AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

5783:オート機構

2021年12月31日 | ノンジャンル
 「酒かすプリン」を食べ終え、「ケニア」も飲み終えたので、会計を済ませて店を出ようかと思っていた時に、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番が終わり、オーナーがレコードを取り換えた。

 「NOW PLAYING」と記された台の上には10インチレコード用のジャケットが立てかけられた。それは、Melodiyaの共通紙ジャケットであった。

 共通紙ジャケットには、曲目や演奏者などは印刷されていない。いわば「レコードの包装紙」でしかない。紙質も悪く、ペラペラである。



 PIONEER CS-E700から、バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」が流れ出した。PIONEER CS-E700はサランネットに覆われていてユニットの様子はわからないが、3ウェイスピーカーである。

 密閉型のエンクロージャーを持ち天然木を活かしたウォールナットのオイル仕上げである。その色合いと姿かたちは穏やかで、店内のナチュラルな雰囲気にマッチしている。

 バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」の冒頭を耳にして、すぐにその演奏者が分かった。マリア・ユーディナであった。このレコードは我が家のレコード棚にもある。

 マリア・ユーディナは1899年生まれのロシアのピアニストである。ロシア革命、スターリンの大粛清、第2次世界大戦と激動の時代を生き抜いた女性であった。

 マリア・ユーディナはスターリンお気に入りのピアニストだった。彼女が録音したモーツァルトのピアノ協奏曲第23番は、スターリンの求めに応じて演奏されたものである。

 ただし、ユーディナは当局とやり合っているような女傑だった。公の場でのコンサートを禁止されたこともたびたびあった。

 普通であれば、粛清の対象となったはずであるが、その音楽性に対する賛美者のうちの一人がスターリンだったので、難を逃れたようである。

 このレコードが録音されたのは1952年4月10日。その演奏は実に大胆ともいえる。彼女の性格そのままに芯の強い明瞭な音でためらうことなく突き進む感じの演奏である。

 しかし、雑然としているところは一切なく、「格調」すら備えている稀有な音楽性を有していて、ついつい惹きこまれる。

 「半音階的幻想曲とフーガ」が終わり、同じA面に収録されている「前奏曲とフーガ イ短調」が流れ始めた。

 この曲の演奏がさらに凄まじい。いつも呆然とする。1952年のソビエト録音。レコード盤であるビニールの質も悪い。盛大なノイズ、フォルテシモでは音が歪む。

 しかし、そんなコンディションの悪さをものともしない音楽性の高さに心奪われながら、その2曲を堪能した。

 YAMAHA YP-400はオート機構を搭載している。トーンアームをレコード面上にもっていき「Playスイッチ」を押すと、アームがゆっくりと降りていって演奏が始まり、演奏が終るとアームはアームレストに自動的に戻りターンテーブルも止まる。

 その「オート機構」に従ってアームはすっと上がって一旦止まり、アームレストに戻っていった。私はそれを合図に会計を済ませて、店の外に出た。夕刻の時間帯、外はすっかりと暮れていたが、西の空の一部にはまだうっすらと赤みが残っていた。
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5782:酒かすプリン

2021年12月30日 | ノンジャンル
 「無言歌」の店内に入り、二人掛けのテーブル席に座った。他の客は二人連れの男女1組だけであった。平日の夕方、窓から入ってくる陽の光は徐々に弱くなっていた。
 
 「本日のコーヒー」である「ケニア」を頼んだ。さらに季節限定デザートとしてメニューに載っていた「酒かすプリン」に目が留まり、「なんだか面白そうだな・・・」と興味が湧いて、これも頼んだ。

 名曲喫茶なので、当然クラシックのレコードがかかっていた。かかっていたのはブラームスのバイオリン・ソナタ第3番であった。

 かかっているレコードのジャケットは「NOW PLAYING」と記された台の上に置かれている。それを眺めた。ヴァイオリンはアドルフ・ブッシュでピアノ伴奏はルドルフ・ゼルキンである。相当古い録音であり、おそらくSP時代の録音をLPに仕立て直したものであろう。

 アドルフ・ブッシュのヴァイオリンは天才的なひらめきに従って揺蕩い、ルドルフ・ゼルキンは秀才的な明晰さで、その危うさを支える。実に良いコンビである。実はこの二人「義親子」でもある。(ルドルフ・ゼルキンの妻は、アドルフ・ブッシュの娘イレーネ・ブッシュであった。)

 古い日本製のオーディオ機器から流れるブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番に耳を傾けた。第1番、第2番の溌溂とした流麗さは、第3番では影を潜め、苦渋に満ちた響きがこの店の夕暮れにさしかかろうとしている空気に似合っていた。

