AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

4250:T4

2017年10月31日 | ノンジャンル
 10月15日、10月22日、10月29日と3週続けて日曜日は雨であった。そのため、チームのロングライドは全て中止、随分と長い期間ロードバイクに乗れていない。

 脚力は相当低下てしまっている可能性が高いが、これからしばらくはオフシーズンであるので、体を休めておくのもいいのかもしれない。

 そんな雨に祟られがちな日曜日である10月29日には、その前日にお邪魔したPontaさんが我が家に来てくれた。Pontaさんのお目当ては、PSD T4である。

 我が家のリスニングルームには現在PSD T4が置かれている。TANNOY GRFに装着されていたモニターシルバーは、不具合が生じてしまったので専門業者のもとに送られている。

 その補修が終わるまでの間、PSDの大山さんのご厚意でT4をお借りしているのである。T4は専用のスタンドと一緒にTANNOY GRFの前にセッティングされている。

 このT4はノーマルバージョンのT4ではなく、豪華な突板が奢られたLimited バージョンである。濃い目の茶色をしたこの突板は貴重なもののようで、現在ではワシントン条約で輸入が禁止されてしまい、入手が難しいもののようである。



 T4は非常に堅牢な構造を持つキャビネットを有し、厳選されたユニットが装着されている。相当な高性能を有するスピーカーである。

 そして不思議なことに60年ほど前に製造された我が家のMarantzの真空管アンプでもしっかりと鳴る。

 ダンピングファクターが現代アンプと比べて一桁以上低いのに、ぼやけた音にならない。不思議なスピーカーである。

 雨のなか、待ち合わせ場所である新小平駅へ向かった。先週に続き台風が近づいてきていたので、雨は本降りである。

 予定時刻よりも早く着くとの連絡があったので、早めの時間に待ち合わせ場所に着いて待っていると、無事に合流できた。ワイパーでフロントウィンドウの雨を勢いよく弾きながら、車で自宅に向かった。

 自宅に着いて早速リスニングルームへ・・・T4は後方の壁からかなり離されて、平行法でセッティングされている。狭い部屋なので、結果としてスピーカーはリスニングポイントからかなり近い位置にある。

 専用のスタンドは高さが低めである。視覚的にはもう少し高さがあった方がしっくりとくるような気がするが、この高さにはきっと意味があるはずである。

 2ウェイのスピーカーをスタンドにセットする場合、ツイーターの位置がリスニングポイントに座った状態での耳の高さにするといいと聞いた記憶があるが、この専用のスタンドではソファーに座った状態での耳の位置よりも若干低い。

 しかし、その音場は後方に高く広がり、決して「低い・・・」と感じることはない。視覚的には後方にあるTANNOY GRFが鳴っているようにしか思えない。



 まずは前の日にPontaさんのお宅で最初に聴かせていただいたバーバーのヴァイオリン協奏曲の第1楽章をかけた。ヴァイオリンはGIL SHAHAMである。
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4249:コスパ

2017年10月30日 | ノンジャンル


 Pontaさんのリスニングルームにお邪魔するのは、ちょうど1年ぶりである。使用機器は全く変わっていない。3ピース構成のいたってシンプルなシステムである。

 スピーカーはQ Acousticsの小型2ウェイである「Q2020i」。このQ Acousticsというメーカー、実は昨年Pontaさんのところで目にするまで知らなかった。

 Q Acousticsは、イギリスのメーカーで、2006年の設立である。コストパフォーマンスの高いスピーカーを作ることを目標に製品開発を行い、2012年には、「Q2000シリーズ」が、「What Hi-Fi!? Sound & Vision Magazine」で三つもの賞を受賞した。

 CDプレーヤーとプリメインアンプはMarantz製のもの。こちらもコストパフォーマンスが高いオーディオ製品である。

 Pontaさんの現在のオーディオシステムは、「やっぱ、コスパ!」というSEIYUのテレビCMでのキャッチコピーを思い出させてくれるほどにコスパが異様に高い。

 部屋はマンションのリビングダイニングなので十分なエアボリュームがある。スピーカーの背後はべランダに出る掃き出し窓がある。

 床面は元々絨毯が敷き詰められているが、そのままでは部屋の響きがデッドになり過ぎるため、音を反射させるための床材などが適宜敷かれていて、部屋の響きを調整されている。

