水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <11>

2024年06月29日 00時00分00秒 | #小説

「すいません…」
 口橋(くちばし)は玄関扉横のチャイムを押し、声をかけた。しばらく待っても応答がない。口橋は再度、チャイムを押した。『ピンポ~~ン』と響く音が建物の内部からしたが、やはり応答がない。
「留守ですかね…」
 鴫田(しぎた)がボソッと口を開いた。
「…かな?」
 口橋はもう一度、チャイムを押そうとした。そのときである。息を切らせた男の声がした。
『は、はいっ! 二階にいましたもので…。あの、何か?』
「警察の者です。ちょっとお訊(き)きしたいことがありまして…」
『今、開けますので…』
 バタバタと入口へ近づく気配がし、ガチャリ! とドアが少し開いた。中から初老の男が二人を覗き込み、ドアチェーンを外した。口橋と鴫田は玄関へ入り、警察手帳を背広の内ポケットから出して提示した。
「麹町署の口橋です」「鴫田です」
「はい…」
「この近くに庵(いおり)を構える風変わりな婆さんをご存じないでしょうか?」
「…ああ、あお婆さんですかな? 妙な勾玉(まがたま)を首からぶら下げた」
「ええ、その婆さんだと思います、たぶん…」
「その婆さんの庵(いおり)は…」
「私も行ったことがないのでよくは分かりませんが、あの麓(ふもと)から登ったところにある、とは聞いてます、はいっ!」
「その婆さんが、そう言われたんですか?」
「ええ、いつでしたかな。…ああ、半年ばかり前、私が落ち葉を掃いておりますと、その婆さんがお通りになり、少しお話をした折りです…」
「どうも、ありがとうございました」
 二人は軽く一礼し、その場を去った。


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