原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

おとぎの国の 「コッペリア」

2012年05月06日 | 芸術
 (写真は、2002年5月に東京芝・メルパルクホールに於いて公演された「コッペリア全幕」の一場面。  前列中央が当時小学3年生だった我が娘。 最後列右から2人目は、世界中の数多くのバレエ舞台で長期に渡りご活躍のベテランダンサー マシモ・アクリ氏)


 昨日5月5日、私は娘と共に東京渋谷Bunkamuraオーチャードホールで開催された 松山バレエ団による「コッペリア」を観賞しに出かけた。
 (松山バレエ団の「コッペリア」の写真を掲載しようとあちこち探したのだが残念ながら見当たらないため、冒頭では我が娘が今から遡る事10年前の2002年5月に出演した「コッペリア」の舞台写真を掲載させていただいた。)

 数あるクラッシックバレエ古典名作の中でも、原左都子の一番のお気に入りは 「コッペリア」 であることに関しては、本エッセイ集のバレエ関連バックナンバーにおいて再三触れてきている。  そのため、国内で「コッペリア」の公演がある情報を得るとそそくさと座席を予約して出かけている。

 何故私が 「コッペリア」 ファンであるかに関しても再三述べてきているが、その第一の理由とは、冒頭の写真のごとく幼少の頃よりクラシックバレエを習っている我が娘が(教室の小規模な発表会等を除いて)初めて出演させてもらえた古典全幕ものの本格的舞台がこの作品であり、親として大いに思い入れがあるためだ。
 参考のため述べると、幼い子どもにクラシックバレエを習わせる親の負担とは相当のものがある。 経済的負担の程はともかく、特に舞台に子どもを出演させる場合(その規模が大きい程)、常に稽古やリハーサル会場へ親が付き添わねばならない。  この「コッペリア全幕」の時のその付き添い負担の程は実に厳しかった。 時には学校を早退させねばならない日もあるのだが、それを避けたい私はリハーサル会場に遅刻して娘を連れて行った。 これが既に年長者であるならば許されるが、一番下っ端の端役の娘には許され難き事態だったようだ。 親子共々主宰者よりこっ酷く叱られつつも、とりあえずは「申し訳ございません!」と謝るしか手立てがなかった私だ……

 そんな舞台裏の苦労を一保護者として噛み締めながらも、リハーサル会場の裏に流れてくる「コッペリア」の楽曲の素晴らしさにつられて、その練習風景をこっそりと覗き見したものだ。  何せ、出演者中一番年少組かつ端役下っ端の娘を抱えた立場の親であり、諸先輩保護者の方々から“いじめにも似たご指導”も賜ったものだ。  そんな言われなき屈辱に耐えつつも、心底音楽芸術好きな私とってはリハーサル中にこっそりと覗き見した「コッペリア」という素晴らしい古典作品の威力の方がずっと勝っていたのだ!


 我が娘が2002年5月に出演させていただいた、上記写真のメルパルクホールに於ける「コッペリア全幕」の舞台以降、私は幾度この作品のプロによる舞台を観賞してきたことだろう。
 その回数は自分自身でもカウント不能な程であるが、昨日観賞した松山バレエ団による「コッペリア」はさすが“こどもの日スペシャルバージョン”とのタイトルのごとく、少し特異的な「コッペリア」との感想を抱いた。

 松山バレエ団と言えば、私が過去に於いて一番多く観賞させていただいたのは毎年年末に公開される「くるみ割り人形」である。
 とにもかくにも全国に渡って多大な団員数を抱えている松山バレエ団の場合、その舞台における出演者数もダントツに多い。 常に数十人の出演者が舞台に繰り出して所狭しとダンスやマイムを連続するその絢爛豪華な演出は、オープニングからエンディングまでの一部始終が圧巻である。 これ程の人員数や財力のあるバレエ団とは世界的にも 松山バレエ団 を於いて他にはないのではあるまいか?

 今回の「コッペリア」“こどもの日スペシャルバージョン”も上記「くるみ割り人形」と同様の演出だった。 1幕から3幕に及ぶまで常に舞台に数十人に及ぶ団員ダンサーを配し、(おそらく子どもを飽きさせない配慮と心得るが)団体で踊るコールドバレエを充実させた舞台だった。
 原左都子個人的には、第3幕に於いては1曲ずつの踊りをもう少ししっとりと観賞したかった気がするし、最後の「コーダ」に関しては、1曲毎のダンサーグループを舞台の下手(しもて)から上手(かみて)に順次流した上で、最後に全員で盛り上がった方が更なる舞台の高揚力が演出できたのではないかとも思う。


 そんな「松山バレエ団」から今回入場者に配布された文書の内容がこれまた素晴らしい。
 以下にその文書の内容の一部を端折って紹介しよう。
 「すべての舞台芸術の“前座”にならん」 わたくしたちはこのような心意気のもとに松山バレエ団のもろもろの公演ならびに The Japan Ballet としてのさまざまな形態の公演をおこなっております。  (中略)   わたくしたちが The Japan Ballet というプロジェクトを厳粛に根気よく粘りづよく迫力をもって魂をこめて途絶えることなく続けてゆくことで、先人たちが芸術界にあってともしつづけてきた燈の一端を微力ながら担うことができれば、幸いです。

 最後に原左都子の私論を少しだけ述べると、日本のバレエの歴史を担って発展を遂げてきた“天下”の「松山バレエ団」がこのような内容の文書を記載したチラシを配る世の現実の程も理解できそうに思う。
 クラシックバレエ界も昨今大幅な歴史的変遷を遂げているのが現状であろう。 この私も新進気鋭の様々なクラシックバレエ公演を鑑賞する機会があるため、それを重々認識している。
   

 それにしても、昨日の松山バレエ団による“子どもの日スペシャルバージョン”「コッペリア」は大盛況だった模様だ。
 幼い子どもの観客が多かった今回の舞台において、我が席のお隣に座っていた“プチバレリーナ”と思しき3歳位の可愛らしい女の子も途中ダレてはいたものの、最後まで“おりこうさん”で舞台を楽しんでいたのが何よりである。

 まさに今回の松山バレエ団による「コッペリア」とは、原左都子が表現するに “おとぎの国の「コッペリア」” であり、お隣の席の女の子同様に私も十分に楽しませていただけたのは事実である。