原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

「共謀罪」法本日施行、あなたも今日から国家に監視される

2017年07月11日 | 時事論評
 随分と以前の事と記憶しているが、現在私が住む集合住宅物件に「監視カメラ」を取り付けるか否かが管理組合に於いて話し合われた時があった。
 結局、住民皆の多数決によりその可否が決定される事となり……。

 その際、私(と言うより私が操る我が家)は「監視カメラ設置 反対」 に一票を投じた。
 投票結果 「賛成多数」との結論が出て、私が住む集合住宅に「監視カメラ」が何台か設置された。 その設置場所とは、正面玄関口、裏玄関口、エレベーター内、ゴミ回収施設前、その他もう一カ所あっただろうか?

 何故、「賛成多数」との結論が出たのか? 
 そして、何故、私が「設置反対」の立場を貫いたのか??
 まさにこの課題、本日 2017.7.11 施行された「共謀罪」法に賛成か反対か、の国民意思の縮図であったような気がするのだ。


 何故、我が集合住宅に住む多数の人々は、「監視カメラ設置」に賛成したのか? から私論を展開しよう。
 彼らの論理とは、「犯罪行為」全般に対し “自らは被害者”意識が強いものと推測する。
 悪い奴らは掴まえねばならない。 そのためには「監視カメラ」が役に立つに決まっている。 これさえ付けておけば、我々“善人”は安心して暮らせる。 そんな単純思想に基づくものだったと私は判断している。
 そしてこの日本という国は、そんな自称“善人”国民により成り立っていると表現して大袈裟でないような気もする。
 ここに来てやっと安倍政権支持率が大幅に落ちたが、少し前まで安倍政権を支持する国民は過半数を超過していた。 そんな国民心理も我が分析によれば、 “自分は善人。善人だからこそ多数派支持の安倍政権を支持する”、 との単純思想に基づく行為だったものと理解可能な気さえする。

 片や、何故私(我が家)は自分が住む集合住宅への監視カメラ取付けに「反対」の一票を投じたのか?

 その論理とは、まさに「共謀罪」法成立 “反対” 論理と同一だ。
 自分達が取付けた監視カメラに自分達も監視される! との事態に、何故住民は気付かないのか? どうしてそれ程に自身やご家族が善人であると無意味に信じられるのか??  との、まさにアンビリーバブルな感覚が私には当初より内在していた。 
 いえいえ、決して私は悪行ははたらきませんよ。 私とて、我が住居で平穏無事に日々過ごす事を願っている。 ただ「監視」との言葉の響きに計り知れぬ恐怖を漠然と抱くこの感覚を、何故他の住民が抱かないのか?? 不思議かつ怖い思いさえ抱かされた…。

 監視カメラを取り付けたその直後、集合住宅内で子どものいたずらが多発した。
 その時に、この監視カメラ解析を実施したようだ。  そうしたところ、特定の子供達がいたずらする場面が発見された様子だ。 さて、その子供さんのご家庭の皆さんは如何なる感想を持たれたのだろう? 

 あるいは最近の事だが、1階玄関の集合ポストのオートロック内部の鍵が壊されるとの事件も発生した。 その際にも監視カメラ解析と相成り、犯人が特定されたようだ。 内部犯行だったと推測するのだが、その犯行者のご家族の心境や反応や如何に……
 

 とにもかくにも本日2017.7.11 、犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が施行されてしまった。 
 これまでは、犯罪を実行に移した段階で罪に問う事を原則としてきたが、今後は対象となる277の罪で、犯罪を計画し準備を始めた段階で処罰される事となる。 (本日の朝日新聞一面より引用。)

 
 安倍政権により強引に法施行に持ち込まれた「共謀罪」に関し、我がエッセイ集2017.6.15 バックナンバーでも取り上げている。

 その結論部分の一部を、以下に再度引用しよう。
 少し前の 2017.5.28 朝日新聞記事 「今はまだ岸辺漂う笹舟か」と題するコラム記事より、朝日新聞編集委員氏が綴った当該「共謀罪」に関する記述の一部を紹介しよう。   戦前の治安維持法は、成立すると可能な限り拡大解釈された。 解釈が限界を超すと改悪が図られた。  そうして生まれた悪法がおそるべき怪物と化していく中で、おびただしい理不尽と悲劇が起き、戦争で国は破滅した。
 今の「共謀罪」をただちに治安維持法の再来とは言えないだろうし、当時とは司法や社会のありようも違う。 とは言え、相似形は疑いようがない。 犯罪者を捕らえるというより、捕らえたい者を犯罪者にする道具になりかねない。 「テロ」「五輪」と反論を封じやすい語に包まれて、危うい卵は参院選へ送られ産み落とされようとしている。   (以上、5月28日付朝日新聞記事より一部を引用したもの。)
 その“危うい卵”が、本日まさに安倍政権による乱暴かつ強引な手法により、再度我が国に産み落とされてしまった…… 
 (以上、「原左都子エッセイ集」バックナンバーよりごく一部を再掲載したもの。)


 更には、朝日新聞本日2017.7.11 朝刊に掲載されていた 作家 高村薫氏による「共謀罪」に関するメッセージの一部を紹介しよう。

 改正組織犯処罰法は、日本の刑事司法の大原則を変える大きな改革にも関わらず、内閣総理大臣も法務大臣も与党議員も正しく法律を理解している形跡がない。 
 それを採決強行で成立させてしまう立法府のやり方に我々有権者は愕然とするべきだ。 
 法律が成立して得をするのは捜査機関のみだ。 テロに限らず、あらゆる捜査で国民の日常生活を監視できるようになるのが「共謀罪」の成立だ。 これにより、捜査機関の恣意的な監視が広がる。 有権者は監視されているとの事を忘れない事が大切だ。 
 それにしても異様なのは、誰のためにこの法案成立を欲したのかが不明瞭な点だ。 結局、安倍政権を支える勢力への異論を排除する社会への復帰を目指す空気感が、こんな法律を産んだのだろう。
 言葉にならないものが政治を動かし、国民が恣意的に監視され、自由を失っていく事になる。 力のある日本語が残っていれば、空気感で動く危うい世の中や、原則を重視する事を失った社会の暴走は起きない。
 (以上、朝日新聞に掲載されていた作家 高村薫氏による記事の一部を紹介したもの。)

 
 最後に、原左都子の私論で締めくくろう。

 我が集合住宅に共に暮らす「監視カメラ」取付け賛成派だった大多数の皆さんの意思は、その後も変わりはないのだろうか?
 本日施行された「共謀罪」法に心底安堵して、今後も日々安穏と暮らして行かれるのであろうか??
 結局は、その種の弱者の皆様と同様にこの世に生を営んで行く運命にある我が家なのだろう。

 「マイナンバー制度」も施行された現在だ。
 我々は、深い思想も無く国家に個人情報を提供せざるを得ない時代背景と移ろいでしまっている。

 せめても本日「共謀罪」法が施行された事実だけでも、今一度全国民が我が事として捉えるべきだろう。