水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分析ユーモア短編集  <60>  歳末(さいまつ)

2019年01月29日 00時00分00秒 | #小説

 歳末(さいまつ)ともなれば、人々の動きはどういう訳か活発化する。その典型的な例が歳末商戦だ。『ホニャララ市場(いちば)は芋(いも)の子を洗うような賑(にぎ)わいを見せておりますっ! 以上、ホニャララ市場から煮汁(にじる)がお伝えしましたっ!』などと、アナウンサーが実況する人の動きである。^^ この歳末という得体(えたい)の知れない雰囲気を分析すれば、普段と何も変わりはないものの、雰囲気が一変する歴史的に培(つちか)われた伝統的な文化がその背景にあることが分かってくる。この雰囲気は、俄(にわ)かには作り得ない代物(しろもの)なのである。
 いつもはグデェ~ンとしている老人が師走(しわす)になった途端、別人のようにソソクサと動き出した。
「どうしたんですっ、ご隠居! そんなにお急ぎになって?」
 いつもと違い、歩道を早足で歩く若者のようなご隠居を見かけた酒屋の主人は、出前のパイクを止めると声をかけた。『ご隠居、ボケられたんじゃないか…』と一瞬、思えたこともある。
「君っ! 何を言っとるんだっ! 歳末だぞっ! 歳末っ!!」
 ご隠居は歳末を強調して言った。
「はあ、そうですなぁ~。今日から12月でしたっ! ははは…」
「ははは…じゃないっ! 歳末だぞ、歳末っ! こんなところで油を売っとる場合じゃないだろっ!!」
「いや、こりゃどうも…。まあ、私とこは油じゃなく酒ですがっ、ははは…」
「ったくっ! 油も酒もないっ!! 歳末は急がしいんだっ! 慌(あわただ)しいんだっ!」
「そうですなぁ~。でも、最近は余り景気がよくないのか、普段と余り変わらないんですがねぇ~」
「余り変わらんでも歳末は忙しい! としたもんだっ!」
「はあ、そういうもんなんですかねぇ~?」
「ああ、そういうもんだっ! 立ち話(ばなし)などしとらんで、さっさと行きなさいっ!!」
 ご隠居は大声で酒屋の主人を叱咤(しった)した。
 分析の結果、歳末とは慌しくしないといけない季節のようだ。^^

                                                                 


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