あんたはすごい! 水本爽涼
第四十五回
「どちらから?」
「お得意の多毛(たげ)本舗様からです」
「ああ、今夜の? で、なんて?」
「それが…、都合で本日は辞退させて戴きたいと…」
「そう…。何か急用でも出来たのかな?」
「はあ、そこまでは云っておられないんですが…」
「ふ~ん、まあ、今日は寒いしねぇ。私も気乗りしてなかったんだよ、実は」
「そうでしたか…」
いつも私が接待をしている上得意で、何軒かハシゴした後、最後にみかんでお開き、というのがパターンだった。だがこの日は、私の体調が今一で、二日前辺りから風邪ぎみで微熱があった。それで昨日、掛かりつけの白髭(しらひげ)医院へ行き、調合して貰った薬を朝、昼、晩と飲んでいたのだ。幸いにも点滴注射で身体のけだるさは消えたので、会社を休むほどのことはなかった。そんなこともあり、多毛本舗の接待は気が進まなかったのだが、輪をかけて、この日の寒さが一層、私を億劫(おっくう)にしていた。そこへ、児島君が受けた先方からの断り電話だった。まあ、この時は、以前にも似通った話がなくもなかったから、そう深くも考えず、偶然、私の思い通りになったのだろう…と、思う程度だった。
第四十五回
「どちらから?」
「お得意の多毛(たげ)本舗様からです」
「ああ、今夜の? で、なんて?」
「それが…、都合で本日は辞退させて戴きたいと…」
「そう…。何か急用でも出来たのかな?」
「はあ、そこまでは云っておられないんですが…」
「ふ~ん、まあ、今日は寒いしねぇ。私も気乗りしてなかったんだよ、実は」
「そうでしたか…」
いつも私が接待をしている上得意で、何軒かハシゴした後、最後にみかんでお開き、というのがパターンだった。だがこの日は、私の体調が今一で、二日前辺りから風邪ぎみで微熱があった。それで昨日、掛かりつけの白髭(しらひげ)医院へ行き、調合して貰った薬を朝、昼、晩と飲んでいたのだ。幸いにも点滴注射で身体のけだるさは消えたので、会社を休むほどのことはなかった。そんなこともあり、多毛本舗の接待は気が進まなかったのだが、輪をかけて、この日の寒さが一層、私を億劫(おっくう)にしていた。そこへ、児島君が受けた先方からの断り電話だった。まあ、この時は、以前にも似通った話がなくもなかったから、そう深くも考えず、偶然、私の思い通りになったのだろう…と、思う程度だった。