残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《惜別》第二十一回
「ようございます。この儂(わし)が役に立つことでしたら、何とか致すでごぜえやしょう」
「そうですか。それは誠に有難い!態々(わざわざ)、来た甲斐がありました」
案に相違して、権十は一も二もなく引き受けてくれた。
「それで、いつ迄に調べをつけりゃいいんで?」
「いつ迄に、ということではないんです。いつ、どこそこへ行けば、必ず樋口さんに会える、という探りを入れて欲しいだけです」
「そうでやすか。それなら容易い御用ですだ。で、調べがつけば、道場へ寄せて貰えばいいんで?」
「はい、そうして戴ければ、助かります」
「分かりやした。そう致すでごぜえやしょう」
「あの…礼金は如何ほど包めば?」
「ははは…、御心ばかりで結構でごぜえやす」
「そうは云われも…」
「いや、本当に…。他からの実入りも頂戴致しておりやすんで…」
「と云うと、他にもご依頼ごとを?」
「へえ…まあ、そのようなことで…」
権十は濁して語尾を暈し、ゴシゴシと薄汚れた首筋を何度も掻いた。左馬介は一瞬、顔を顰(しか)めたが、直ぐ元に戻すと腰を上げた。