原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

学校に電話連絡網は要らない。

2008年07月01日 | 教育・学校
 冒頭から私論の結論を述べる。
 個人情報保護に関する議論は、他人の個人情報を勝手にバラまいてその利益を享受する強者の論理を優先するのではなく、個人情報を承諾なくバラまかれて損害を被る弱者の論理で語られるべきである。
 個人情報をバラまく側の強者の立場から、安易に個人情報の“過剰反応”批判を展開するべきではない。


 本日7月1日(火)の読売新聞の個人情報保護法に関する報道を今朝インターネット上で見つけた。
 この記事は「個人情報保護法の過剰反応、自治体半数“まだある”…内閣府調査」という表題で、市民の個人情報をバラまく側の強者である公的機関側の言い分を報道したものである。
 以前より、個人情報をバラまかれる立場の弱者側の個人情報保護法への“過剰反応”に関しては、公的機関側が指摘し続けていることは私も把握している。
 公的機関がこれを語るにおいていつも引き合いに出すのが学校の「緊急電話連絡網」である。

 まず、上記の読売新聞の記事内容を以下に要約する。
 2005年の個人情報保護法の全面施行以降、必要な情報まで提供されなくなり、学校の緊急連絡網が作れないなどの事態を招いた「過剰反応」問題で、47都道府県のうち半数近くの22自治体が、まだ「過剰反応がある」と感じていることが、内閣府の調査で分かった。……過剰反応が根強く残っていることが明らかになった…。


 学校における緊急電話連絡網に関しては本ブログの昨年10月の教育・学校カテゴリーバックナンバー「個人情報保護法と学校の緊急電話連絡網」において既述している。 
 ここで再度、上記バックナンバーで主張した私論をまとめてみよう。

 現在の学校の諸制度や諸手続きにおいて保護者にとってもっとも厄介な存在なのが「緊急電話連絡網」である。
 個人情報保護法が施行されて以降は、学校もようやくその運用において細心の注意を払い始めた様子であるが、それ以前はバラまきっ放しの野放し状態で、その濫用、悪用には閉口するばかりであった。PTA役員からの濫用、保護者からのセールスや宗教団体への勧誘等の悪用、担任教員からの自分の業務上のミスのカバー目的の濫用、外部名簿会社への連絡網の高額売却(横流し)を通じての外部組織からのひっきりなしのセールス、等々…、学校の緊急電話連絡網の濫用、悪用の例を挙げればきりがない。

 私は学校における緊急電話連絡網の存在自体を全面否定している訳ではない。正しい目的でこの連絡網を通して保護者の元に緊急連絡がなされるならば、大いに活用していただきたいものである。
 ところが、どうも学校側さえもが“緊急連絡”の意味を取り違えているものと察するのだ。この緊急連絡網を通して学校から来る連絡と言えば、運動会の雨天による中止くらいである。これは緊急連絡とは言わない。単なる伝達事項である。単なる伝達事項に関しては情報伝達手段が多様化している今の時代、緊急連絡網を使用せずとて、その伝達手段はいくらでも存在するはずである。
 本来の意味での緊急連絡とは、児童生徒が在校時に、天災地変、事件事故等その名の通り“緊急”時、すなわち“児童生徒の身に危険が及んだ時”に学校の最高責任者である学校長の責任において発令されるべき性質のものであるはずだ。これが濫用、悪用ばかりされ“狼少年物語”と化し、救うべき時に子どもの生命が救えないような事態となってしまうことを私は大いに憂えるのである。

 このように、学校における緊急電話連絡網とは子どもにとっての命綱としてのみ使用されるべきである。にもかかわらず、濫用、悪用の多い実態と、本来の目的で使用されていない実態を鑑みて、私は現状のような中途半端な「緊急連絡網」ならば不要であると以前より主張しているのである。おそらく保護者の皆さん、私と同じ思いではなかろうか。 決して保護者は個人情報保護に“過剰反応”をしている訳ではないことを、学校や自治体は少しはお分かりいただけたであろうか。
 (さらに付け加えさせていただくと、生徒側の個人情報は連絡網という形で保護者の承諾の有無にかかわらず当然のことのようにバラまくのに、教員側の個人情報は一切非公開とする例も私は何度も経験している。学校側はあまりにも身勝手としか言いようがない。)

 学校や自治体側は「緊急電話連絡網」が作れないことに関して、単純に個人情報保護法の“過剰反応”として保護者のせいにして責任逃れをするのではなく、個人情報がぎっしりと詰まった「緊急連絡網」を無責任にバラまいた後の濫用、悪用の実態、それによる保護者の日常の迷惑、苦悩の程を一度調査、把握してみてはいかがか。
 安易に保護者を批判するのではなく、今後の学校における「緊急電話連絡網」のあり方を問い直し、自らの「緊急連絡網」に対する管理責任を全うし、真に児童生徒の安全を守るために機能する「緊急連絡網」を創り上げていくことが先決問題であろう。 
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