幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第三十一回
「そりゃ大変だ! 君としては生死にかかわるな。仕事の失敗どころの話じゃない」
「はい…」
その時、ウエイトレスが注文のコーヒーとミルクティを運んできた。田丸は、そのミルクティを一気に半分ほど飲み干した。やや狼狽していたということもあったが、上山以上に興奮している感は否めなかった。カップとレシートを置いたウエイトレスが未だ下がる前だったから、瞬間、そのウエイトレスはギクッ! と、たじろいだ。
「上山君! 社長の私だから云うんじゃないが、それはやめた方がいい。今までだって死んだ平林と上手くやってきたんだろうが。何かいい手立てがきっとある。それを試してからでも遅くはあるまい」
「はあ…、それはまあ」
上山はコーヒーを少し啜って曖昧に暈した。
「これからの君だ。人生、棒に振るなそんな気にさせるのは罪だなあ、誰か知らんが…。ろくな者(もん)じゃなかろう」
「いえ、それは私が悪いんです」
「いや、それは違うぞ、上山君。君が悪いんじゃない」
二人は少し興奮しだしたが、馬鹿らしい自分に気づいたのか、互いに押し黙った。
結局、キングダムを出る頃には、上山が引いて二人の問答は終結した。上山も田丸に止められるうちに、自分の誤りを自覚したからである。
田丸に丸め込まれた格好で帰宅した上山は、今後の方針を…と、あれこれ思い倦(あぐ)ねた。着替えも、そこそこに、、グルリと左手首を回した上山は、いつの間にか幽霊平林を呼んでいた。幽霊平林は、パッ! と格好よく現れた。
『課長! 何か浮かびましたか!?』
「いや~、そうじゃないんだがな。君の方はどうだ?」
『今のところ、僕の方は…』
幽霊平林は口を濁した。