忘れるのも都合がいい場合がある。どういう場合? とお思いの方もおられようから、多くを語らず次の話をお読みいただくことにしよう。^^
とある老人会である。
「すっかり、いい気候になりましたねぇ~」
「そうそう! すっかり、春めいて…桜も終わりですかね…」
「散り始めましたね~。桜? そうそう! そういや、一昨日(おととい)、花見で貸した缶酒のお代、まだもらってませんでしたねっ!」
「もう平成も終わりっ! あと、少しになりました…」
「そうそう! あと半月(はんつき)ばかりです。令和(れいわ)でしたか?」
「ですね。私、竹輪(ちくわ)と付けました…」
「ははは…勝手に付けちゃいけないっ! で、その意は?」
「…私、竹輪が大好きなんですっ!」
「好きだから付けた? 安い元号だっ!」
「でも、安くて魚肉タンパクたっぷりですよっ! 皆さん、竹輪をどんどん食べましょう!」
「なるほどっ! …っていうか、誰に言ってるんですっ!? それで、缶酒のお代はっ?」
「お札(さつ)、変わるんですっ!?」
「そうそう、お札! 渋沢栄一さん、津田梅子さん、北里柴三郎さん。確か、五年後だとか…」
「はい。まあ、私らのところへはお寄りにはならないんでしょうが…」
「ははは…そんなことはっ! ところで、缶酒代は?」
「あっ! もうこんな時間! そろそろお昼のお弁当が出ますよっ! 参りましょうか?」
「ですね…」
缶酒のお代の話は、ついに立ち消えた。
都合がいい話の転換は、上手(うま)くやれば相手が忘れることになる。^^
完