AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

5134:Corner Canterbury

2020年03月31日 | ノンジャンル
 喫茶店「Mimizuku」での時間は店の外よりもゆっくりと流れる。しかし、完全に止まっているわけではない。砂時計の砂が上から下に落ちていく中間部分のガラス管の細さが際立っているだけで、砂は少しづつ重力に従って上から下に移動していた。

 カウンターに置いてあるスマホに表示される時計を確認した。時刻は午後6時を回っていた。「ゆみちゃん」との久しぶりの会話はいろんな方面に及び楽しいものとなった。

 「それじゃ・・・お先に・・・」と彼女に挨拶をして、会計を済ませた。「Mimizuku」の扉を開けて外に出た。

 ビルの階段がある角の方へ向かい、その階段を上り始めた。実はこの古いビルにはエレベーターがない。

 まっすぐに進み踊り場で180度向きを変える。そして先へ進む。2階には「光通商」という名前の会社が入っている。その名前はどこかしらいかがわしい。変なものでも輸入していそうな印象を受けてしまう。

 3階はずっと空いているようである。人気が全くない。表札や看板の類もなにもかかっていない。空気も幾分この3階は淀んだ雰囲気がある。「もしかして事故物件であろうか・・・」などと連想してしまう。

 「オーディオショップ・グレン」は、4階にある。このビルは5階建てである。その上の5階には法律事務所が入っているようであった。

 4階に達した時、息が切れた。「ふ~」と大きく息を吐いてから、扉をノックした。返答があるまでのわずかな時間、「ここの家賃はいくらであろうか・・・?」と思案した。「フロアの広さはトイレや簡易的なミニキッチンも含めると45㎡くらいであろうか・・・坪数で行くと13坪と少し・・・4階であること、築年数はおそらく40年以上経過していてエレベーターがないことを考慮すると9~12万円程であろうか・・・年間で120万円・・・水道光熱費が月2万円前後だとすると固定的な経費は年間約150万円か・・・」そんなことを頭の中でくるっと計算した。

 「どうぞ・・・空いてるよ・・・」と小暮さんの声がドア越しに聞こえた。スティール製の重めの扉を開けた。

 玄関先で靴を脱いで、揃えて置かれていたスリッパを履いた。「どうぞ・・・どうぞ・・・」と促されて、私はリスニングポイントに置かれている黒い革製の3人掛けソファの真ん中に座った。ソファの前には濃い茶色のソファテーブルが置かれている。

 そのテーブルの上には珍しく花が置かれていた。透明なガラスでできた小さな花瓶には、青い色合いの花が活けられていた。

 リスニングポイントから見て正面にはスピーカーが設置されている。コーナー型のオールド・タンノイであることは、一目でわかった。

 その意匠からして「Corner Canterbury」であるようであった。ユニットの大きさは12インチに見える。

 「モニターレッドですか・・・カンタベリーのユニット・・・?」と小暮さんに確認すると「シルバーだよ・・・シルバー・・・」との返答であった。

 「ちなみに販売価格いくらですか・・・?」と私がおそるおそる訊いてみると、「幾らだと思う・・・?」と逆に質問が返ってきた。

 「250万円・・・くらいはしますよね・・・5年前なら200万円未満で買えましたが・・・」と答えると、「惜しい・・・260万円だよ・・・コンディションが素晴らしいのでね・・・ちょっとお高め・・・それでもすぐに買い手が付いた・・・希少価値ってすごいね・・・」

 口には出さなかったが「粗利は100万円くらいかな・・・・これ1セットで年間の固定費の7割近くを確保できるわけか・・・」と頭の中で思った。

 Corner Canterburyはコンパクトな形状のコーナー型スピーカーである。3本足で床から浮かされていて実に優雅で目に優しい造形をしている。

 英国オリジナルのキャビネットは淡い茶色で、年月の経過によりさらに渋さが増している。「渋い・・・実に渋い・・・」と心の中で呟いた。

 そして、リスニングポイントから見て右手にある大型の3段ラックには、今回新たに「オーディオショップ・グレン」の常設機器に加わったCDプレーヤーが置かれていた。

 「これか・・・予想外・・・」というのが第一印象である。横幅が広く3台のオーディオ機器が設置されているオーディオラックの天板には左からROKSAN XERXES10、LEAK POINT ONE STEREOと並び、その横に新たなCDプレーヤーが設置されていた。 
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5133:オレンジ