 この反射と吸音の比率がとても重要で、上手く調整できると高域と低域のバランスが上手く取れて、音がいびつにならない。

 まずはSAMUEL BARBERのヴァイオリン協奏曲から第1楽章を聴かせてもらった。ヴァイオリンはGIL SHAHAMである。

 Q2020iはその大きさからして帯域を欲張ったスピーカーではない。しかし、その音質は価格がにわかには信じられないほどに高い。

 部屋の反射と吸音のバランスが上手く取れているようで、音がまろやかに感じられる。高域が突出して低域とのバランスを崩すことなく寄り添っている様は心地よい安心感をもたらしてくれる。

 「芸術を変質させる歪」が全く見当たらない。聴く者を威圧するような音圧や、微細な音の片鱗までをも顕微鏡を通して見通すような情報量があるわけではないが、家庭で音楽を鑑賞する楽しみを十二分にもたらしてくれる。

 その後、クラシックを中心に何枚かのCDを聴かせてもらった。ケーブル類もいたって現実的な価格のもので統一されていて、オーディオマニア的な嫌味がない。

 しかし、1箇所・・・「やはりマニアック・・・」と思わせるところがあった。それは電源コンセントと壁の間に挟むコンセントベースである。

 コンセントベースは、オーディオアクセサリーとしていくつか製品化もされている。金属製であったりカーボン製であったりするが、Pontaさんのお宅のものは木製で自作である。

 幾つかの木材のものを試されて今は2種類の木を合わせて使われている。どうやら硬い木と柔らかい木を組み合わされているようであった。

 「これで、結構変わるんですよ・・・金属製のものも試しましたがキンキンするので木にしました・・・木も幾つも試して今はこれに落ち着いています・・・」

 その説明に、「やはりマニアック・・・」と思いながら心の中で微笑んでいた。しばしの時間、音楽を聴き、近況を報告しあった。

 音楽とオーディオを堪能した後、Pontaさんのお宅を後にして車に向かった。「やっぱ、コスパ!」「やっぱ、マニア!」・・・そんなキャッチフレーズが、周囲の雨の音と一緒に心の中に静かに響いた。
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4248:台風

2017年10月29日 | ノンジャンル
 デビッド・ボウイの「アラジンセイン」のミュージックテープをYAMAHA K-8にセットした。SONY TA1120のセレクタースイッチを「TAPE HAED」の表示の所に合わせた。

 K-8のPLAYボタンを押すと、ミューッジクテープはするすると回転を始めた。TA-1120の左端についているボリュームノブを一旦絞った。

 音が出始めたのでボリュームを少し上げていった。やや抑えめの音量にセットした。「アラジンセイン」は1973年に発表されたデビッド・ボウイの6作目のアルバムである。

 グラムロックの最先端を走っていた頃で、そのジャケットは視覚的インパクトがある。1曲目が流れ始めた。疾走感のあるロックがこの広くない部屋に静かに響いた。

 私は、二人掛けのソファに腰かけた。隣の「ゆみちゃん」は、ティッシュで鼻をかんでから、小さな白いリモコンを手にした。

 「この部屋の照明はLEDなんですけど、色合いが白色と白熱灯色が選べるんです・・・」リモコンのボタンを押すとその色合いが淡いオレンジ色に変わった。

 そしてリモコンについているスライドを操作してその光量を減らしていった。部屋の全体の照度はするすると降下していき、その照明器具のすぐ近くのみが淡くオレンジ色に光り、遠くは薄暗くなった。

 「こうすると、K-8のメーターが綺麗でしょう・・・」と彼女はその目線でYAMAHA K-8を指し示すようにしながら、ぼんやりとした表情を見せた。

 K-8の針式のメーターは俊敏に動いていた。「PEAK」と表示されたランプが時折緑色に瞬く。1曲目が終わり2曲目が始まった。その曲はアルバムタイトル曲である「アラジンセイン」である。

 うねる様なピアノが印象的な曲である。その音楽は1970年代前半の混迷した空気を引きずっているかのようにけだるく重い。

 淡く薄暗いオレンジ色の部屋の照明の効果であろうか、流れているアラジンセインの持つけだるさゆえであろうか、それともすぐ隣で風邪の発熱により少し意識がもうろうとしている感のある女性が放つ特殊なオーラのせいであろうか、K-8の針の動きに目の焦点を合わせていると、私はソファの座面に吸い込まれて体が重く沈み込んでいくような感覚に捉われた。

 LEDの放つ白熱灯色の色合いは、本当の白熱灯に比べるとその色合いは白っぽかった。そのオレンジ色はどこかしら人工的な薄っぺらさがあった。

 曲は3曲目に変わった。私はふと何かを思い出したように、K-8の上に置いておいた操作方法についてワープロした紙を手にした。

 それを彼女に見せながら、レコードからカセットテープに録音する方法について、順序立てて説明をし始めた。

 K-8のINPUTはLINEにしておくこと。DOLBYはONにして、REC LEVELはとりあえず真ん中の「5」に合わせ、針の動きを注視してレッドゾーンに針が入り込まないレベルに合わせることなどを説明した。

