水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [100]

2023年04月22日 00時00分00秒 | #小説

 宇津保イブニングショーに蛸山と海老尾が出演した当日の模様である。
「この度(たび)、ノーベル生理学・医学賞を追加受賞され国立微生物感染症化学研究所の蛸山所長と、その助手の海老尾研究員にお越し頂きました…」
 MCの宇津保は噛(か)まずに言えてよかった! と内心でホッ! と安息の息を漏らしながら二人を紹介した。蛸山は、追加は余計だろう…と思い、海老尾は海老尾で、僕は助手じゃないぞ…と内心で思いながら、しかし、そうとも言えずグッ! と我慢して、二人は笑顔で軽く頭を下げた。
「とにかく、お目でとうございます」
「はい、有難うございます」
 蛸山は、とにかくは余計だろっ! と、また内心で怒れたが、そうとも言えず笑顔で応じた。
「多くの人々が死の恐怖から救われたという事実は、それだけでも快挙と言えるんではないでしょうか…」
「ええ、まあ…」
 蛸山は、そこをもっと言ってくれよ…という気分で暈(ぼか)した。
「今後、どのように感染症は推移するとお考えでしょう…」
 宇津保は鋭い質問を二人に浴びせた。
「それはですね…」
 蛸山が一瞬、言葉に詰まった。
「僕の予測ですと、ひとまずは安心出来る状況が続くと思います」
 海老尾が蛸山をフォローする。
「なるほど…。では、このまま終息に向かうと?」
「いえ、向かうかどうかはウイルスに訊(たず)ねないと、分かりませんが…」
「ははは…。と、いいますと?」
「私どもには、どのように推移するか? は分からないということです」
 蛸山が息を吹き返し、海老尾を逆フォローした。
「確かに、それは言えます…」
 宇津保も深追いはしない。
「では、逆に皆さんなら如何(いかが)お考えでしょう? ウイルス感染症がこのまま終息に向かうと?」
「いえ、それは…」
 蛸山の攻勢に、宇津保は守勢に立たされた。
「…だと思います。研究しておる私どもでも分からないのですから…。なにせ、相手は見えない存在なのです」
「はい…」
 蛸山の説得口調に、宇津保は聞く人に後退させられた。
「ですから、このお話も、この辺りでTHE END(ジ・エンド)にした方がいいと思えます」
 海老尾が追撃する。
「? …」
 宇津保は意味が分からず、思わず海老尾の顔を見た。
『そうだ、そうだっ!』
 海老尾の深層心理に住むレンちゃんも海老尾を援護した。
「ははは…僕の独りごとです。深く考えないで下さい」
 海老尾は、しまった! と思ったのか、前言をすぐ撤回し、取り消した。
「まあ、私どもにも分からないということです」
 蛸山が海老尾を救う。
「はあ…」
「ただ一つ言えることは、このまま人類が文明を無秩序に進めれば、今後もこうした感染症や病気が生じる可能性が高い・・ということです。下手(へた)をすれば、絶滅した恐竜の二の前にならないとも限らない訳でして…」
 蛸山はやんわりと断言し、頭を下げた。海老尾も蛸山に追随し、ペコリ! と頭を下げた。
「では、この辺りで…」
 宇津保はフロアデレクターが示すカンペ[カンニング・ぺーパー]に急かされ、時間に追われながら番組を終えた。
 ということで、先行き不透明なこの話は、ひとまず終えることと致します。^^

                    完


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