先週の日曜は、愛知・長野県境の茶臼山での計測をし、帰京した今週の日曜は、千葉県市原市の養老渓谷の手前にある地磁場逆転層のチバニアン(まだこの名称は使えないのだが※)に、その磁場の逆転具合を測りに行った。
※2020年1月、この名称が正式決定した!おめでとう!
約77万年前から12万年前までの地質年代名が「チバニアン(千葉時代)」に決まったら、この地は世界的名所になって、その露頭(地層が出ている所)に近づくことすら困難になるだろう(保護と混雑によって)。
なので露頭に直接触れることができる今のうちに訪れておきたい。
この地へは、東京からだと総武線・内房線と乗り継いで、五井駅で小湊(コミナト)鉄道に乗換える。
小湊鉄道はディーゼルのローカル線で、便は2時間に1本ほどなので事前確認を怠りなく(上総牛久〜養老渓谷間は、 小型SLが牽引するトロッコ列車も走る)。
房総半島の山は標高300m程度と低いものの、養老渓谷付近は半島の中央部で一番山深い。
その里山の雰囲気を味わいながら、無人の月崎(ツキザキ)駅で降りる。
無人ながら駅前にトイレがあり、向いの一軒屋がコンビニになっている。
またレンタサイクルが1台だけある(100円を箱に入れる)。
本当なら自転車で付近を回るのが効率的なのだが、あいにく駅に着いたら雨になっていた。
これから雨足が強くなったら、雨具なしの自転車だとかえってつらいので、傘を差して歩くことにした(片道2km程度)。
途中、永昌寺トンネルという手掘りの隧道(現在も使用中)を見る。
この付近には手掘りトンネルが多い。
雨の養老川にかかる橋を渡り(この付近はまったく自然の風景)、田淵の公民館を示す細い道路を右折して、その公民館前に達してはじめてチバニアンへの案内板が出る(ここに駐車できる)。
それによると、ここの地磁場逆転層の正式名称は「松山逆磁極期の地層」というもので、その松山逆磁極期(地球の磁場が南北逆転していた時期)は今から240万〜70万年前だという。
その先に、詳しい説明板がある。
それによると逆転している地層はもとは深海層で、それとは別に現在の富士山の基盤となっている古御岳※の噴火(説明板では「長野県の古御岳」とあって木曽御岳と勘違いしているようだ※。木曽御岳の噴火は10万年前)による堆積物が凝固した凝灰岩層もあり、火山の恐ろしさを伝えている。
ここからいよいよ河原に降りる一本道になる。
※こう書いたが、やはり木曽御岳で正しかった〔2020年6月)。
雨の河原に降り立つと、先客と目が合い、挨拶をする(現在の段階では、互いに一般観光客というより同好の篤志家という認識)。
岩畳の河原を左に進むと、垂直になった岩壁の露頭が現れる(写真)。
その壁面に赤い杭が上下に連続して打ってある所が逆転層を示しているようで、そこに向かうが岩がつるつるで滑りやすい。
ここはまだ観光地でないので、安全策がとられておらず、転倒・滑落は自己責任(との立て札がある)。
さて私は、ここで計測マンに変身し、バッグから磁力計を取り出し、スイッチを入れ、プローブ(棒状センサー)の先を露頭に近づける。
この露頭はおおざっぱにいうと南に面しているので、磁力計の極性はNを示す。
赤い杭に沿って上から下にゆっくりプローブを移動すると、 Nの磁力の値がどんどん下り、ついに負の値すなわちSとなり極性が逆転する(写真)。
ここが逆転層なのだ。
逆転層を示す赤い札が壁面上部に打ち付けてあるが、そこは高すぎて届かない。
ただ下部の逆転層は磁力そのものの値が低いため、極性は逆転しても、手持ちの方位コンパスは反応しなかった。
またスマホアプリのテスラメータ(磁力計)は空間解像度が粗いためか、逆転層に近づけても通常値のままだ。
雨の中、私の他に2組の客がいる。
その中の1組(熟年夫婦)がスマホアプリの方位コンパスをかざしていたので、私はお節介にも、それではだめで、私のコレでないと確認できませんと教え、私の磁力計の液晶画面に注目させ、プローブを移動して極性ががNからSに変わる瞬間を見せる。
それを見ていたもう1組の母娘は計器を何も持っていないようで(手ぶらでは何もわからない)、私の所にやってくる。
もちろん私は得意になって計測を再演する。
2組の客は、偶然居合わせた私によって、磁極逆転の境界を数値として目にすることができたわけだ。
言い換えれば、素人衆が手ぶらで(コンパスやスマホのアプリを持って)ここに来ても、ここに逆転層があるという看板以上の情報・体験は得られない。
客らが帰った後、こっそりダウジング・ロッドを取り出し、露頭に向けてかざしたら、右回転の円運動をした。
ここで、訪問予定者のために、注意事項を記す。
まず河原自体が平な露岩で滑りやすい。
「長靴が必要」と言われているが、確かに普通の靴では危ない。
私は川に入ってもOKなアウトドア用のサンダルで来たが、底の凹凸が乏しいので、雨の中の岩壁の登降で滑らないよう気を使った。
あいにく雨が本降りになったものの、傘があれば見学には支障がない。
だが雨後の増水期になると河原が水没するので、見学は不可となる。
帰りの鉄道便には時間があるので、ちょっと遠方の月崎トンネル(永昌寺トンネルより大規模な手掘り)を見に行こうと思ったが、雨足が強くなったので途中で引き返した。
無人の駅舎で雨宿りをするしかない。
樹木が多いため、雨の中の鉄路も味がある(写真)。
さて、このチバニアンの計測結果だが、先週にコンパスがぐるぐる回るほどの磁気異常の茶臼山カエル館に行ってきただけに、計測値レベルでは正直インパクトに乏しかった。
もちろん、こちらは天然自然の異常値で、特定期の露頭として地質学的価値があるのだから、それを計測で確認できたことはいい体験だ。
雨の中だったので、傘に片手を使われ、滑りやすいこともあって、充分計測に費やせなかった。
養老渓谷と合せて、もう一度来てもいいかも。