水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [90]

2023年04月12日 00時00分00秒 | #小説

 その後、新ベクター"#$%&#は、蛸山と海老尾の実用段階への応用が功を奏し、第一相治験[臨床薬理試験]のみで治験第二相[探索的試験]なしで緊急承認された。そうなると、各地の病院への増産が緊急課題となる。数日後、厚労省の民間製薬会社各社への協力要請もあり、製薬各社は収益抜きで増産体制へと入った。この迅速な行政→民間の連携した動きは人名が優先されるべき・・という第一義の発想に基づくものだった。
「所長、よかったですね…」
「なにが?」
 蛸山は、また主語抜きか…と思いながら、海老尾の顔を見た。
「"#$%&#ですよ、嫌だなぁ~」
「嫌なのは私だよ。まだ、終息してないんだからね…」
「ええまあ、それはそうなんですけど…」
「とにかく私達がやれることはやったんだから、その点はいいんだが…」
「そうですよ、僕達にはこれ以上やれることはないんですから…」
「ああ、そらまあそうだ…」
 春先から苦しんだ課題がようやく峠を越した頃、すでに梅雨入りが迫っていた。新ウイルスは罹患前の投薬[ワクチン]が大前提となる。予防薬が即、治療薬となる訳だ。全国各地の病院への新ベクター"#$%&#ワクチンの配布は、各県が先を争う形で輸送が始まった。
「所長、始まりましたね…」
「なにが?」
 蛸山は、いつもの主語抜きか…と思いながら、海老尾の顔を呆(あき)れたように見た。
「"#$%&#ワクチンの配布ですよっ!」
「配布して、それで済んだって話でもないだろっ!?」
「ええまあ、それはそうなんですけど…」
 海老尾の返答を聞いた蛸山は、この前もそう言ったな…と馬鹿馬鹿しく思った。

                   続


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