AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

3731:ゴール

2016年05月31日 | ノンジャンル
 10kmを超えた辺りからターンパイクはその様相を変える。道は一旦平坦になってしばし下る。しかし、下りはやがてまた上りに転じる。

 その最初の下りで「ペースメーカー」との距離がぐっと縮まった。そしてその後の上りでほぼ真後ろに貼り付いた。

 2番目の下り、2台は高速で走る。フロントをアウターに入れ、リアもトップに・・・ぐいぐいと踏み込むとスピードは50km/hを超えていく。

 2番目の下りを終えると、少し長めの上りになる。この上りが散々酷使され続けた脚には大きな試練となる。

 この上りで「ペースメーカー」の前に出た。体はぎしぎしと唸っていた。お互い疲労の極みにありながら、坂にチャレンジし続けていた。

 長く感じた上りが終わると3番目の下りが入る。この下りは短い。ここも高速で走る。そして最後の上りへ入り込んでいく。

 沿道のスタッフの人達が「もうすぐですよ・・・頑張って!」と声をかけてくれる。体はとうに限界点を超えている感じであったが、ゴールに向けて最後の一滴まで絞るようにクランクを回し続けた。

 「ペースメーカー」の彼も私の後ろで困難な行程の最期を踏ん張っているようであった。振り返ることはなく、俯いて顔を歪め、ダンシングでラストスパートした。

 そして、緑色をした計測ラインを越えた。ゴールして少し行った先に計測チップの入ったベルトを回収する地点があり、右足の足首に巻いたベルトを自分で取ろうとした。

 ロードバイクを止めて左足のクリートを外して左足を地面に着けた。右足のベルトを取り外すには前かがみになって右手を伸ばさなければならない。

 その動作さえスムースに出来ないほどに疲れていた。スタッフの女性が見かねたのか屈んですっと取り去ってくれた。

 緑色の計測ラインを越えた瞬間にサイコンのストップボタンを押していた。改めてタイムを確認した。「1:03:38」と表示されていた。

 2012年の12月に走った時のタイムは「1:12:57」であったので、9分以上タイムを縮めることが出来た。

 それにしても疲れた。ロードバイクをバイクラックにかけて、しばらくの間座り込んだ。どのくらいそうしていたであろうか。

 しばし休憩して、「完走証」をもらうためにスカイラウンジの中に入っていった。中には売店や食堂がある。売店でコーラを買った。

 そしてスカイラウンジの2階に上がって「完走証」を貰った。完走証に印刷されたタイムは「1時間03分37秒267」であった。

 ラウンジを出て、防寒着や補給食が入ったリュックを受け取りにいき、リュックを背負って、芦ノ湖が見下ろせる地点まで行って、お握りを頬張った。


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3730:ペースメーカー

2016年05月30日 | ノンジャンル
 カウントダウンが始まった。その数字は小さくなっていき、「スタート!」の号令で、皆一斉に走り出した。

 クリートが上手く嵌らずふらつく参加者もいたが、特にトラブルもなく走り出した。スタートゲートのすぐ先に緑の計測開始ラインがあった。これと同じ素材で出来たラインが13.8km先にある。残念ながら、そこまで辿りつくには厳しい坂を上るしかない。

 その計測ラインを越える瞬間、サイコンのスタートボタンを押した。サイコンは時刻を計測し始めた。秒数が勢いよく数字を刻んでいく。その流れに乗り遅れないように私もクランクを回した。

 箱根ターンパイクは普段は車専用の有料道路である。路面状況はとても良い。10%程度の厳しい斜度が続くなか、参加者は各々のペースで上っていった。

 GARMIN 520Jには心拍数は表示されてない。これは私の不注意が原因であらかじめ分かっていたことである。

 更に悪いことに、もう一つの重要な指標であるパワーも何故かしら表示されない。ウォームアップの時からもそうで、こちらは原因不明である。

 心拍数もパワーもサイコンには表示されない状態であるので少々不安であったが、とにかくペースメーカーとなってくれそうな参加者を探した。

 序盤のある程度の距離を走ると参加者はその出せるスピードに応じて縦に長い展開になる。同じくらいのスピードで上る参加者の中から「ペースメーカー」を見つけようとした。

 そしてちょうど良い参加者がいた。私はその後10mほどのところに付けた。「ついていこう・・・べったりと後ろに貼り付くのはちょっと失礼だから一定の距離を開けて追尾しよう・・・」そう思いながら走った。