2020年03月30日 | ノンジャンル
 「ゆみちゃん」は、「ねこ」の4枚目となる最新アルバムが収録されたカセットテープをSONY CF-2500に装着した。

 そして綺麗に並んだボタンのなかから「PLAY」ボタンを選択して押し込んだ。カセットテープはするすると回転を始めた。

 カセットテープなのでレコードと同様にA面とB面がある。A面の1曲目がCF-2500の小さな二つのスピーカーから流れだした。

 アコースティックな楽曲であった。アコースティックギターを中心としたの伴奏に静かなボーカルが乗ってくる。

 「このアルバムはアコースティックな感じでまとめられていて・・・少し雰囲気が変わったかな・・・」と彼女はその印象を語った。

 「ねこ」のニューアルバム「ねこ降らし」をSONY製のラジカセで聴きながら、いろんな話題について彼女と話した。

 当然今日本だけでなく世界中に猛威をふるっているコロナウィルスに関する話題にもなった。マスク、買い占め、外出自粛など身近な日常生活に直接的な影響を及ぼしていることについて話しているとき、ふと思った。

 「彼女は時折人間の背後に広がるオーラが見えると話していた。私も今まで何度か自分のオーラーの色合いについて彼女に訊ねたことがあった。もしかして、コロナウィルスに感染しているかどうか、オーラの色合いで確認できるのではないか・・・」

 そこで、彼女に切り出した。「私のオーラの色合い・・・変わったところはないかな・・・自覚症状は今のところ全くないのだけど・・・今回のコロナウィルスの怖いところは感染しても症状がすぐに出ないので、それと気付かないで感染源になる可能性があることなんだよね・・・」

 すると彼女は視線を私の背後に向け始めた。私と彼女の間にはカウンター席一つ分の空間がある。その空間越しに私のオーラの色合いを確認しているようであった。

 検査結果を待つ患者のような気分になった。ややあって、彼女は私の視線を正面からとらえた。そして話し始めた。

 「別にウィルスに感染したからといって、オーラの色が真っ赤になるとかそういった明確な変化はありません。体調が悪かったり、ストレスが溜まっていたり、風邪気味だったりすると、その色合いがくすんで見えるという変化しかないのです。そういう意味合いで多少色合いがくすんで見えますね・・・」

 「でも、色合いはグレーや黒ではありませんから・・・生命の危機に瀕しているわけでは決してないと思いますよ・・・この時期、みんなストレスが溜まっていますから色合いがくすんでいたりオーラそのものの大きさが小さくなるのは通常のことだと思います・・・」

 「私もいろいろ不安になりますので、家には明るい色合いの花を飾るようにしています。こういう時は、オレンジやピンクなんかがいいんですよね・・・」

 彼女はいつになく静かな口調であった。どちらかというと童顔であるので、年齢の割に若く見える「ゆみちゃん」であるが、今日ばかりはその表情はとても大人びたものに見えた。

 そして、薄茶色の紙袋の中に入っている花束を見せてくれた。「帰りがけに花屋で買ったんです。3,000円もしたんですよ・・・これを部屋に飾ると少し元気になりそうです・・・色ってとても大切なんです・・・」


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5132:ねこ降らし

2020年03月29日 | ノンジャンル
 喫茶店「Mimizuku」のカウンター席でコーヒーを飲んでいると、扉が開いて新たな客が入ってきた。扉の上に取り付けてある鈴の音がそれを告げていた。

 時刻は午後5時半になっていた。「お久しぶりです・・・」と私に挨拶したのは「ゆみちゃん」であった。

 「あれ、いつもよりも早いね・・・」と私が答えると、「あれです・・・コロナです・・・会社から定時になったらすぐに帰るように指示があったんです・・・」と彼女は屈託のない表情で答えた。

