喫茶店「Mimizuku」での時間は店の外よりもゆっくりと流れる。しかし、完全に止まっているわけではない。砂時計の砂が上から下に落ちていく中間部分のガラス管の細さが際立っているだけで、砂は少しづつ重力に従って上から下に移動していた。
カウンターに置いてあるスマホに表示される時計を確認した。時刻は午後6時を回っていた。「ゆみちゃん」との久しぶりの会話はいろんな方面に及び楽しいものとなった。
「それじゃ・・・お先に・・・」と彼女に挨拶をして、会計を済ませた。「Mimizuku」の扉を開けて外に出た。
ビルの階段がある角の方へ向かい、その階段を上り始めた。実はこの古いビルにはエレベーターがない。
まっすぐに進み踊り場で180度向きを変える。そして先へ進む。2階には「光通商」という名前の会社が入っている。その名前はどこかしらいかがわしい。変なものでも輸入していそうな印象を受けてしまう。
3階はずっと空いているようである。人気が全くない。表札や看板の類もなにもかかっていない。空気も幾分この3階は淀んだ雰囲気がある。「もしかして事故物件であろうか・・・」などと連想してしまう。
「オーディオショップ・グレン」は、4階にある。このビルは5階建てである。その上の5階には法律事務所が入っているようであった。
4階に達した時、息が切れた。「ふ~」と大きく息を吐いてから、扉をノックした。返答があるまでのわずかな時間、「ここの家賃はいくらであろうか・・・?」と思案した。「フロアの広さはトイレや簡易的なミニキッチンも含めると45㎡くらいであろうか・・・坪数で行くと13坪と少し・・・4階であること、築年数はおそらく40年以上経過していてエレベーターがないことを考慮すると9~12万円程であろうか・・・年間で120万円・・・水道光熱費が月2万円前後だとすると固定的な経費は年間約150万円か・・・」そんなことを頭の中でくるっと計算した。
「どうぞ・・・空いてるよ・・・」と小暮さんの声がドア越しに聞こえた。スティール製の重めの扉を開けた。
玄関先で靴を脱いで、揃えて置かれていたスリッパを履いた。「どうぞ・・・どうぞ・・・」と促されて、私はリスニングポイントに置かれている黒い革製の3人掛けソファの真ん中に座った。ソファの前には濃い茶色のソファテーブルが置かれている。
そのテーブルの上には珍しく花が置かれていた。透明なガラスでできた小さな花瓶には、青い色合いの花が活けられていた。
リスニングポイントから見て正面にはスピーカーが設置されている。コーナー型のオールド・タンノイであることは、一目でわかった。
その意匠からして「Corner Canterbury」であるようであった。ユニットの大きさは12インチに見える。
「モニターレッドですか・・・カンタベリーのユニット・・・?」と小暮さんに確認すると「シルバーだよ・・・シルバー・・・」との返答であった。
「ちなみに販売価格いくらですか・・・?」と私がおそるおそる訊いてみると、「幾らだと思う・・・?」と逆に質問が返ってきた。
「250万円・・・くらいはしますよね・・・5年前なら200万円未満で買えましたが・・・」と答えると、「惜しい・・・260万円だよ・・・コンディションが素晴らしいのでね・・・ちょっとお高め・・・それでもすぐに買い手が付いた・・・希少価値ってすごいね・・・」
口には出さなかったが「粗利は100万円くらいかな・・・・これ1セットで年間の固定費の7割近くを確保できるわけか・・・」と頭の中で思った。
Corner Canterburyはコンパクトな形状のコーナー型スピーカーである。3本足で床から浮かされていて実に優雅で目に優しい造形をしている。
英国オリジナルのキャビネットは淡い茶色で、年月の経過によりさらに渋さが増している。「渋い・・・実に渋い・・・」と心の中で呟いた。
そして、リスニングポイントから見て右手にある大型の3段ラックには、今回新たに「オーディオショップ・グレン」の常設機器に加わったCDプレーヤーが置かれていた。
「これか・・・予想外・・・」というのが第一印象である。横幅が広く3台のオーディオ機器が設置されているオーディオラックの天板には左からROKSAN XERXES10、LEAK POINT ONE STEREOと並び、その横に新たなCDプレーヤーが設置されていた。