 体感的には、まずまずのペースであった。どの位の心拍数でパワーはどの位かははっきりとは分からなかったが、速すぎて後半失速してしまうほどではなく、かといって楽をしているわけではないことは、体にかかる負荷の具合からも分かった。

 心臓はバクバクとした振動と音をたてていた。呼吸は排気と吸気を一定のタイミングで繰り返し、その呼吸音はロードバイクの乾いた走行音と混じり合った。

 ターンパイクは甘くない・・・それは分かっていた。事前に分かっていたことであるが、目の前の現実は改めてそれを身に沁み込ませるかのようにぐいぐいと食い込んでくる。

 「ペースメーカー」は、淡々と走る。その背中しか見えないので表情はうかがえないが、私のそれよりも余裕があるんじゃないかと思ってしまう。

 5kmほど上った。脚が重い。体、特に腰と背中に軽い痛みが走り始める。「ペースメーカー」の背中が少し遠ざかった。

 50mほどの差が開いた。その空隙には何人かの参加者が割り込んで来た。俯きがちになる顔を時折上げた。そして「ペースメーカー」の背中を探した。

 その背中を確認して、歯を食いしばった。追尾するその間隔はかなり広がってしまったが、視界からその背中が消え去ることはなかった。

 7kmを超えて後半に入っていった。長い時間厳しい走りを続けていると、少しふっと体が軽くなる時間帯もあるもの。

 何かがかみ合って体が順調に動くのか、あるいは強めの負荷をかけ続けると脳内麻薬の分泌が一気に高まる時間帯があるのか、その原因は不明であるが、少しの間だけ体が軽くなる。

 そんな僅かばかりのオアシス経験もしたが、それは行程の2%ほどのこと。98%は厳しい坂に表情を歪め、体を軋ませて進んでいった。

 ターンパイクは10km程までは厳しい斜度の坂が続く。10Kmを超えると3度の下りが入るアップダウンコースとなる。

 10Kmを超えるまであと1km程となった。「ペースメーカー」の背中は時折前に向ける視線の先に確かにあった。

 そしてその背中までの距離は徐々に近づいてきた。その背中の表情は苦し気に見えた。ここまでの行程で多くの参加者は疲弊している。彼の背中にもそれがはっきりと窺えた。もう少しでアップダウンコースに入り込む。
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3729:箱根ヒルクライム

2016年05月29日 | ノンジャンル
 「あれ・・・ない・・・」

 あるべきモノがあるべきところにないと、やはり焦る。そのあるモノとは、GARMIN520Jの心拍数センサーである。

 胸に巻くベルトはあるのであるが、そのベルトに装着するセンサーがないのである。使用したのは先週のロングライド。

 ロングライドを終えて自宅に帰りつき、ベルトはサイクルウェアと一緒にすぐに洗濯する。センサーはその時ベルトから外した。そしていつも置く位置にセンサーを置いたはず・・・しかし、その場所にない。

 いろんな場所を探したが結局見つからなかった。今日は「箱根ヒルクライム」に参加する。心拍数の情報が無い状態でターンパイクを上ることになってしまった。

 車にロードバイクなどを積み込み自宅を後にしたのは5時半であった。前日に受付をする必要があったので、昨日も車で走った同じルートを辿った。青梅インターから圏央道に乗り、海老名ジャンクションで小田原厚木道路に乗り換えた。

 時間帯が早かったので渋滞は無く、2時間後には目的地に着いた。小田原競輪場のそばの指定された駐車場に着いて、Kuota Khanを車から降ろして準備を整えた。

 防寒着や補給食などを入れたリュックを預けに、小田原競輪場の正面入り口に向かった。リュックを預けてから、30分ほど周囲を走って、ウォームアップした。

 天気は快晴。陽光は強く降り注いでいた。気温は高めである。曇り空であった方がヒルクライムには良いが、贅沢は言えない。

 「箱根ヒルクライム」は、箱根ターンパイクを走る。距離は13.8km、平均斜度は7.2%。上り始めから10Km程は10%ほどの斜度が続き厳しい行程となる。10kmを超えると下りも入り高速走行コースとなる。

