水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

よくある・ユーモア短編集-82- 羊(ひつじ)が一匹

2016年12月13日 00時00分00秒 | #小説

 そろそろ眠るか…と貝塚(かいづか)は寝室へ向かった。ところが、である。さてと! と身体を横たえると、いっこう眠くならないのだ。いつもなら、5~10分もすれば、すでにこの世の者でないほど爆睡(ばくすい)しているというのに、この夜にかぎって眠れないのだった。明日(あした)は大事な出張があり、指定席券を取ってある8時半過ぎの新幹線に乗らねばならない。当然そうなると、7時頃には起きる必要があった。だが、眠れないものは仕方がない。貝塚は少し焦(あせ)った。どうしたものか…としばらく巡っていると、ふと、あることに思い当たった。そうだっ! 羊(ひつじ)が一匹だ…と。羊が一匹・・とは、羊の数を数えるよく知られたベタな睡眠法である。それしか思いつかない以上、そうしよう…と貝塚は羊を数え始めた。だが、どんどん羊の数が増えていくのに、いっこう眠くならないのだ。貝塚は益々、焦った。こうなると、眠ろう…と思えば思うほど目は冴(さ)えてくる。そうこうするうちに、頭の中で増えた羊の一匹が、群れから外れ訝(いぶか)しそうな顔で貝塚の目の前に近づいてきた。
『あの…眠りたいんですか?』
『ああ、明日は朝が早いからね』
『ふ~ん、そうなんだ…。なんとかしましょうか? 僕が』
『おっ! そうしてもらえると助かるな…』
『では、そのように…』
 貝塚はすでにウトウト眠り、羊と話す夢を見ていた。次の朝、貝塚は無事に新幹線に乗車できた。
 まあ、焦れば焦るほどコトが進まないことは、確かによくある。

                            完


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