幽霊パッション 水本爽涼
第五十六回
まあ、呼び出してからだ! と、意を決して、上山は首をぐるりと一回転した。次の瞬間、その時を待っていたかのように、幽霊平林は姿を現した。
『そろそろか、と思ってましたよ…』
幽霊平林の言葉に上山は軽く頷(うなず)いて、首を下へ二度ばかり振った。もちろん、佃(つくだ)教授に気づかれないように、である。事情を察している幽霊平林はスゥ~っと上山から離れた。その時、研究室に置かれた機械の一台が激しく霊動の反応を始めた。上山が、その方向を見ると、滑川(なめかわ)教授の研究室で見た機械とまったく同じ型のものだった。VUメーターの針が激しく揺れ、オレンジ色のランプが点滅し始めたのも滑川教授のときと同じだった。
「教授! これは初めての現象です!!」
助手の一人が絶叫調でそう云うと立ち上がり、霊動し続ける機械の方へ慌(あわ)てて駆け寄っていった。あとの二人も、遅れてその機械に駆け寄った。 上山は、やはりそうなるか…と思った。助手に遅れて教授も反応する機械の方へと移動し、上山からは離れていった。結果、幽霊平林としては上山と話せる絶好の機会、いや唯一の機会が巡ったのだった。
『課長! 僕を呼ばれたんでしょ~?』
幽霊平林が徐(おもむろ)に上山へ声をかけた。上山は、四人に悟られないように、出来るだけ唇を動かさずに小さく話すことにした。
「君を呼んだのは他でもない。教授に君が見えることを云おうと思うんだが、その前にひと言、君に云っておこうと思ってな」
『なんだ…、そんなことでしたか。僕は何事が起こったんだろうって思いましたよ』
「いやあ、何も起こってなどいないさ。あの機械が反応するまでは、ね」
上山はうつ伏せ加減の姿勢で云った。
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