 前回「箱根ヒルクライム」に参加したのは2012年・・・その時は開催時期が12月であった。とても寒かった記憶がある。

 その翌年も参加しようと思ったが開催されなかった。昨年から開催時期を変えて復活したようである。

 2012年に参加した時のタイムは「1時間12分57秒」であった。それから3年半ほどの時間が経過した。

 3年半の間、何もしなかったら年齢が加わり体力が落ちタイムも落ちる。その間「一日置き作戦」で私なりに努力したので、前回タイムよりも良いタイムで上り切りたいところである。

 「箱根ヒルクライム」は年齢別に順次スタートする。私は「50歳~59歳グループ」に属する。そのグループは2番目にスタートする。スタート時間は9時5分。

 ウォームアップを終えて待機場所へ向かいスタートを待った。スタート前のこの時間はやはり緊張感が高まる。

 チームメンバーがいないので会話することもなく、静かに待った。スタートイベントが始まり、何人かの挨拶が続いた。

 そして最初にスタートするグループがスタートした。私たちのグループはその5分後にスタートする。スタッフに誘導されてスタート地点まで移動し、その時を待った。空は抜けるように青かった。


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3728:海童道祖

2016年05月28日 | ノンジャンル
 「しんどいんでしょう・・・?」

 「しんどいね・・・とても・・・」

 「でも、楽しい・・・?」

 「楽しいのかな・・・いや、楽しくはないよね・・・でも、走り終えると、なんというか爽快感というか達成感はあるのかな・・・」

 「ふ~ん・・・」

 「ふ~んって・・・やってみる・・・ロードバイク・・・?前に少し興味あるって言ってたよね・・・」

 「う~ん、どうかな・・・しんどいの嫌いだから・・・」

 「坂さえ上らなければ、そんなにしんどくないよ・・・もしその気になったら良いショップを紹介するよ・・・小平市だから少し遠いけど・・・」

 「その時はよろしくお願いします。」

 フレンチトーストを完食し、添えられていたサラダもすべて胃袋の中に納めた。珈琲をゆっくりと味わいながら、そんなとりとめのない会話を彼女と続けていた。

 「ゆみちゃん」は「あっ・・・そうだ・・・今日は良いものを持ってきているんです・・・」と言って、思い出したように自分の鞄の中を探った。

 そして、取り出したのは一つのカセットテープであった。そのミュージックテープのジャケットには「海童道祖」と書かれていた。

 「『わたづみどうそ』って読むそうですよ・・・」

 「これって尺八だよね・・・?こんなの聴くの・・・?」

 彼女は変わったところがある。もうすぐ30歳であるから、もの心ついた頃にはカセットテープなどは、巷から消えていたはずである。しかし、カセットテープで音楽を聴くのが好きである。自宅にはSONY製の古いラジカセも持っている。

 彼女がファンである「ねこ」という名前のインディーズバンドがCDだけでなくカセットテープでもその作品を発表するのがきっかけで興味を持ったようである。

 そして、いかにも古い感じのするミュージックテープを取り出して、「これとても良いんです・・・」と呟いたのが、尺八の演奏を収録したものである。

 「やっぱり、変わっているな、彼女・・・つかみどころがないというか・・・」そう心の中で思った。そんなこちらの思いには拘泥することなく、彼女は慣れた手つきでそのカセットテープをケースから取り出して、カウンターの上に置いてあるSONY製のラジカセにセットした。そしてPLAYボタンを押した。

 尺八の幽玄な響きが、小さなスピーカーから流れ出した。「目を閉じて聴いていると、なんだか自然の中にいるような気がするんです・・・山の中とか森の中とか・・・川が近くにあって・・・」彼女は目を閉じた。

