水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (14)攻守(こうしゅ)

2021年02月23日 00時00分00秒 | #小説

 世の中の出来事の全(すべ)ては攻守(こうしゅ)で構成されている。どういうこと? と問われれば、まあ、そういうこと…と返す他はない。^^ 事実、そうなのだから、考えても疲れるだけだろう。^^ 例えば株や宝くじ、馬券、パチンコなどで儲(もう)けて得(とく)をする人がいたとすれば、必ず損(そん)をする人が逆にいるということである。世の中は、実に上手(うま)く出来ている訳だ。今日はそんな疲れるような馬鹿馬鹿しいお話である。^^
 馬鞍(うまくら)は疲れていた。疲れる原因が何なのか? 馬鞍にはそれが明確に分かっていた。職場で守りに入ったからである。? と、首を傾(かし)げる人もおられようから、もう少しかみ砕いて説明すれば、攻めているときはよかったのである。?? 益々(ますます)、分からんぞっ! とお怒りになるだろうから、詳細に説明することにしよう。馬鞍は上司の課長、鐙(あぶみ)に言われる前に…と、密(ひそ)かに先回りして予算書の草案を作っておいたのである。要は攻めていた訳だ。ところがである。その労は報(むく)われず、全てをやり直す破目になったのである。政府対策の甘さから全国各地に蔓延(まんえん)したVRE[耐性菌]により、毎年、計上される予算額が調停されない見通しとなったためだ。ぅぅぅ…と、泣けるような思いで馬鞍は攻めから守りへと撤退(てったい)を余儀なくされた。攻守、所(ところ)を変え、急遽(きゅうきょ)、計上する予算を修正しなければならなくなったのである。完全な負け戦(いくさ)だった。しかし、世の中はそう捨てたものではない。^^ 『全軍撤退じゃ…』と、深い溜息(ためいき)を吐きながら馬鞍がデスクで仕事に取りかかり始めたそのとき、新たな朗報が飛び込んできた。新たなワクチンの開発が成功したという朗報だった。守りを覚悟していた馬鞍は攻めへと思考を方向転換させ、にやけた。馬鞍が先回りして作っておいた予算書の草案が復活し、攻守はふたたび逆転したのである。
 このように、世の中の出来事は、どう変化するか分からない・・という疲れる妙味(みょうみ)を秘めている。この妙味は芸術や芸能の域(いき)を遥(はる)かに超越し、実に面白い。^^

                  完


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