幽霊パッション 水本爽涼
第七十一回
その後、幽霊平林が云ったとおりに佃(つくだ)教授へ探りを入れているかということをまったく忘れて、数杯の水割りを飲んだ上山であった。結局、上山が云ったことは口から出まかせで、佃教授が何をしていようと、上山にとってはどうでもよかったのだ。ただ、幽霊平林を酒場から遠ざけようと、思ってもいないことを云ったのだった。
その後はオーダーするだけで、ママと何を話すでもなくただ黙って上山は飲んでいた。ふと我に戻った上山は、陰鬱さもあってか、早めに「雀」を出ることにした。まったく店名は真逆で、ピーチクパーチクどころじゃないな…と、上山は店の戸を閉じて思った。
千鳥足で駅の改札を出て、上山は久しぶりに酩酊している自分に気づいた。気分は華やいで高揚している。
「どうされました? 大丈夫ですか?」
駅前の歩道で倒れそうになり、通りかかった交番の巡査に声をかけられた。上山が徐(おもむろ)に見上げると、白自転車に乗り、片足を地に着いた姿勢で窺(うかが)う若い巡査に上山は気づいた。巡査は自転車を止め、上山に近づいた。
「…ああ、大丈夫です。少し酔いましたかな、ははは…」
上山は少し慌(あわ)てながら、笑って誤魔化した。
どうにかこうにか家へ辿り着き、上山は、ほっとした。明日の出勤に備え、酔いを覚ましてシャワーを浴びようと思っていたが、そのまま深い眠りへと誘(いざな)われた。フッ! と気づけば深夜の三時過ぎである。玄関より慌てて寝室へ駆け込み、乱雑に服を脱ぐとベッドへ潜り込んだ。幸いにも、また眠気が生じ、そのまま寝入った。
それから三日が経ち、一週間が流れたが、上山の当初の目的は果たされないまま十日が過ぎた。
『最近、全然お呼びがないので、お約束違反ですが現れました』
昼が過ぎ、課の大時計は三時前を指そうとしていた。
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