 私も彼女に倣って目を閉じてみた。しばし、耳を静かに傾ける。暗示にかかりやすい性格ゆえか、確かに彼女が言うように自然のなかにいるような感覚に捉われた。

 「竹林だな・・・尺八だからかな・・・竹林の中を歩いているような気がする。」私は彼女に言っているのか、自分に言っているのか判然としない感じで呟いた。

 「川も近くにありませんか・・・?」彼女の問いかけに「はっきりと見えないけど、小さな川があるね・・・きっと・・・」と答えた。

 どのくらいの時間が経過したのであろうか、10分くらいであろうかあるいは15分くらいであったであろうか・・・1曲が終わった。彼女はラジカセのSTOPボタンを押した。

 我に返ったように私は目を開けた。「なんだか、良く分からないけど良かった・・・本当に自然の景色が見えるようだった・・・」

 私がそう言うと彼女は嬉しそうに笑った。「ヤフオクで見つけたんです。こういった古いミュージックテープが安い値段で出ているんです・・・」

 私は、会計を済ませて一足早く店の外に出た。彼女は別れ際「頑張ってください・・・ターンパイク・・・しんどいでしょうけど・・・」と言った。

 丸い形状のドアノブを押して「Mimizuku」の外に出た。後ろで鈴が鳴った。乾いた音であった。その音は一つの古い時間がそっと閉じていく合図のように感じられた。
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3727:三択

2016年05月27日 | ノンジャンル
 「私もこれお願いします。フレンチトースト・・・新メニューですか、これ?・・・えっとホットコーヒーで・・・」

 私は女主人に声をかけた。

 「まだ正式には決まったわけではないんですけど、試作段階なんです・・・でも、ゆみちゃんには好評なようで・・・」

 女主人は特に拘泥する感じではなく、さらりと言った。

 「これ、美味しいです。ぜひ、正式メニューに採用してください・・・!」

 「ゆみちゃんは」はきっぱりと言った。

 「じゅわってしていて、味わいが濃厚・・・口に含むと自然と笑顔になります。これなら、食事でもデザートでもいけますし、ナポリタンとホットサンドとフレンチトースト・・・三択で悩みそう・・・」

 彼女は笑顔である。私もその笑顔につられて、笑顔になる。座って、とりとめのない話をしばし「ゆみちゃん」としていると、バターの香りが香ばしいフレンチトーストがたっぷりと添えられたサラダと一緒に私の前のカウンターに置かれた。

 ナイフとフォークを使ってゆっくりと食べた。私は比較的食事時間が短い。いつも妻から「もっとゆっくり食べたら・・・」とたしなめられる。

 最近は意識してゆっくりと食事するようにしている。フレンチトーストは卵、牛乳、砂糖などを成分とする液体に一晩漬けられているようで、外はカリッとしているが中はじゅわっとしている。

 「ゆみちゃん」が言うように、何故かしら幸せな気分になる。笑顔になる。卵の色というものはなんだか「幸福」を連想させる。

 「これ、いけますよ・・・いけます・・・正式メニューにしてほしいですね・・・・」

 サラダも完食するとそれなりのボチュームがあり、食事としても十分成り立つ。たっぷりめのサラダが添えられているので、栄養のバランスもとれているように感じられる。

 我が家の上の娘はフレンチトーストが苦手である。あの中がふにゅっとしたパンの食感が馴染めないと言っていた。私は個人的にはこのふにゅっとした感触はいけると思うのであるが、まあ人それぞれである。

 食事を終えて、しばらくの間「ゆみちゃん」と会話をしていた。彼女は6月生まれ、今年の誕生日で30歳になる。そんな年齢の話や彼女の会社の話など、話題は紆余曲折しながらその姿を変化させていた。

 ふと話題が変わった。「ロードバイク、相変わらず乗っていますか・・・?」彼女がそう訊いた。

 「相変わらず・・・乗ってるよ・・・今週末は箱根ターンパイクをロードバイクで上るレースに出る予定でね・・・」

 私がそう答えると、彼女は「それって楽しいんですか・・・?」とちょっと呆れた感じの表情で訊いた。

 彼女の大きめの目を覗き込んだ。そして眉を少し上に上げて、「楽しいのかな・・・どうだろう・・・」とあいまいな返事をした。
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