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今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

安宿チェーンの存在意義

2017年10月02日 | 

「湯快リゾート」のような4桁の額で温泉とバイキングが楽しめるチェーンホテルを、
私が「安宿チェーン」と呼んでいるのは、決して見下しているからではない。
”安さ”を売りにしながら、それなりに観光地の温泉ホテルで、
バイキングでたらふく食べたという満足感を客に提供してくれているのだから、見上げたものである。

といっても、毎月の温泉旅をノルマにしている私にとっては、
今月は出費を抑えたいがそれでも温泉宿には泊りたいという場合の妥協の選択肢であって、最初の選択肢には入らない。

この種の宿は、客層にも特色がある。

たとえば、今回の夕食時、バイキング会場の私の隣の卓は、30代の父親と小学校入りたてほどの女の子の2人客だった。
そういえば、前回も母と小さい子だけの2人客がいた。

宿の浴衣を着た女の子は黙々と皿に盛った料理を食べている。
その間父親は手元のスマホ画面を見続けている。
女の子はまるでたった一人で食べているに等しい状態で、退屈しているように見える。 
他の家族の子のようにハイになっていない。

父親の態度が気になった私は、心の中で「もっと子どもに話しかけなよ」とやきもきしてしまう。

やがてその父子はともに席を立ち、それぞれ別の方向に向った。
父親は新たな料理を、女の子はジュースを持ってきた。
ジュースを口にした女の子は、はじめて笑顔を見せ、父親に話しかけていた。

その笑顔を見て、私もホッとした。

勝手な想像だが、余裕のない父子家庭でありながら(父子家庭の場合は経済的というより時間的な余裕がないだろう)、
こうやってわが子を温泉宿に連れてきて、そして普段の生活では経験できないバイキング料理を好きなだけたべさせているのだから、
どこにも連れて行かない(行けない)家庭と比べたら、ずっと幸せだ。
もしかしたら、父親はわが子と旅行に来れただけで満足し、食事の間もスマホで仕事を進めていたのかも知れない。
いつもは忙しいお父さんと、やっとできた旅行。
きっと、女の子にとって、一生忘れない思い出になることだろう。

このホテルの従業員は、食事中の客に記念写真のシャッターを押すサービスをしてまわっている。
この父もスマホのカメラを従業員に手渡した。  

生活に余裕のない母子家庭や父子家庭でも、このような貴重な家族の思い出作りを可能にしてくれるのが、
いつでも安い定額料金で泊れる「安宿チェーン」なのだ。

安宿チェーンにつきもののバイキングも、好き嫌いが多い子ども(食べつけないものは拒否する)にとって、
好きなもの・食べられるものが自由に選べるのでありがたいはず(高級料理ほど、子どもにとっては見慣れない不気味なもの)。

安宿チェーンだから目にする、このような事情のありそうな親子を見るたびに、
彼らにささやかな幸福を提供するこの種の宿の社会的存在意義を感じる。
あの撮影サービスから、宿側も自分たちの社会的役割を自覚しているようだ。 

もっとも、今宵の会場で一番幸福に見えない客は、
その親子の隣でたった一人で手酌でビールを飲みながら、隣の親子連れを気にしている寂しげな男に違いない。