このほど発行された
『中国研究集刊』第43号にて、注目すべき論説が発表されました。佐藤将之氏による「職業としての中国思想研究 ――『ワーキング・プア』化する若手研究者」です。
中国古代思想の若手研究者は日本で相当数存在するものの、大学での無期限の研究職の募集は皆無に近く、彼らは将来の展望もないままフリーター同然の生活を強いられている。海外では近年の出土資料の増加によって活発な研究活動が行われ、国際分業によって出土資料の解読・研究が行われているが、日本の学会は国際化に乗り遅れた結果、こうした分業体制に加われないでいる。また国内では自らの研究成果を現代中国理解に結びつけられず、世間からは無用な学問であると見なされている。
しかし学会の重鎮はこうした惨状を直視しようとせず、状況改善のために努力しようとすらしない。このままでは25年ほどで日本では中国古代思想の研究分野は消滅してしまうであろう。かつ、25年と言わず明日をも知れぬ若手研究者は国内での就職に見切りを付け、台湾や中国本土など海外での就職の道を探った方がよかろう。
こういった主旨です。ここでは著者の専門である中国古代思想の分野の状況を中心に紹介されておりますが、人文科学・社会科学ひっくるため文系の学問分野の状況はいずれも似たり寄ったりだと思います。私などはこれを読んで「ああ、やっぱりそうだよな」と暗澹たる気分に覆われています。まあ、いつかは誰かが言わねばならなかったことですよね……
たまたま読んでいた小倉芳彦『古代中国を読む』(岩波新書、1974年)にこの問題に関わる印象的な一節がありましたので、それを引いておきます。
たとえば古代中国の〈専門家〉のばあいで言えば、「文革」論議に野次馬的に加わる必要はむろんないが、といって、自分は古代〈専門〉だから現代中国にはかかわりがない、と逃げることは許されぬ。むしろ〈専門家〉は、〈専門〉の領域での研究を通じて、いまの中国の理解に問題を投げかけるような研究をすべきである旧中国を研究すればするほどいまの中国が見えて来る、そういう研究がしてみたい。 (197頁)
「文革」のところは、さしあたって「反日」や「食品の安全性」「環境破壊」といった時事問題を置換するとわかりやすくなるでしょう。