そのチーズケーキを一口頬張った。塊は滑らかに舌の上で溶けていき、濃厚なチーズの味わいを舌先に沁み込ませるとともに、馨しい香りが鼻に抜けていった。
味わいは濃厚であるが、くちどけは軽やかである。香りも重要な要素といえるが、その点でも良い感触を備えている。
もう一度その感覚を再確認するかのように、フォークでさらに一口分を切り取って口に運んだ。当然ではあるが、二口目も一口目の印象とほぼ同じであった。
何かしら「ひらめき」とでもいうべきものを感じさせる味わいである。ありきたりなものからは決して感じることのできないセンスの良さを感じた。
「とても、良い具合にできていますね・・・なんだかひらめきを感じる味わいです。きっとパティシエとしての優れた才能があります・・・」
「ありがとうございます・・・お店で習ったものに自分らしさを加えて試行錯誤しているんです・・・まだまだ修行の身ですけど、いつかは自分のケーキで勝負したいという気持ちもあるんです・・・」
「いや・・・それは楽しみですね。そういった気持ちを持ち続けていいればきっとその夢はかないますよ・・・この才能は活かすべきでしょうね・・・今、洋菓子業界全体は低迷していますから、成功するには才能だけでは難しい面もありますが・・・でも、このケーキには確かなものを感じました・・・」
「実は、いま付き合っている人が同じ店で働いている方で、将来は二人でお店をやりたいと話しているんです・・・」
「そうでしたか・・・それは楽しみですね・・・本当に夢がありますね・・・うらやましいです・・・」
そう話しながら「寧々ちゃん」の表情を垣間見た。一人娘が将来結婚すれば、彼女はこの家に一人で暮らすことになるであろう。それはきっと寂しくないといえば嘘になるであろう・・・しかし、年頃の娘の結婚も大事なことで、親としては結婚自体は喜ばしいことである。娘ももう26歳である。それほど若いというわけではない。
「寧々ちゃん」と目が合った。私の表情に何かを感じたのか、その瞳の中には少し寂しげな陰影が含まれていた。
彼女はその件に関しは、何も話さなかった。その後は私と若きパティシエが、ケーキ屋の経営に関して様々な話を続けた。
結局、1時間近い時間がさらに経過した。そして、私は彼女の家を辞した。フォルクスワーゲン ポロの荷室には段ボールに入ったIntegra A7が詰め込まれた。
ポロのキーを回してエンジンをかけた。1.2Lの4気筒エンジンは軽やかな音を立てた。フロントウィンドウを開けて、軽く会釈してから車を発進させた。「寧々ちゃん」とその娘も玄関先で見送ってくれた。
味わいは濃厚であるが、くちどけは軽やかである。香りも重要な要素といえるが、その点でも良い感触を備えている。
もう一度その感覚を再確認するかのように、フォークでさらに一口分を切り取って口に運んだ。当然ではあるが、二口目も一口目の印象とほぼ同じであった。
何かしら「ひらめき」とでもいうべきものを感じさせる味わいである。ありきたりなものからは決して感じることのできないセンスの良さを感じた。
「とても、良い具合にできていますね・・・なんだかひらめきを感じる味わいです。きっとパティシエとしての優れた才能があります・・・」
「ありがとうございます・・・お店で習ったものに自分らしさを加えて試行錯誤しているんです・・・まだまだ修行の身ですけど、いつかは自分のケーキで勝負したいという気持ちもあるんです・・・」
「いや・・・それは楽しみですね。そういった気持ちを持ち続けていいればきっとその夢はかないますよ・・・この才能は活かすべきでしょうね・・・今、洋菓子業界全体は低迷していますから、成功するには才能だけでは難しい面もありますが・・・でも、このケーキには確かなものを感じました・・・」
「実は、いま付き合っている人が同じ店で働いている方で、将来は二人でお店をやりたいと話しているんです・・・」
「そうでしたか・・・それは楽しみですね・・・本当に夢がありますね・・・うらやましいです・・・」
そう話しながら「寧々ちゃん」の表情を垣間見た。一人娘が将来結婚すれば、彼女はこの家に一人で暮らすことになるであろう。それはきっと寂しくないといえば嘘になるであろう・・・しかし、年頃の娘の結婚も大事なことで、親としては結婚自体は喜ばしいことである。娘ももう26歳である。それほど若いというわけではない。
「寧々ちゃん」と目が合った。私の表情に何かを感じたのか、その瞳の中には少し寂しげな陰影が含まれていた。
彼女はその件に関しは、何も話さなかった。その後は私と若きパティシエが、ケーキ屋の経営に関して様々な話を続けた。
結局、1時間近い時間がさらに経過した。そして、私は彼女の家を辞した。フォルクスワーゲン ポロの荷室には段ボールに入ったIntegra A7が詰め込まれた。
ポロのキーを回してエンジンをかけた。1.2Lの4気筒エンジンは軽やかな音を立てた。フロントウィンドウを開けて、軽く会釈してから車を発進させた。「寧々ちゃん」とその娘も玄関先で見送ってくれた。