 コーヒーと一緒に「酒かすプリン」も運ばれてきた。銀色の金属製のソーサーの上に白い洒落た小ぶりな器に入れられていて、その見た目も美しく整えられていた。



 「ケニア」をまず口に含んだ。中深煎りに煎られた「ケニア」らしく酸味がほどよく抑えられ、うっとりするような芳香や力強い苦味やコク、優しい甘みが感じられた。

 続いて、酒かすプリンを一口食べた。舌の上ですっと溶けていく柔らかい食感の後、酒かすの香りがふわふわっと香り、甘さの奥に少しだけ苦みが感じられた。その濃厚で複雑な味わいは、「大人の味・・・」だと思われた。

 座った席から見て左手に置かれたオーディ機器に変更はない。YAMAHA YP-400、YAHAMA CA-V1、そしてPIONEER CS-E700・・・古い時代の日本製のオーディオ機器は時を超越してレコードの音をゆったりと奏でていた。

 他の客である2人組も静かに音楽を聴いていた。40代とおぼしい男女であった。近所に住む夫婦であろうか・・・この店で過ごす時間をとても大事にしているように感じられた。
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5781:VUメーター

2021年12月29日 | ノンジャンル
 プリメインアンプやパワーアンプには、VUメーターがついているものがある。特に日本製のオーディオ機器はその装着率が高い。

 高級なアンプメーカーであるアキュフェーズやラックスの製品にはほとんど例外なくVUメーターがついていて、その大きさも大きく、フロントパネルのかなりの面積をVUメーターが占めている。

 このVUメーター、大きければ大きいほど良いというわけではないが、結構大きいものが採用されていることが多い。

 確かに部屋を暗くして音楽を聴くときに、VUメーターがバックライトに照らし出されて浮がび上がり、2本の針が音量に合わせて時にゆっくりと時に激しく触れる様を目にするのは、独特の気持ちよさがある。

 このVUメーターで、印象的なものであったのは、1970年代のYAMAHAのプリメインアンプに時折見かけたものである。



 1976年に発売されたCA-V1も、VUメーターがデザイン上のアクセントとなっているプリメインアンプの一つであった。

 価格は33,000円。けして高級機ではない。どちらかというとエントリーモデルという位置づけの製品である。

 しかし、発売当時中学1年生であった私のお小遣いやお年玉では逆立ちしても買えない価格であった。

 フロントパネルには左右にハンドルもついていて、その姿は13歳であった私の心を鷲掴みにするインパクトを持っていた。

 買えもしないCA-V1を見るためにたびたび地元の上新電機の2階に向かった。そしてその姿を飽きることなく眺めたのである。

 「このアンプをデザインした人はセンスが良いな・・・」としみじみ思ったものである。ボリュームノブやセレクタースイッチなどの造形もこの時代のYAHAMAらしく、美しいものであった。

 そんな古いアンプを、数年前に国立市にある名曲喫茶「無言歌」で見かけた時には、すっとタイムスリップして1976年に戻ったような気になった。

 それというのも、この名曲喫茶の店内には現代を感じさせるものがほとんどなかったからでもあった。

 内装の雰囲気やテーブルや椅子などは、全てアンティークと呼ぶべき古いものであった。そして、レコードをかけるために店内にセットされていたオーディオシステムが全て古い時代のものであった。

 レコードプレーヤは、YAMAHA YP-400で、スピーカーはPIONEER CS-E700。これにYAHAMA CA-V1が加わり、シンプルに構成されていた。

 古い時代の日本製のオーディオ機器で店内に流されるレコードたちも古いものが多かった。店のオーナーは40代半ばと思しき風貌であり、意外であった。名曲喫茶のオーナーというと頭が真っ白な70代の男性というイメージがあったが、「思っていたよりも若い方だな・・・」と思ったのである。

 今日は顧問先からの帰り道に立ち寄った。「無言歌」は古いビルの2階にある。近くのコインパーキングに車を停めて、少し歩いた。
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5780:友人

2021年12月28日 | ノンジャンル
 約45分間、バッハのゴルドベルグ変奏曲のうち、「アリア」から「第15変奏曲」までの16曲が「オーディオショップ・グレン」の店内に響いた。試聴室の広さは16畳ほどで、スピーカーのセッティングは縦長配置となっている。

 普段はLEAKの真空管アンプで聴くことが多いが、その印象と比べるとやはり随分と違うものであった。より精密で緻密、音の質感はじっくりと実が詰まっているといった感があった。

 「まあ、価格も大きさも桁違いだし、当然と言えば当然ではあるが・・・低域の量感や伸び具合もやはり凄い・・・小型2ウェイとは思えない低域が出ていたな・・・」

 Sonus faber Electa Amatorは、個性的なスピーカーで、いわゆる「楽器型」のスピーカーと言っていいであろう。

 そこに独特のきらめき感というか、艶やかな光が乗ってくる。これは、cello Encore 150 Monoがもたらすものであろうか・・・

 LINN KLIMAX KONTROL SEは、色付けの少ない素直な音質が持ち味であるので、この煌めき感は、おそらくcello Encore 150 Monoから来ていると思えた。

