水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [87]

2023年04月09日 00時00分00秒 | #小説

「ど、どうしたんだっ!!」
 蛸山の声が一瞬、上擦(うわず)った。海老尾は静かに腕を上げ、ある物質の方向を指さした。その物質こそ、まさに人類を救う究極の物質だったのである。
「"#$%&#か…」
「はい、所長! "#$%&#ですっ!」
 海老尾の声も1オクターブ上擦っている。
「まさか、"#$%&#が…」
 世界の全ての学者が気づかなかったどこにでもある物質は、"#$%&#だったのである。
「そうか…人類は機械文明に毒されていたんだなっ!」
「はい! 文明が作り出した多くの物質に毒されていたんです…」
「私達、人類だけならまだしも、地球上の全生物を毒していたのか…」
「はい、人類が無秩序に進めた機械文明が作り出した物質で…」
「人類は地球上の全生命体を守る責任を放置し過ぎたんだな…」
「はい! で、教授、これで救えますが…」
「問題は、全人類が絶滅するまでに間に合うかどうかだっ!」
「はいっ! 世界のウイルス感染死者数は乗数的に今も増えてますから…」
「首都圏は、まだだが…」
「所長! それも時間の問題かと…」
「1が2、2が4、4が16、16が…」
「256です…」
 蛸山は海老尾の暗算に、君は頭はいいんだが…と言おうとして、思わず唾(つば)を飲み込んだ。世界の学者が気づかなかった"#$%&#を偶然とはいえ、発見したということもある。

                   続


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