今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

冬の日本海

2009年01月20日 | 
冬の日本海。
灰色の陰鬱な雲が大陸からの強い季節風にとばされて流れていく。
その下では、強風で荒れた波が白い波頭をもたげ、激しく崩れ落ちる。
崩れた波が一面に白い泡となって海面上を激走し、
たどり着く先には、海側に幾重にも突き出た黒い岩壁群が、荒れた日本海にあらがうように垂直にそそり立っている。
その岩壁の頂きにひとりの男が立つ。
ここは越前・東尋坊。

その男は、一人で来たらしく、他の観光客と離れて、黙然と海を眺めている。
どうみても明るい顔はしていない。
服装は喪服のように黒ずくめ。
その男は、東尋坊の岩壁群をくまなく歩いた後、他の観光客のように帰りはせず、
自殺防止のNPO事務所ある入り口から、海に落ちる岩頭までのみやげ物屋街を行ったり来たりしている。
まるでなにかを逡巡しているかのよう。
男は、みやげ物屋の尽きる所まで進んだと思いきや、おもむろに引き返して、通り過ぎたばかりの一軒のみやげ物屋に入っていった。
その足取りは確信に満ち、先ほどまでの迷いはみられなかった。

なぜなら、全部の店をくまなくチェックした結果、その店のイカ焼きがいちばん大きくておいしそうだったから。
温泉ついでに東尋坊観光に来た私は、その店でゲソつきの大きなイカ焼きを買った。
これから、北の雄島へ向う遊歩道を歩くための腹ごなしのため。
丸々一杯のいか焼きを串のままほおばりながら遊歩道に入る。
季節柄、誰も通らない遊歩道には所々に自殺を思いとどまらせる言葉が書かれた標柱が建っている。
遊歩道の海側は東尋坊から続く垂直な岩壁。
たしかに観光客がおとずれる東尋坊よりも、人目のない遊歩道にはいった方が…。
だが今その遊歩道を一人で歩いている男は、さきほどまでの暗い顔はどこへやら、串にさしたイカ焼きを幸せそうに噛っている。

時たま海岸に降りると、沖から迫ってくるうねりが目の位置より高く盛り上がっている(津波が来る時ってこんな眺めなんだろう)。
さらに進むと、海に開かれた草原が広がる。
だが運悪く、そこに達した時、にわかに強風が暴風となり、横殴りの雨から、霰(アラレ)が襲ってきた。
目の前数メートル先には強風にあらがっているトンビが風に飛ばされそうで難儀している。
難儀しているのは私も同じで、折畳み傘はオチョコになって全く役に立たず、イタリアで買った皮のハーフコートもコーデュロイのパンツ(ユニクロ)もびしょびしょ。
さらにアラレのつぶてが全身に当り、眼鏡はワイパー(があったら)を強にしないと見えない状態。
このままでは遭難しそう。
こんな所でアラレまみれになって凍死したら自殺と思われるかな。

このまま人影のない海沿いの遊歩道を進むのは危険と思い、道からはずれて疎林の斜面をのぼり、車道に出た。
防風林のおかげか、いやむしろ積乱雲による通り雨だったのだろう、降水も強風もぴたりと止んだ。

今回の旅行は、イタリア製のハーフコートに、やはりイタリア製ハンチングをかぶり、これまたイタリア製のセーターで固めたのだが、それらがびしょびしょ。
でもズボンのほか下着のシャツもユニクロ(ヒートテック!)で、靴はビルケンシュトックの快適な革靴だが、人目に触れぬ靴下はきわめつけのショップ99!(濡れても構わん)
この出で立ちで車道を歩いていると、地元ナンバーの車が止って、酒屋の行き先をたずねてくる(ハイカラな都会人には見えなかったか)。
酒好きの地元民でないので(酒好きではあるが)、当然、教えられない。

雨が止むと日差しも出てくる。
雄島にかかる朱に塗られた橋を渡っていると、日本海をまたぐ虹まで出てきた。
運がいいのやら悪いのやら。
すくなくとも冬の日本海を味わったのは確かだ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。