水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-92- 子泣き唄

2018年01月27日 00時00分00秒 | #小説

 よくよく考えれば、子守唄は赤ん坊や子供にとっていい迷惑なのかも知れない。これは穿(うが)った見方だが、逆転してそうとも言えない可能性もあるのだ。というのも、大よそ赤ん坊や子供は唄など聴(き)かない方が寝やすい場合もある・・と考えられるからである。
『♪~どうたらぁ~こうたらぁ~なんとかぁ~かんとかぁ~♪』と、唄い手の父親は、いい気分なのだろうが、『やかましぃ~~!』と、赤ん坊や子供は思っている可能性も否定できない訳である。
「おお、よしよしっ! 眠ったなっ…」
 妻に逃げられた父親は久しぶりの名調子を浪曲調のダミ声(ごえ)でガナった。しばらくすると、赤ん坊は瞼(まぶた)を閉じて眠った。いや、両眼を閉じ、眠った振りをした。そうでもしないと、やかましくて眠れない…と、感じたからである。要は、最悪の状況だと思ったのだ。そうとも知らない父親は馴(な)れもしない子守唄を、どれどれ、もう一節(ひとふし)! …と、ふたたびダミ声でガナり始めたのである。赤ん坊としては堪(たま)ったものではない。こりゃ、ダメだっ! とばかり、身の危険を察知(さっち)したように号泣(ごうきゅう)し始めた。
「オ、オ、オギャァ~~~!!!」
 父親はそのとき初めて、しまった! と気づいたのだがもう遅(おそ)い。赤ん坊としても泣き始めた以上、意地がある。そう簡単に泣き止(や)む訳にはいかなくなったから泣き続けた。父親は、これは偉(えら)いことになったぞ…というところだ。
 その後、どうなったのか? という事後話は読者の方々の想像にお任(まか)せしたいが、子守唄は逆転して子泣き唄となることに心して戴(いただ)きたいとは思う。

                                 


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