水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (3)ゆとり

2021年02月12日 00時00分00秒 | #小説

 ゆとりを持っていれば、全(すべ)てのことが落ち着いて出来る。そうすれば当然、物事の間違いは少なくなる。ゆとりは余裕と似通ってはいるが、少し内容を異(こと)にする。どこが違うのか? といえば、余裕には勘案した上で・・という一思考のプロセスがないのに比べ、ゆとりにはそれがある。もう少し分かりやすく言えば、単に、まだ時間は早いが少し早く出るか…と、漠然(ばくぜん)と早く出る場合が余裕のある行動であり、○○時なら間に合わないといけないから少し早く出よう…という場合がゆとりのある行動ということだ。どちらもよく似通っているから大差がなく、勘違いしやすい。今日は、そういったどうでもいいようなお話である。^^
 戸板は朝の出がけにコーヒーを啜(すす)りながらキッチンテーブル上の新聞紙面に目を走らせた。
「なにっ! 新コロナウイルスっ? そなた、いったい何者じゃっ!!」
 昨日、テレビで観た時代劇ドラマが悪かった。戸板はすっかり剣豪の主役になりきっていた。なりきるのはいいが、隙(すき)があれば斬ろうとしていたのである。見えないウイルスが斬れる訳もない。^^ だが、戸板は考えた。ゆとりをもってコトに処(しょ)せば、あやつとしても手の出しようがなかろう、ウッハッハッハッ!! 戸板は、さも剣豪になったかのような声で不気味に嗤(わら)った。
「なにっ! ただちに在住日本人をチャーター便で帰国させるだとっ!? 余裕だなっ! 手ぬるいっ!! ここはゆとりをもって政府主導の下(もと)、発生国で二週間ばかり留(とど)め置き、そののち、安全を確認した上で帰国させるのが上策であろう。なにっ! すでに帰国しておるだとっ! これでは余裕そのものではないかっ! 見えぬモノは怖(こわ)いのじゃっ! 国内に蔓延(まんえん)でもすればいかがいたす所存じゃっ! 甘いっ! 実に甘いっ!!」
 戸板はそう嘆(なげ)きながら、風邪(かぜ)の癒(い)えた身体を上げ、欠伸(あくび)を一つ打った。

                   完


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