1000Mを思わせるようなプロポーションの3ウェイスピーカーである。ピアノブラックの塗装が美しく、専用のスピーカースタンドにセットされた姿は、どっしりとしていて存在感がある。
全てのユニットの振動板に、日本生まれの新素材「ザイロン」を使用しており、音色の統一を図っているとのことで、フルレンジスピーカーのような自然な音のつながりのよさを追求したYAMAHAの意欲作である。
このスピーカーを駆動するのは、Mark LevinsonのNo.26LとNo.27.5のペアである。「オールド・レビンソン」と総称される時代の製品であり、そのデザインは素晴らしものがある。「コクがあるのにキレもある・・・」と評したくなる音を奏でるセパレートアンプである。
Paoさんのオーディオシステムで一番変わっているのが、送り出しのCDプレーヤーである。メーカーはCarry Audio。アメリカのメーカーで真空管アンプが主たる製品である。型番はCD306 SACD。その存在はとてもレアであるが、ブラック仕様であるのでさらに珍しい。
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そのデザインは独特で、印象深いものである。特に天板に丸いガラス版が仕込まれていて、そこからCDが回転する様子を覗き込むことができる。
これらの機器が自作の頑丈な木製のラックに収まっている。ラックはスピーカ間の後方にセットされている。センターラック方式なので、リスニングポイントに座ると視界に全てのシステムが収まる。
「実は大きく変わったところがあるんですよ・・・」と、Paoさんは開口一番おっしゃられたが、ぱっと見は何が変わったのか全く分かならなかった。「特に何かが変わったようには見えませんね・・・スピーカーの位置も前回と変わったようには見えませんが・・・」と私が呟くと、「ケーブル・・・ケーブル・・・」と含み笑いを浮かべながら、Paoさんは答えた。
「ケーブルですか・・・」と、私は立ち上がってラックの裏側を覗き込んだ。するとCDプレーヤーからプリアンプ、さらにプリアンプからパワーアンプと音楽信号を送るケーブルがオレンジ色の細めのRCAケーブルに変わっていた。従来はJPS Labsの淡い青色のRCAケーブルが使われていた。
「これはカナダのLuna Cablesというメーカーのもので、知人からこのケーブルが良いよと教わって2本試しに買ってみてね・・・これに、繋ぎ替えると確かにこちらの方が音が自然で優しい感じになる・・・」とPaoさんから教わった。
「Luna Cablesですか・・・全く聞いたことのないメーカーですね・・・この被膜、変わっていますね・・・天然素材ですね・・・」と私は、そのケーブルをしげしげと眺めた。
論より証拠とばかりに、早速音を聴かせてもらった。最初にかかったのはマーラーの交響曲第5番の第1楽章である。トランペットのソロで始まるこの楽章は、マーラー自身によって「葬送行進曲」と題されている。「厳格な歩調で」と指定されたこの楽章は、柩を担いで教会に向う荘厳な葬列を連想させる。
「確かに印象が違う・・・音楽がゆったりと聴こえるような気が・・・」と思いながら、その葬送行進曲を聴き進んでいった。抽象的な表現でしかないが、音が有機的になったような気がした。
その12分ほど続く、重く沈鬱な楽章を聴き終えた。「なるほど、このケーブルの色合いと同じように、音がオーガニックな印象ですね・・・人工的な感じがなく、より自然な響きに感じられます・・・」と私がその印象を話すと、Paoさんは「そう、ケーブルってやはり怖いよね・・・アンプを変えたくらいのインパクトがあって・・・ケーブルに嵌るマニアがいるのも分かるな・・・でも、あまりケーブルに拘り過ぎると本質を見失うような気もするけどね・・・」と話されていた。
その後、モーツァルトのピアノ協奏曲第24番、シューベルトの四つの即興曲D.935も聴かせてもらった。やはり、印象は同じで、「このケーブル、やはり良いものですよ・・・」との結論となった。
「RCAケーブルの印象が良かったので、スピーカーケーブルも変えてみようか検討中でね・・・」と、Paoさんは話されていた。