 彼女の会社は新宿にある。中野坂上までそれほど時間がかからない。丸ノ内線に乗れば2駅で着く。会社を5時に退社すれば5時半には「Mimizuku」に到着する。

 これでこの喫茶店の中には、3名の客と女主人1名、合計4名の人間が集った。人口密度という点に関しては、それほど高いわけではない。

 彼女はアイスコーヒーとナポリタンを頼んだ。どうやら早めの夕食をここで済ませてしまう魂胆のようである。

 彼女は和歌山県出身である。この店のほど近い賃貸アパートで独り暮らしをしている。新宿のIT関連企業で働いている。

 彼女とこの店で合うのは数ケ月振りであった。近況を報告しあった。そんな会話のなか、彼女がおもむろにカバンから取り出したのはカセットテープであった。

 「出たんですよ・・・『ネコ』のアルバム・・・4枚目になります。CDでも買いましたけど、カセットでも出たんで、両方買いました・・・今回も・・・」

 彼女が見せてくれたテープを手に取った。タイトルは「ねこ降らし」であった。「ねこ降らし・・・そんな言葉ないよな・・・地方によってあるのであろうか・・・」と思ったが、そのカセットケースに添えられた絵を見ていると、造語のようであった。



 「ねこ」は、彼女と同じ和歌山県出身のインディーズバンドである。首都圏でのライブを中心に活動を行っているとのことで、彼女はその「おっかけ」のようなことをしている。ライブがあれば必ず行っているようであった。

 インディーズレーベルから時折アルバムを出していて、今回の「ねこ降らし」はその4枚目のアルバムである。アルバムタイトルにはかならず「ねこ」が入る。ちなみに一つ前のアルバムは「ねこのコネ」であった。

 少し変わっているのは、アルバムはCD以外にも必ずカセットテープでも出すということである。

 カセットテープは完全に時代遅れの遺物であるが、そんなカセットテープが「ゆみちゃん」のような比較的若い世代にとっては珍しく興味を惹かれるものであるようで、彼女は必ずCDとカセットテープの両方を購入している。

 彼女の家には古い時代のラジカセがあるだけでなく、カセットデッキも所有している。そのカセットデッキはYAMAHA K-9である。中目黒にあるカセットテープ関連商品専門店である「Ruts」で購入したものである。



 彼女は「K-9にカセットテープを装着して、改めてその姿を眺めていると・・・『これは猫だ・・・』って思ってしまうの・・・カセットテープが猫の顔にどうしても見えてしまう・・・猫が不意にこっちを振りむている姿に見える・・・」と話していた。
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5131:CF-2500

2020年03月28日 | ノンジャンル
 古い木製の扉を開くと、店内の空気はもわっとしていた。その一気に濃厚になったかのような空気の中を少し歩き、4つあるカウンター席の一つに腰かけた。

 店内には、カウンター席の他に4人掛けのテーブル席が2つと、2人掛けのテーブル席が一つある。奥まったところにある2人掛けのテーブル席には一人、初老の男性客がいた。珈琲を飲みながら新聞を見ているようであった。

 この店で時折見かける常連客である。年の頃は60代後半であろうか・・・現役世代ではないようであった。店の奥まったところにある2人掛けのテーブル席が定席のようである。

 この店にはもう一人変わった常連客がいる。「ゆみちゃん」である。31歳の独身女性であるが、少し変わっていて人の背後に広がるオーラが見えることがあるという。

 特に「Mimizuku」のように少し薄暗い店内では見えやすいようで、2人掛けのテーブル席によく座っている初老の男性について「あまり、良い色合いではないですね・・・健康ではないようです・・・」と話していた。

 私にはオーラは見えないが、確かにその醸し出す雰囲気は活発で陽性なものとは正反対のもののように感じられた。

 一人でこの喫茶店を切り盛りしている女主人にコーヒーを注文した。女主人は手慣れた手つきで作業に取り掛かった。

 ここのカウンターにはSONY製の古いラジカセが置かれている。1970年代に製造されたそのラジカセは、この店の空気と見事に一致していて、違和感が全くない。

 これは数年前に亡くなったご主人の遺品で、何台か同じ時代のSONY製のラジカセがあるようで、時折機種が換わる。

 視線の斜め左方向に置かれていたのは、ワンボックスステレオタイプのラジカセであった。操作系はとても見やすく、すっきりとまとまっている。型番を確認するとCF-2500であった。