 「歌うスピーカー」であるSonus faber Electa Amatorの歌声がさらに艶やかな質感になっているのに、少々驚くとともに「これは麻薬的な音色だな・・・嵌ると抜けられない・・・危険な香りがする・・・」と思った。

 続いてかかったCDは、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番であった。ヴァイオリンはウラディミール・マリーニン。1974年の録音である。CDのブックレットには若かりし頃のマリーニンの写真が載っていた。実に凛々しい表情である。



 揺蕩うような陰鬱なメロディーがヴァイオリンで奏されて、やがてオーケストラと絡み合い、テンポアップして展開していく。

 その第一楽章の冒頭から、ぐっと聴く者の心を惹き付ける音の質感である。Sonus faber Electa Amatorはヴィオリンが得意科目である。

 やはり、キャビネットに採用された無垢のブラジリアンウッドの響きが良いのであろうか・・・自然で豊かな響きである。

 Electa Amatorは、現行型として「Ⅲ」が製造・販売されている。まだ、その音には触れていないが、オリジナルの良い点をきちんと引き継いでいてほしいものである。

 結局、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番を第1楽章から最後の第3楽章まで通して聴いた。演奏も実に素晴らしいものであった。

 「Electa Amator」は、ラテン語で「選びぬかれた友人」との意味である。バッハのゴルドベルグ変奏曲とプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番を聴いていて、「Electa Amatorにとって、cello Encore 150 Monoは、『選びぬかれた友人』の一人であることは、間違いないようだ・・・」と思っていた。

 「これで、もう少しサイズが現実的なものであればいいのだけど・・・大きいし・・・重い・・・」その巨体を少々恨めしく眺めた。

 「我が家のGuarneri Mementoにも、cello Encore 150 Monoは合うような気がするな・・・しかし、この巨体・・・どう転んでも我が家のラックには収まらない。」

 cello Encore 150 Monoは、私のそんな思惑など全く無関心といった風情で、実にクールな質感で「オーディオショップ・グレン」の床の上で佇んでいた。
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5779:ゴルトベルク変奏曲

2021年12月27日 | ノンジャンル
 「じゃあ、さっそく聴いてみますか・・・」と小暮さんは、NAGRA CDCにCDをセットした。「オーディオショップ・グレン」のオーディオラックには、普段は見かけないコンパクトなプリアンプもセットしてあった。

 「このプリはLINNですか・・・?」と尋ねると、「そう、LINNのKLIMAX KONTROL SE。cello Encore 150 Monoと一緒に買取したものでね・・・珍しいブラック。ブラックだと少し印象が変わるよね・・・」と小暮さんは答えた。

 「そうですか・・・LINNのプリとcelloのパワーの組み合わせって、とても珍しいというか、あまりないような気がしますね・・・」

 「確かに・・・あまりないだろうね・・・LINNはどちらかというとおとなしめで色付けのない素直な音色だから、celloの個性が活きるのかもしれない。大きさも圧倒的にcelloの方が大きいしね・・・」

 LINN KLIMAX KONTROL SEとcello Encore 150 Monoという珍しい組み合わせで音を聴くことができるのは貴重な経験であろう。

 スピーカーはこの店の常設機であるSonus faber Electa Amatorである。非常に程度の良いものであるが、残念ながら非売品である。

 CDプレーヤー、プリアンプ、そしてスピーカーは比較的コンパクトなオーディオ機器であるが、パワーアンプだけ巨大である。

 「同じcelloでも、cello Encore Power Monoであれば、横幅が240㎜のコンパクトな形状だから、この組み合わせにマッチしているような気がするけど・・・音の威力というか、低域のドライブ力や力感では、きっと差が出るのだろう・・・」

 セットされたCDは、ラン・ランのピアノによるバッハの「ゴルトベルク変奏曲」であった。「バッハの音楽は今のような不安な時期には、とても良い薬になるよね・・・特にこの曲は、他のバッハの作品と比べても、優れた癒やしの力を持っている気がして・・・結構よく聴くんだ・・・」と小暮さんは語った。

 NAGRA CDC、LINN KLIMAX KONTROL SE、cello Encore 150 Mono、そしてSonus faber Electa Amatorという、それぞれがとても個性的なコンポーネントの集合体であるシステムでゴールドベルグ変奏曲を聴いた。

 「アリア」から始まり、「第1変奏曲」「第2変奏曲」と続いていく。結局CD1に収められている全て、「第15変奏曲」まで聴いた。


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