水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分からないユーモア短編集 (87)行楽(こうらく)

2020年10月18日 00時00分00秒 | #小説

 残暑が和(やわ)らぎ、涼(すず)やかな秋風が流れるようになると、行楽(こうらく)のシーズンがやってくる。行楽は、字義のとおり楽しむ行為・・ということになるが、別に味わう行為でもいい訳だ。そうすれば、行楽は行味(こうみ)ということになる。だが、行味ではどうも酒のツマミのようで耳に馴染(なじ)まず、シックリした感じがしない。で、どういう訳か? よく分からないが、やはり行楽で一件落着したようだ。^^
 とある新幹線の車内である。秋の行楽シーズンを満喫(まんきつ)しようと、多くの旅客者で自由席は座れないほど混んでる。そんな中、どうにか座れた二人の旅客A、Bの会話である。
「ははは…分からないもんですなぁ~! 思った以上に混んでますっ!」
 Aは車内を見回しながら、他人(ひと)ごとのように大声で言った。
「はあ、まあ…。大型連休ですから…」
 Bは前に立つ客Cを慮(おもんばか)り、遠慮気味に返した。
「しかし、座れてよかった! ははは…新幹線で立ってるなんて、馬鹿げた旅はありませんからなっ! はっはっはっはっ…」
 大笑いしたAの目とCの視線が一瞬、合った。話を聞かされていたCは、ギロッ! とAを見下ろして睨(にら)んだ。
「い、いや…まあ、座れたのも時の運ということになりますかな…」
 Aは罰(ばつ)悪く、誰に言うともなく暈(ぼか)した。
「まあ、それはそうです…」
 Bは、やはりCを慮り、Aに話を合わせた。そのとき、Cがボソッと誰に言うともなく呟(つぶや)いた。
「行楽は座れないと…」
「…」「…」
 AとBは罰悪く、その後、ずぅ~~っと借り物の猫のように沈黙し続けた。
 よくは分からないが、行楽の旅は快適でないと行苦(こうく)の旅となってしまうから、注意が必要なようだ。^^

                   


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする