水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-84- 落ちぬ先の針金(ハリガネ)

2018年04月29日 00時00分00秒 | #小説

 転ばぬ先の杖(つえ)・・とは、よく使われる故事・諺(ことわざ)である。何事をするにも、前もって用心しておけば失敗を防(ふせ)ぐことが出来る・・とかの意味だ。
 日曜の朝、鋒先(ほこさき)が歯を磨(みが)いていると、ふと、壁にかけられた鏡の紐(ひも)が切れかかっていることに気づかされた。このままでは危うい! …と、瞬間、鋒先は思った。当然のことながら、フロアへ落ちれば割れ、ぅぅぅ…と泣けることになるのは必死(ひっし)だった。
「ははは…落ちぬ先の針金(ハリガネ)か、こりゃ」
 歯を磨き終えた鋒先は、意味不明な言葉を呟(つぶや)くと、細い針金を用意した。そして切れかかった紐の通っている穴に針金を通して結(ゆわ)わえた。
「これで、大丈夫。めでたしめでたし…。落ちぬ先の針金か。ははは…」
 鋒先は、また笑いながら独(ひと)りごちた。切れかかった紐と針金で吊(つ)るされた鏡。万一、紐が切れたとしても針金があるから大丈夫・・ということになる。
 世は受験シーズンに突入していた。鋒先も例外なく受験生の一人だった。担任の教師は、「この頭じゃ、A大は文句なく無理だからB大、いや、B大も今一な…C大にしときなさい」と、言いにくいことをズケズケと言った。鋒先は『こ、この野郎! 覚えてろっ! 目にものみ見せてやるっ!』と口走りそうになったが、思うにとどめた。よ~~く考えれば、落ちぬ先の針金か…とも思えからだ。鋒先はA大2部を針金にし、A大は落ちたが割れなかった。今は人事院に採用され、国家公務員3種職で働きながら2部に通っている。
 落ちぬ先の針金は、泣けることから人を救う。^^

                        完


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