水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《残月剣①》第二十五回

2010年08月11日 00時00分01秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣①》第二十五回
思いの外(ほか)、残暑が長く続かなかったことは、何らかの異変が起こる予兆ではないかと長谷川が二人に冗談含みで云った。
「今年は野分けが多いかも知れないですね」
「そうです…。飢饉にはならず、よかったですが…。稲刈りが急がれます」
 鴨下が云い、左馬介が続いた。
「まあな…。涼しいのは我々には有難いが、魚政の鰻が美味くなくなるからなあ…」
「もう、土用も過ぎたんですから、いいじゃありませんか」
 鴨下が長谷川を慰める。長谷川が無類の鰻好きだということを、よく知っている。
「おい、鴨下。そうは云うがな。やはり暑い時の鰻は美味いぞ」
「冬場はどうなんです?」
 左馬介が割って入る。
「冬場の鰻か…。それはそれで、また美味いな。身体に力が漲(みなぎ)ってくる」
「いつ食べても力は漲るじゃないですか…」
 左馬介が二の矢を放つ。
「ああ…それはまあ、そうだがな…」


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スピン・オフ小説 あんたは... | トップ | スピン・オフ小説 あんたは... »
最新の画像もっと見る

#小説」カテゴリの最新記事