武蔵と相模の国境(神奈川県内)を画した境川を歩く第2弾(前回は町田から上流方向→境川を歩く1)
今回は中流域をすっ飛ばして、藤沢から下流の河口部を歩く。
一般的に、河口部は源流部とともに”川歩き”のクライマックス部分といえるが、東京などの大都市部の河口部は、濁って淀んで死んだ川になって感動どころか気分が沈んでしまうため、都内では河口を起点に源流に向かって歩くようにしている。
境川は、神奈川でも川崎・横浜の都市部から西にはずれて流れ、河口は東京湾ではなく太平洋に開いた相模湾に注いでおり、しかも河口の先、延長上に江の島がある。
江の島はほとんど陸続きの島のため、古来から普通に行き来があり、鎌倉に近いこともあって歴史を刻んでいて、今では”湘南”の起点として海水浴やマリンスポーツの地となって単独で観光地となっている。
もちろん私も過去幾度も訪れたことはあるが、せっかくなので久しぶりに島も堪能したい。
歩く起点の藤沢までは交通費節約(片道235円分)を優先してJRではなく小田急で行く。
小田急沿線の歩きでは、駅に隣接する「箱根そば」で歩き前のエネルギーを充塡する。
駅から東に進み、大道橋という橋で境川に達する。
街中の川なので両岸はコンクリ壁だが、流れもけっこう速く、水は澄んでいる。
ここから川の右岸※沿いの歩道を南下する。 ※:上流から見て右側
ここの歩道も桜の並木になっていて、一般的に”川歩き”は桜の季節がベストだといえる。
河口から4kmという標識があり、海抜高度も記されている(この先0.5kmごとに標識がある)。
川には鯉が群れていて、鴨などの水鳥もいる。
川沿いにずっと歩道があるので、川歩きとして楽しい。
時折、川を横切る道路を横断するが、いずれも車が途切れたタイミングで、立ち止まらずに渡ることができた。
江ノ電(藤沢に向かう)が走る鉄橋をくぐると、道沿いの木々は松※になり、川の鳥もカモメになって、海が近いことを知らせる。※松は潮風に耐えられるので海岸は松林ばかり。
行く手に江の島が見えてきた(写真:中央やや右奥のタワーが目印)。
川の対岸の奥の丘には龍口寺(鎌倉腰越)の仏舎利塔も見えてきた。
行く手の江の島が大きくなり、川沿いの家にサーフボードが立て掛けられるのを見るようになると、小田急の「片瀬江ノ島」※駅は近い。
※この地では、江の島、江ノ島、江島表記が混在している。
駅前で左折して、もう河口と言っていい弁天橋を、観光客と一緒に渡る。
ここまでで約1時間だった。
観光案内所の脇からいったん地下に下って(道路をくぐって)再び地上に出ると、江の島に渡る道となる。
私の気持ちはまだ境川にあるので、江の島に向かう観光客の行列から外れて、境川の河口部の左岸に向かう。
ここからクルーズ船(1人1000円)が出て、江の島付近を一周している。
乗ってみたいが、1人客だと乗りにくい(かといってカップルと相席になるのもどうも…)。
実は江の島に行く遊覧船もあるのだが、残念ながら今は運休中。
境川左岸の突端近くまで行き(そこから先は立入禁止)、境川歩きは終了。
ここから江の島弁天橋に移って、境川の河口を真横に見ながら、江の島に向かう(写真:右中段が河口)。
江の島に達した先は土産物屋と食堂が並ぶ一本道で、そこを抜け、石段を上がると弁天が祀ってある江島神社(辺津宮)。
500円払ってここだけにある裸弁天と定番の八臂弁天を拝む。
ここの参拝客は皆、静かに合掌し、柏手を打つ人はいない。
弁天は(今でこそ維新後の)神社に祀られているが、本来は仏教に属するインド由来の神(サラスバティ)であるから、少なくとも神道神ではないので、参拝は神式より仏式の方が妥当といえる。
なので、参拝客の”妥当”な所作に感心した。
またここは弁財天と表記しているが、ご本人が琵琶を弾いているように、本来は芸能神なので、弁才天が正しい(元のサラスバティもビーナというインドの弦楽器を弾いている)。
私はこの神社で弁天の御影を買う(八臂弁天のみ:500円)。
ここから先の道には、エスカというエスカレータもあるが、今日は歩きが目的なので歩いて坂を上る。
中津宮を巡って、タワーのある高台(江の島の最高点)に出て、下りに入った所にある江の島大師という真言宗寺院に入る。
靴を脱いで本堂に入り、本尊の不動明王を参拝する(不動明王の印を結んで、真言を唱える)。
道沿いには、おいしそうな海鮮料理の食堂が並ぶ。
今回は川歩きが目的なので事前に箱根そばを食べたが、江の島を目的にするなら、こういう店で食べたい。
「山ふたつ」という地名の江の島を二分する断層部に出ると、南の海側に関東大震災で隆起した海蝕台が見える(写真)。
ここから見るそれは、幼い私を夢中にさせた「キングコング対ゴジラ」の映画で、キングコングが棲むファラ島の上陸場面のロケに使われた、忘れることのできない風景。
映画では、今私が見ている場所はファラ島の奥地に当り、私の背後にキングコングが棲んでいるのだ。
さらに映画では小山のような大ダコ(本物の蛸が出演!)が上陸してこの地にあった小屋の島民を襲うが、さらに巨大なキングコングに撃退される。
奥津宮と昔はなかった龍宮を巡り、石段を下って島南部の隆起した海蝕台に降り、
さらに進んで、江の島の岩屋に入る(500円)。
ここが江の島(弁天)の”秘所”※で、最も神聖な場所。 ※:推理作家松本清張の解釈
一番の奥地には、あえて気分がでるようにと蝋燭の灯火を手にして進む。
ここは波の侵食を奥まで受けた所が、その後隆起して海水が抜けて洞窟になったもの。
洞内には弁天や観音などの石仏が並ぶが、いずれも女性を模している(写真は弁天)。
ここを訪れたという弘法大師は伝説だとしても、源頼朝、北条時政、そして一遍上人も来ている(江戸時代にはもう観光地になっていた)。
ここが到達点で、あとは往路を引き返す。
途中、海蝕台で潮だまりを見て、高台のサムエル・コッキング苑に200円払って入って、売店でコップの周囲をぐるぐる回るストロー付きのコップを2人の姪向けに購入(このコップここでしか見たことがない。これを買うのも目的だった)。
2つの弁天橋を渡って小田急の片瀬江ノ島駅に達する。
駅のコンビニで、江の島名物の蛸の丸焼きせんべい(400円)を2枚土産に買った(映画の大ダコを思い出す)。
江の島はただ島内を歩いただけだが、往復して3時間かかった。
それだけ観光地として充実しているということ。
ここに来るなら、ストイックな”歩き”の延長ではなく、遊覧船で渡って、しらす丼を賞味し(できたら江の島ビールも)、富士を眺めながら温泉に浸かれば、さぞ充実した観光となる(サムエル・コッキング苑では夜のイルミネーションもきれいらしい)。
観光に足りなければ、江ノ電に乗って鎌倉に行くのもいい。