カウンターに置いてあるスマホに表示される時計を確認した。時刻は午後6時を回っていた。「ゆみちゃん」との久しぶりの会話はいろんな方面に及び楽しいものとなった。
「それじゃ・・・お先に・・・」と彼女に挨拶をして、会計を済ませた。「Mimizuku」の扉を開けて外に出た。
ビルの階段がある角の方へ向かい、その階段を上り始めた。実はこの古いビルにはエレベーターがない。
まっすぐに進み踊り場で180度向きを変える。そして先へ進む。2階には「光通商」という名前の会社が入っている。その名前はどこかしらいかがわしい。変なものでも輸入していそうな印象を受けてしまう。
3階はずっと空いているようである。人気が全くない。表札や看板の類もなにもかかっていない。空気も幾分この3階は淀んだ雰囲気がある。「もしかして事故物件であろうか・・・」などと連想してしまう。
「オーディオショップ・グレン」は、4階にある。このビルは5階建てである。その上の5階には法律事務所が入っているようであった。
4階に達した時、息が切れた。「ふ~」と大きく息を吐いてから、扉をノックした。返答があるまでのわずかな時間、「ここの家賃はいくらであろうか・・・?」と思案した。「フロアの広さはトイレや簡易的なミニキッチンも含めると45㎡くらいであろうか・・・坪数で行くと13坪と少し・・・4階であること、築年数はおそらく40年以上経過していてエレベーターがないことを考慮すると9~12万円程であろうか・・・年間で120万円・・・水道光熱費が月2万円前後だとすると固定的な経費は年間約150万円か・・・」そんなことを頭の中でくるっと計算した。
「どうぞ・・・空いてるよ・・・」と小暮さんの声がドア越しに聞こえた。スティール製の重めの扉を開けた。
玄関先で靴を脱いで、揃えて置かれていたスリッパを履いた。「どうぞ・・・どうぞ・・・」と促されて、私はリスニングポイントに置かれている黒い革製の3人掛けソファの真ん中に座った。ソファの前には濃い茶色のソファテーブルが置かれている。
そのテーブルの上には珍しく花が置かれていた。透明なガラスでできた小さな花瓶には、青い色合いの花が活けられていた。
リスニングポイントから見て正面にはスピーカーが設置されている。コーナー型のオールド・タンノイであることは、一目でわかった。
その意匠からして「Corner Canterbury」であるようであった。ユニットの大きさは12インチに見える。
「モニターレッドですか・・・カンタベリーのユニット・・・?」と小暮さんに確認すると「シルバーだよ・・・シルバー・・・」との返答であった。
「ちなみに販売価格いくらですか・・・?」と私がおそるおそる訊いてみると、「幾らだと思う・・・?」と逆に質問が返ってきた。
「250万円・・・くらいはしますよね・・・5年前なら200万円未満で買えましたが・・・」と答えると、「惜しい・・・260万円だよ・・・コンディションが素晴らしいのでね・・・ちょっとお高め・・・それでもすぐに買い手が付いた・・・希少価値ってすごいね・・・」
口には出さなかったが「粗利は100万円くらいかな・・・・これ1セットで年間の固定費の7割近くを確保できるわけか・・・」と頭の中で思った。
Corner Canterburyはコンパクトな形状のコーナー型スピーカーである。3本足で床から浮かされていて実に優雅で目に優しい造形をしている。
英国オリジナルのキャビネットは淡い茶色で、年月の経過によりさらに渋さが増している。「渋い・・・実に渋い・・・」と心の中で呟いた。
そして、リスニングポイントから見て右手にある大型の3段ラックには、今回新たに「オーディオショップ・グレン」の常設機器に加わったCDプレーヤーが置かれていた。
「これか・・・予想外・・・」というのが第一印象である。横幅が広く3台のオーディオ機器が設置されているオーディオラックの天板には左からROKSAN XERXES10、LEAK POINT ONE STEREOと並び、その横に新たなCDプレーヤーが設置されていた。