 彼女は相変わらず少々目線が茫洋としていたが、私の説明を素直に聞いていた。曲はA面の4曲目の「パニック イン デトロイト」に変わった。

 SONY TA1120の操作方法も説明を終えた。この部屋に入ってすでに30分ほどの時間が経過していた。

 この部屋に一つある掃き出し窓からはそのガラスと淡いクリーム色のカーテンを通り抜けて外の雨の音が聞こえていた。

 その音は相当激しく雨が地面やアスファルトの道路に落ちてきていることを示していた。外はきっと寒いはずである。

 台風の影響により風も強まっているのであろう。外から聞こえる雨や風の音は、何かしらこの小さな部屋がまるでシェルターであるかのように感じさせた。

 台風により、二人は日常とは違う少し歪んだ空間と時間に閉じ込められたかのようである。結局彼女の部屋には1時間近くいた。

 「お大事に・・・ビタミンCを摂ると良いみたいだよ・・・あとはひたすら寝るだけ・・・」

 私は彼女の部屋を出て、コインパーキングまで歩いた。風に吹かれた雨により随分と濡れた。車に乗り込んでエンジンをかけた。吹き上がったエンジンの音は、強い風の音によって、さらっとかき消されてしまった。
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4247:ショートメール

2017年10月28日 | ノンジャンル
 彼女の部屋は5階建ての賃貸マンションの3階にある。入口を入りオートロックに部屋番号を入力した。「呼」と書かれた丸いボタンを押すと、チャイムが静かに鳴った。

 しばし間があってから、彼女が出た。「あれ・・・ショートメール送ったんですけど・・・あっ、でもどうぞ・・・今開けます・・・」と彼女の小さめの声が聞こえた。

 「ショートメール・・・?」

 と訝しく思いながら、開いたドアの中へ入りエレベーターの前まで歩いていった。そしてエレベーターの前でダウンジャケットのポケットに入れていたスマホを取り出した。

 エレベーターに乗り込んで3の数字を押した。それとほぼ同時にスマホでショートメールをチェックした。

 確かに彼女からショートメールが来ていた。ジムでのトレーニング中に来たようで全く気付かなかった。

 そのショートメールを開くと「今日は風邪で体調がすぐれないので、日程を延ばしてもらえますか?」という短い文面が目に入ってきた。

 「しまった・・」

 と思ったが、後の祭りである。場の悪さを感じながら私はエレベーターが昇るに任せた。機械であるエレベーターは淡々とその職務をこなし、私を3階に連れて行った。
 
 「挨拶だけして引き返すか・・・」

 私はそう思いながら、エレベーターを降りた。少し歩くと彼女の部屋の前に着く。各階に部屋が五つある。青い色をした同じ意匠の玄関ドアが五つ並んでいた。そのドアの横には茶色のインターホンがそれぞれ取り付けられている。

 私はそのうちの一つの玄関ドアの前に建ち、インターホンを押した。ややあってから、青いドアが開いた。

 「すいません、ショートメールに気付かなくて・・・具合が悪いようで、また日を改めましょう・・・」

 私はドアが開いた空間へ向かって言葉を押し込んだ。彼女はグレーの上下のジャージを着ていた。少し熱があるのであろうか、目が軽く充血していた。

 「あっ・・・いえ・・・それほど酷くないんで大丈夫です・・・せっかくですから、少し上がってください・・・」

 彼女は、あまり意に介さない様子でそう言った。開いた玄関から室内の温かい空気が漏れ出ていた。

 「じゃあ、少しだけ・・・」と、中に入り、ドアを閉めた。「カチャ」と軽くドアの締まる音が響いた。部屋は加湿器とエアコンが稼働していて暖かく湿度も高く設定されていた。

 「しんどそうだね・・・休んでいて・・・」

 「風邪って結構辛いものだって、改めて思いました・・こんな格好ですみません・・・でも、少しは良くなっているんです・・・」
 
 彼女はそう言って、二人掛けのソファに腰かけた。

 私は「これ、後で食べて・・・」と言って、フルーツがたくさん入ったロールケーキの入った紙袋を部屋の片隅のミニキッチンにある冷蔵庫の中に入れた。

 それから、オーディオ装置の方へ行って、RCAケーブルをカバンから取り出した。それをアンプとカセットデッキの所定の位置に接続した。

 そして、ワープロ打ちした「カセットデッキでの録音方法」と題された紙を一枚取り出して、それをYAMAHA K-8の上に置いた。

 大きめのサイドボードの上には、オーディオ機器が綺麗に並べられていた。それぞれが古く、そして美しい機器たちであった。

 それらを一瞥してから、振り返って彼女を見た。部屋着を着て、化粧を全くしていない彼女の姿は、特に大きな違和感を感じさせることなく、私の網膜の上に投影された。

 「これ、かけてみます・・・?」

 彼女はそう言って細い腕でとある一つのカセットテープを差し出した。それは、彼女が先日一緒に行った中目黒の「Ruts」で購入したデビッド・ボウイのミュージックテープであった。
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4246:台風