 ダイヤルスケールが傾斜のあるスラント状になっていて、1970年代のSONYらしい精緻なデザインが目を和ませてくれる。

 スピーカーをふくむキャビネットはシンプルな格子状でまとめられている。「SONY」のロゴはセンターに配置されていて、全体としてシメトリックな構成が取られている。



 「インダストリアルデザインとしてとても優れた製品だな・・・」と思いながらその姿を眺めていると、コーヒーがカウンターに置かれた。

 ここのコーヒーはすっきりとした味わいである。「チャフノン」でコーヒー豆を挽いたときに混ざる微粉や渋皮をしっかりと除去しているからであろうか・・・とても気持ちが落ち着く。

 「Mimizuku」のコーヒーの味わいと、SONY CF-2500の外観が醸し出す雰囲気には共通な質感が感じられた。
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5130:常設機器

2020年03月27日 | ノンジャンル
 青梅街道から一本脇道に入ると雰囲気ががらっと変わり急に静かになる。コインパーキングがあることを示す黄色の看板の下には「空」という文字が浮き上がっていた。

 そのコインパーキングにVW POLOを入れた。POLOはコンパクトな車であるので、23区内の狭いコインパーキングであっても、楽に駐車することができた。

 「オーディオショップ・グレン」の小暮さんが常設のCDプレーヤーを変えるというので、その新たなCDプレーヤーを聴きに来たのである。

 「オーディオショップ・グレン」に常設されていたのは、CDトランスポートがGOLDMUND MIMESIS39でDAコンバーターが同じくGOLDMUNDのMIMESIS12であった。

 どちらもこの時代のGOLDMUNDの静謐さを象徴するような美しいデザインのオーディオ機器であるが、さすがに四半世紀の時間の経過を経て、その動作状況も安定感を欠くようになっていたようである。

 新たなCDプレーヤーがどんなものなのかは、いつものように「それは、見てのお楽しみ・・・」とのことであった。

 「オーディオショップ・グレン」の常設機器は、アナログプレーヤーーがROKSAN XERXES10である。トーンアームはROKSAN ARTEMZ カートリッジはOrtofon MC-20。そしてCDプレーヤーはGOLDMUNDの純正組み合わせ、プリンアププはLEAK POINTO ONE STEREOでパワーアンプは同じくLEAKのTL-10である。

 スピーカーは棚卸資産であるので、常に入れ替わる。その多くはOLD TANNOYである。小暮さんは商社マンとして長い年月英国に滞在されていたので、その時代の人脈などをフル活用して古い時代のTANNOYを英国から仕入れている。

 「英国オリジナルのキャビネットで、かつユニットがレッド以前の古いものであれば、必ず日本で売れる。仕入価格も上がっているけど、それ以上に販売価格が上がっているので、利幅は以前よりも大きくなっている・・・」とのことで、年間それなりの数を販売されているようであった。

 稀に顧客から買い取った比較的新しいスピーカーが試聴位置に置かれているが、それらはヤフオクで処分されているようであった。

 「ヤフオクでも結構利益が出る。昨年出品したSONY SS-A7など、買取った価格の3倍以上で落札されたんだ・・・ちょっとびっくりしたね・・・」

 と小暮さんがにんまりしながら話されていた。そのSONY SS-A7は、ショップに一時的に保管されていて、私も聴かせてもらった。

 SONY SS-A7、その存在自体まったく知らないスピーカーであったが、日本製とは思えないヨーロピアントーンが印象的であった。19991年に発売されたスピーカーとのことであった。その当時としてはかなりの高額商品だったようで、それほど売れなかったようである。

 「オーディオショップ・グレン」に新たに常設されることとなったCDプレーヤーのことは気になるが、少し早く着いたので、「オーディオショップ・グレン」が入っているビルに1階にある喫茶店「Mimizuku」に立ち寄ることにした。
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