原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

新国立競技場A案建設後の維持管理費を明示せよ

2015年12月23日 | 時事論評
 昨日の12月22日、2020東京五輪の主会場となる新国立競技場に関し、業者2チームから提案されていた設計・施行案のうち 「木と緑のスタジアム」 を主なコンセプトにした“A案”で建設する事が決定した。

 当初、新国立競技場建設を巡っては、「キールアーチ」と呼ばれる2本の巨大なアーチと流線形が特徴的だった建築家ザハ・ハディド氏による建設案が採用されかけたいきさつがある。 ところが、この建設費用が約2651億円にまで膨大する事実が世論の反発を招く事態と相成り、ハディド氏に巨額の損害賠償金を支払う形で7月に白紙撤回されるに至っている。


 さて、そんな東京五輪組織委員会の失策・醜態の後に浮上したのが、新たな建設計画案の募集だった。
 そして(私自身はその経緯を承知していないのだが)、最終選考案として“A案”“B案”二つに絞り込まれたようだ。

 元々2020東京五輪開催反対派であり、かつ私の住居地である東京都より300何十億円かの巨額血税が投入される新国立競技場建設に際しては、元より少しでも安価な案に賛同したいと考えていた。
 しかも、五輪反対派の立場としての更なる懸念は、五輪開催後に発生する施設維持管理費に他ならない。 おそらくその費用総額を、4,50年後の競技場解体後まで東京都の血税より負担するのであろう。
 どうか、最終選考に当たっては、将来的な競技場の維持管理費や更にその先の解体費用まで含めて議論がなされるべきと期待していた。

 ところがどうしたことか、昨日の報道によれば、新国立競技場最終選考基準とは“2020五輪開催時の評価のみ”でなされてしまった事に大いに失望している私である。
 例えば、「総工費」 「工費短縮の実現性」 「日本らしさへの配慮」 「暑さ対策等環境対策」 「観客席などの建築計画」 …
 これらの評価基準は、すべて2020東京五輪開催にしか焦点が当てられていないであろう事実に辟易とさせられるのだ。 (ちょっと待ってよ。この競技場に先々に渡って血税を投入させられる東京都民の身にもなってよ~、と愚痴をこぼしたくもなる。)
 しかも昨日NHKニュース報道で垣間見た、A案決定の映像にて写し出された安倍首相はじめ、東京五輪組織委員会メンバーの“糠喜び”の実態には腹立たしい気分にもさせられるというものだ!


 話題を私事に移そう。

 幾度となく我がエッセイ集にて公開しているが、原左都子の自宅マンションが現在第一回大規模修繕中だ。 建物とは建設後の定期的維持管理こそが建物を長持ちさせるために肝要である事は、皆さんご存知であろう。
 それはそうなのだが、一体その修繕に如何程の費用が発生するのかご承知であろうか? 
 我が所有物件建物の場合、30世帯程の小規模マンションなのだが、築12年に達した建物の外壁工事を実施するのに約4500万円の費用が発生している。 これを一戸当たりの負担額に割り当てると150万円/戸 程の経費負担が発生することとなる。 もちろん月々の“修繕積立金”制度により、その実施が可能なのだが、これを建物解体まで12,3年周期で繰り返す各戸の総負担額が多額に上る事実をご想像頂けることであろう。

 新国立競技場とて、同様の論理で建設後の維持管理費を賄っていく事となる。
 にもかかわらずその議論を置き去りにし、2020五輪開催のみを表ざたにして争った結果の今回の“A案”採用決定に、大いなる疑義を抱かざるを得ない。


 建設素人の私であるため、専門的な指摘など何ら出来ない事は承知の上だが…

 “A案”に関して素人なりに気になる事がある。
 それは、「木と鉄のハイブリット屋根で日本伝統的な“和”を強調した」とのフレーズだ。 如何に考察しても、木材の耐久性と鉄の耐久性とは大いなる格差があろう。それを承知の上での建設後のメンテナンス計画を立てているのであろうか?  あるいは、競技場周辺に配置した樹木の数々…。 我が所有マンションでも樹木を多く配置しているがその剪定作業に毎年少なからずの費用が発生している。 
 もちろんB案でも、周囲に純国産カラマツの柱を72本植えスタジアムを支える計画だった様子であるため、建設後の費用発生額に大差はなかったのかもしれないが…


 朝日新聞本日(2015.12,23)の記事より、「五輪後の姿 議論を」 の一部を以下に要約して紹介しよう。
 “A案”“B案”に関する9項目の審査基準のうち「工期短縮」でものをいい、A案が選ばれた。(原左都子の私論も交えるが、要するに安倍総理及び五輪組織委員会による)最優先課題とは、「五輪に間に合わせること」でしかなかった。) それにより、他の「建設計画」や「維持管理費の抑制」等5項目でB案よりも劣りながらも、A案が選ばれた理由だ。
 五輪後国内外の陸上主要大会を開くには、近くに練習用トラックがないと「不適合」となる。 五輪では仮設で整備するが、常設の練習用トラックを造る土地がない。  今後、A案競技場を有効利用するためには知恵が必要だ。 コンサート等で収益を上げねば、巨額の維持費をスポーツくじに頼ることになる。

 まったくもって、2020東京五輪を開催しさえすれば自分の政権は安泰だし成功だ!後は我関せず、と言いたげな安倍政権のやり口には呆れてものが言えない…

 東京都民の一人として無念なのは、五輪開催のために「新国立競技場」建設の血税を国家から煽られ、それを差し出した見返りが何もない事実だ。 
 それどころか、今後の未来に大きなお荷物となるのが見え透いている競技場の維持管理費を、ゆくゆく“博打(ばくち)”にその回収を頼らねばならない実態に、お先真っ暗な心情しか抱けないというものだ…