2017年10月27日 | ノンジャンル
 ジムのそばのコインパーキングを出た時には午後3時を少し回っていた。ここから中野坂上にある「ゆみちゃん」のマンションまでは1時間ほど着くはずであった。

 雨は本降りである。これから夜にかけて雨はさらに強くなり風も出てくると天気予報は伝えていた。

 超大型の台風21号は日本列島を横断するコースを取るようであった。雨が降り、台風が近づいてくるなか、31歳の独身女性が一人暮らしをしている部屋に出向くのは、なんだかとても奇妙というか、そぐわないような気がしてしょうがなかった。

 彼女の部屋に入るのは3度目となる。一度は一式そろえたオーディオセットを設置しに行った時である。

 レコードプレーヤー、プリメインアンプ、そしてスピーカーを車から降ろし、彼女の部屋に運び入れ、ケーブルを接続してセットアップした。そして音出しして動作確認を済ませた。それは、作業であり、必要性に裏打ちされていた。

 二度目はそのオーディオセットに不具合が生じて片チャンネルから音が出なくなったので、その原因を探り、解決するために行った。

 その時はカートリッジの不具合であったので、持ち込んだ予備のカートリッジに付け替えることにより修復は完了した。これも「現地作業」であった。その作業は手早く適切に行われ、結果もしっかりと伴った。

 今回は、新たにそのオーディオセットに加わったカセットデッキによるレコードの録音方法を伝授するために行くことになったのであるが、わざわざ現場に行かなくとも図でも書いて説明してあげれば、彼女一人でも十分に出来る事のように思われた。

 しかし、話の流れの中で彼女の部屋に赴くことになったのである。彼女の部屋は賃貸マンションの一室でいわゆるワンルームである。

 長方形の部屋は綺麗に整頓されている。長辺側の一面の壁のみに青い壁紙が貼られていて、アクセントとなっている。

 部屋には、大きめのサイドボードあり、その上に並べられるか形でオーディオセットが置かれてる。薄型のテレビは壁に直接設置されている。

 座面が床のすぐ近くにある低い二人掛けのソファがサイドボードに対面する形で置かれ、そのソファの背後にはベッドが置いてある。

 車を走らせながら彼女の部屋の様子を思い浮かべていた。雨が少し勢いを増してきたので、ワイパーの間欠モードを一段上げた。
 
 「しかし、それにしてもちょっと無防備だな・・・一人暮らしの部屋に男性を入れるのは・・・」

 ワイパーは雨粒を弾くように押し出していく。しかし、さっと開けた視界をすぐに雨粒が覆い始める。

 「彼女も31歳・・・和歌山から上京して10年ほど経っている。十分大人だし、今まで色んな経験も積んできているはずだろう・・・」

 風に運ばれてきた大きな葉がフロントウィンドウの右に貼り付いた。それをワイパーが右端へ押しやった。しかし、飛ばされていくことなく右端に残った。

 「プライベートな話もMimizukuでしたが、ボーイフレンドの話は不思議としたことがなかった。結婚を考えなければならない年齢だし、実家の両親もそれを切に望んでいるはずだが・・・」

 低い唸り声のような音がして一瞬強い風が吹き付けた。車のフロントガラスに貼り付いていた木の葉はひとたまりもなく吹き飛んだ。

 心は車の外と同様に少々ざわついていた。Mimizukuで彼女の話は散々聞いてきているので、ある程度の彼女のことは知っている。

 しかし、もしかしたら今日彼女の部屋に行くと、全く違った彼女の一面に遭遇するかもしれない・・・そんな気がしていた。

 「まあ、思い過ごしだろう・・・」

 道は空いていた。台風が近づいているこんな日に出かける人は少ない。東京でも道路の冠水などの被害が出る可能性も十分あるはずだった。

 強い風が車の下を潜っていった。低くくぐもった音が足元を通過した。足元をすくわれたような感じがして、心が不安になった。

 青梅街道から脇道へ入っていった。彼女のマンションのそばのコインパーキングはもうすぐそこであった。
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