水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (11)言霊(ことだま)

2020年04月25日 00時00分00秒 | #小説

 口を開いて話せば、言葉となって相手に伝わる。その言葉を聞いた相手は、その聞いた相手に言葉を返えす。この繰り返しが会話である。同じ内容の会話でも、その話し方で相手の気分が変化する。これが言葉が持つ言霊(ことだま)の見えない力だが、何気なく話していると、ついつい忘れてしまう場合が多くなる。忘れれば、場合により相手は気分を害すこともある。弔問の電話をかけ、タメ口で返されれば気分が悪いように、話し方には言霊を動かす作用があるから、簡単なようで、実は非常に難しいのである。
 とある結婚式会場である。一人の男が友人の招待でやって来た。友人の隣に花嫁がいる手前、男は紋切り型の丁重(ていちょう)な挨拶をした。
「このたびは、おめでとうございます…」
「なんだよ、他人行儀なっ! よく来てくれたなっ!」
「いやいや、ご招待を受けましたので…」
「ははは…。そりゃまあそうだが…」
「では…」
「おっ! まあ、ゆっくりしてってくれやっ!」
「有難うございます…」
 これではどちらが主賓(しゅひん)なのか分からない。本末転倒(ほんまつてんとう)なのである。『チェッ! お高くとまりやがって!』と思われても仕方がないところだ。主賓は招待客に対して丁重かつ低姿勢でなければ、相手の機嫌を損なうことにもなりかねない。
「いやっ! おめでとう!」
「有難うございます! ゆっくりしてって下さい」
「おっ! それじゃ、まだあとでなっ!」
 このように話せば、言霊は気分を損なうことなく伝わるのである。親(した)しき仲にも礼儀あり・・とは上手(うま)く言ったものだが、忘れることのないようにしなければいけない。^^ 
 
                                  


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