水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分からないユーモア短編集 (98)三位決定戦

2020年10月29日 00時00分00秒 | #小説
 皆さんもよくご存じかと思うが、スポーツ競技では順位を決める決定戦というものがある。取り分け三位決定戦は、惜しくも決勝進出を逃(のが)した選手やチームが、ぅぅぅ…せめて三位はっ! と悔(くや)し涙で臨(のぞ)む失地回復(しっちかいふく)のリベンジ試合である。四位でも十分、凄(すご)いのだが、どういう訳か一位~三位はメダルが首から掛けてもらえたり、トロフィーやカップを頂戴できるからか? は、よく分からないが、注目されている。^^
 とある世界選手権が開催されている会場である
アナウンサーと解説者が語らなくてもいいのに、しきりと語っている。^^
「どうなんでしょうね?」
「えっ!? なにがですっ?」
「いや…やはり決勝戦じゃなく決定戦に回ったというのは体調とかでしょうかっ?」
「さあ? 私に訊(き)かれましても…」
「それはまあ、そうです…」
 アナウンサーは一瞬、たじろいで黙(もく)した。すると、悪いと思ったのか、解説者が助け舟を出した。なにせ、全国ネットで実況中継されている番組である。話の棒を折る訳にはいかない。
「三位決定戦でも十分、価値はあると思いますよっ! 私はっ! それに世界の選手相手に、ここまで勝ち上がったんじゃないですかっ! 大したもんですっ!」
「そうですよねっ! そうですそうです、そうですともっ!」
 萎(しお)れたアナウンサーの声が、ふたたび、シャキッ! と回復した。
 よくは分からないが、三位決定戦に出られるだけでも大したものだということに、疑う余地はないだろう。^^
 
                    完

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