あんたはすごい! 水本爽涼
第五十七回
目覚ましが鳴る前に飛び起きた私は、洗顔もほどほどに始発のホームへと急いでいた。駅の構内は暗闇に沈み、まだ辺りは深夜の余韻を残していた。みかんの駐車場が近い駅までは僅(わず)かに二つの駅があるだけで、時間的には高が知れていた。始発に乗り、駅へと着き、それから駐車場まで歩く…というお決まりのパターンを私は実行した。駐車料金は普通ならば考えられない激安の八百円である。六時間が二百円の駐車場など、今のご時世で見つけるのは遺跡の土器を見つけるに等しいと云わざるを得ない。私はここの経営者を尊敬(リスペクト)してやまない。というのも、この時もそうだったのだが、今もってその料金が維持されているからである。それはさて置き、私は車を運転してA・N・L駐車場へ向かった。この行動もお決まりのパターンである。二十四時間営業のレストランは非常に有難く大いに結構なのだか、ただひとつ、愛想が余りよくない男性店員がいるのが難点だった。まあ、いつもいるという訳ではなく、交代勤務で時折り出食わす程度だったから、そうは気にならなかった。出食わした早朝は流石(さすが)に気が滅入った。愛想が余りよくないというのは、態度ではなく私を見る目線にあった。言葉遣(づか)いは至極、流暢(りゅうちょう)で奇麗なのだが、目線が『また、あいつか…』と云っていた。当然、愛想は悪かった。この時は幸いその店員はおらず、私はホッと、安堵の息を漏らしてボックス席へ腰を下ろした。
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