思いついたが百年目っ! ・・という気持いい歌舞伎のような言い回しがある。正確には、ここで逢(お)うたが百年目ぇ~~! とかなんだろうが…。^^ この言い回しは、ふと、思いついた以上、やってしまうかっ! …といった前向きの気分で口にする言葉だが、これを分析してみると、良い場合、悪い場合の両方があることが判明する。良い場合は、やったお蔭で間に合った、やっていなければド偉いことになっていた・・ということになる。悪い場合だと、あのときやっていなければ…と後悔(こうかい)する破目になる早とちりによる失敗などだ。
とあるサラリーマン家庭の一場面である。日曜ということもあり、この家のご主人は、かねてより思い描いていた日曜大工[DIY=do it yourself]を朝から始めていた。ところがこのご主人、そう手先が器用ではなかったから、少しやっては作業が停滞(ていたい)していた。
「これでは、昼どころか一日かかっても出来んぞっ!」
怒る相手もなく自分に切れて愚痴りながら、ご主人は、とうとう腕組みをすると、さて…と考え込んだ。そのとき、ご主人に思いつかなくてもいいのに、妙な考えが浮かんだ。
「思いついたが百年目~~っ!」
歌舞伎のようなひと言(こと)を小さく呟(つぶや)き、ご主人は何か得体(えたい)の知れないモノに取り憑(つ)かれたかのように忙(せわ)しなく動き始めた。その姿を遠目(とおめ)に、この家(や)の奥さんが眺(なが)めていた。ご主人の動きは尋常(じんじょう)ではなく、懸命に何かを探しているように奥さんには見えた。
「もう、お昼よっ! なに探してるのっ!?」
奥さんは問いかけてみた。
「この棚(たな)に置いといた缶の蓋(ふた)はっ!?」
「缶の蓋? …ああ、それなら、一昨日(おととい)、燃えないゴミに出したわよっ!」
「遅(おそ)かりしぃ~由良介(ゆらのすけ)ぇ~~っ!」
ご主人は、ふたたび歌舞伎のような言葉を小さく呟くと、作業を中止した。
分析の結果、思いついたが百年目っ! は、必ずしも百年目ではないようだ。^^
完